【レポート】

CREATIVE WORLD 2006 - あの「大神」のタッチ、モーションはどう実現!?

あの「大神」のタッチはどうやって?

六本木ヒルズ アカデミーヒルズ40において7日、クリエイター・デザイナーのためのセミナー「CREATIVE WORLD 2006」が開催された。テーマごとに10のセミナーが開催されたなかから、毛筆のようなタッチが特徴のプレイステーション2用ゲームタイトル「大神」開発スタッフによるセミナー「『大神』~筆のタッチを活かしたビジュアルづくり~」をレポートする。

セミナーの講師には大神の発売元であるクローバースタジオからキャラクターデザイナーの吉村健一郎氏、モーションデザイナーの山口孝明氏、背景デザイナー片貝直紀氏の3人が招かれ、デジタルスケープの西村和久氏との対談形式で講演は進められた。

このセミナーは、主にクリエイターの卵を対象に開かれたセミナー。ゲーム製作現場の実際、つまり企画から制作といった流れの紹介が主な内容ではあったが、キャラクターデザイナーの吉村健一郎氏は、その講演のなかで「大神」の独特なタッチを実現した表現手法を披露した。

「大神」の独特のタッチ。実は3Dの映像だ(提供: カプコン)

トゥーンシェーダーを使わない"コロンブスの卵"的手法

3Dゲームでありながら2Dのような暖かみ、それも水墨画のようなタッチを表現するために用いた手法は、非常に簡単な手法だ、と氏はいいながら、主人公アマテラスのモデリングデータを示した。リソースが限られたプレイステーション2でタッチを表現するために、まず基本となるモデルと、それをひとまわり大きくしたモデルを用意する。ひとまわり大きなモデルの方のサーフェイスを反転させることで、そこに黒い輪郭が生まれる。さらにこの輪郭部分に筆のような強弱をつけるため、ひとまわり大きなモデルにはランダマイズを施す。これで毛筆で描かれたようなタッチが表現されるという仕組みだ。一般的にムービーなどで用いられるトゥーンシェーダーは用いていないというのは驚きだ。

これに貼るテクスチャも非常にシンプル。128×128ドットのテクスチャが2枚と64×64ドットの牙のテクスチャが1枚。毛並みの表現に用いられているのはテクスチャアニメーション。基礎的な技術を応用することで、一見すると複雑にみえる表現を少ないリソースで実現し、ゲームとのバランスをとっていると同氏は語った。

ヒトが触って"気持ちいい"ことがモーションの重要な点

では、モーションはどうだろうか。モーションデザイナーの山口孝明氏は、「狼になって走り出したい気持ちになる」をコンセプトに挙げて制作過程を紹介した。

まず最初に、ヒトやイヌなど、人が普段見慣れているものほど些細な箇所で違和感を覚えてしまうと指摘。膨大な映像資料などを参考にモーションを作成、そのモーションをフレーム単位で観察することで、その関節の動きなどが理解できたという。これを1ヶ月程度繰り返せば、資料にはない動きまでも作れるようになったと語る。

「大神」のワンシーン。普段見慣れているものほど、些細な相違が致命的になる(提供: カプコン)

しかも、これをゲームにそのまま利用するのではないそうだ。コンセプトに挙げた「走り出したい気持ちになる」ためには、カートゥーン的な手法も必要であると言い、大神では激しい動きや素早い動きの際には「スケーリング」を用いていると紹介した。

例えばアマテラスが疾走するシーンなどでは通常姿勢のモデルと比べ手脚の長さがぐんと伸ばされ、躍動感を表している。モーションの仕事では、もちろんこの伸びを表現するリブ構造も用いられているほか、動物独特のせわしない呼吸のためにもやはりリブ構造を用意しているという。こうしてリアルとカートゥーン的表現がミックスされている点が披露された。同氏は、ゲームにおけるモーション制作で重要な点として「さわる(遊ぶ)人がさわってみて"気持ちいい"こと」を挙げた。リアルなだけでは駄目であり、そこに演技を加えることが重要であるとのことだ。

"線の密度"ではない表現で背景を"描き込む"ということ

最後の講演者は背景デザイナー片貝直紀氏。リアル表現とは正反対の大神の表現において、苦労した点などとともに、制作過程が紹介された。

リアルな背景の場合にはテクスチャの描き込みが重要になってくるが、大神の場合には、その描き込みがある意味"余計な線"になってくる場合もあると同氏。密度ではない表現で背景を描かなければならない大神では、逆に線を減らすこともあり、近景よりも遠景が重要だったと話した。

「大神」のワンシーン。線の密度ではない表現が求められる(提供: カプコン)

なお、大神では背景は3つのレイヤーで構成されているとのこと。地面などのベースに加え、建物などの背景の一部でありながら動きのある物体、そして風や水の流れといった効果の3レイヤーに分かれていると説明した。ここでひとつ披露されたテクニックは風の表現。ぐるりと巻いたつむじ風のようなモデルにUVアニメーションをかけて、水墨画のようなタッチに合わせた風を表現しているとのことだ。

また、大神ではプレイステーション2で最終的に画面出力を行う際、いくつものフィルターを利用していると紹介した。同氏が例として挙げたのは、「和紙フィルター」と「墨フィルター」。和紙フィルターは、レンダリング結果に対し、わずかなノイズをかけることで、テレビに映し出すのではなく和紙に描いたようなザラつき感を再現する。墨フィルターは、モデルのアウトラインを補助し、より目的のタッチに仕上げるためのもの。具体的にはRGBで緑のチャンネルのしきい値以下を黒く塗りつぶすといった処理を行っていると紹介した。

CGデザイナー早野海兵氏の作品を展示した「Track of Kaihei Art」

このように、モデリング、アニメーション、背景・効果などがそれぞれ大神のコンセプトであるタッチに合わせ、ひとつの作品として完成していく作業工程がかいま見えた講演だった。制作過程でのアイデアやテクニックを聞ける貴重なイベントと言えるだろう。講演後には若干の質問タイムも設けられ、若いクリエイター達は、実際の制作サイドのスタッフに"現場"に関する質問をしていた。CREATIVE WORLD 2006ではこうしたセミナーのほか、協賛企業の製品展示や、CGデザイナー早野海兵氏の作品を展示した「Track of Kaihei Art」も開催された。

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