【レポート】

ピクサーのマット・ペインターが語る、ピクサー流制作プロセス

1 「スター・ウォーズ」でマット・ペインティグの素晴らしさを学んだ

    山田久美  [2006/07/10]

    Apple Store, Ginzaで6日、ピクサー・アニメーション・スタジオのマット・ペインター(背景画ペインター)ポール・トポロス氏が、アニメーション映画「Mr. インクレディブル」「カーズ」に関する製作秘話を語るというイベントが開催された。平日の夕方にも関わらず、定員約150名の会場は満席で、立ち見の人も数多く見られた。

    ピクサー・アニメーション・スタジオのマット・ペインター ポール・トポロス氏

    CG映画のピクサーが、マット・ペインターを雇うとは夢にも思わなかった

    「Mr. インクレディブル」は2004年に公開されたディズニーの3Dアニメーション映画、「カーズ」は同じく2006年公開中の3Dアニメーション映画。これらを制作しているのが、ジョージ・ルーカス監督のルーカスフィルムのCG部門が独立してできた「ピクサー・アニメーション・スタジオ」である。今回のイベントには、同スタジオでマット・ペインターを務めるポール・トポロス氏が来日。両作品に関するマット・ペインティングの手法を、両作品で使われた実際の画像や動画を使って分かりやすく紹介した。

    「マット・ペインティング」とは、実写で行うと、莫大な費用や時間がかかってしまう風景などを、背景画として描いて、映像に合成する技術のこと。現在は、コンピュータの発達により、ソフトウェアを使って、PC上で写真などを加工して描かれる場合が多い。トポロス氏によれば、元々は、油絵の具やアクリル絵の具などを使った手描きで行われており、映画と同じくらいの長い歴史を持っているものだという。

    トポロス氏自身も、ピクサーで「Mr. インクレディブル」のマット・ペインティングの仕事に携わる前は、ルーカスフィルムで、長年にわたり実写映画のマット・ペインティグを行っていたという。トポロス氏はマット・ペインターになったきっかけをこう語る。「私は元々『スター・ウォーズ』の大ファン。スター・ウォーズで、芸術、美術、デザイン、クラシック音楽、マット・ペインティグの素晴らしさのすべてを学びました」(同氏)。

    「ずっと、実写映画のマット・ペインティングが専門でしたので、ピクサーのようなCGの映画会社が、私を雇うとは夢にも思いませんでした。ところが、CG映画でも、すべてCGで作るのは非常に費用や時間がかかってしまうため、マット・ペインターを必要としていたのです」と説明した。ルーカスフィルムからピクサーに移籍する際、決断の決め手となったのが、「Mr. インクレディブル」の絵コンテを見せてもらい、ストーリーの秀逸さに感動したことだったという。

    2Dか、3Dか、マット・ペイントの手法を決めるポイントはカメラーワーク

    さて、マット・ペインティングに関する映画制作のプロセスであるが、まず、監督がプロダクション・デザイナーに、どういうシーンを制作するかイメージを説明する。それを受けたデザイナーが、そのイメージをパステル画にしたり、時には口頭で、マット・ペインターであるポール・トポロス氏に説明するという。そのディレクションを受けて、同氏が背景画(マット・ペイント)を仕上げていくのである。

    現在、マット・ペイントは2Dで描かれるものと3Dで描かれるものがあるが、カメラがどういった動きをするシーンであるかによって、使い分けているとのこと。「車が走るシーンが多い『カーズ』の場合、背景画の動きも激しいため、3Dを多用したほか、レイヤーもたくさん使い、画像をマルチレイヤーにすることで、激しい動きに対応しました」(同氏)。

    カラーによって感情の起伏を表現する

    具体的なマット・ペインティングの手順としては、まず、デザインを決め、カラープラン(色設計)をもらう。そして、幾何学的な構造を決め、ペインティングをしていくという。

    「映画におけるカラープランは重要です。色によって感情の起伏が表現できるため、映画のストーリーに従って色のプランを決めているのです」。たとえば「Mr. インクレディブル」のカットを使った説明では、主人公のボブが活躍しているシーンはカラフル、落ちぶれたボブの生活を表すシーンではあまり色を使わない、という配慮がなされてるそうだ。そして、ペインティングが終われば、Macintoshを使って画像を取り込む。

    映画におけるカラープランは重要。これは映画の1カットずつが並んだものだが、1段目は「Mr. インクレディブル」の主人公のボブが大活躍しているシーンなので非常にカラフル、2段目は落ちぶれたボブの惨めな生活を表しているシーンなのであまり色を使っていないという

    ペインティングの手法としては、実際の写真をベースにレンダリングし、それにペインティングを施していくもの、形状にテクスチャを貼り、凹凸(おうとつ)をつける「ディスプレイスメント」と呼ばれる手法を使って背景画を完成させていくものなどがあるという。

    イベントでは、ポール・トポロス氏が、ディスプレイスメントによるビルのマット・ペインティングの作業工程について詳しく説明してくれたので紹介しよう。

    まず、ディスプレイスメント手法によって、白い部分が浮き出して前に出るように、黒い部分が後ろに下がるようにする。そこに、柱、窓、レンガなどのバリエーションを付けていく。そして、最後に細部を書き込んで完成する。こうやってできたビルの壁は、映像の背景画として取り込まれる。

    白い部分を浮き出させ、黒い部分がへこんで見えるように加工する

    柱、窓、レンガなどを付けていく

    完成したビルのレンガの壁

    完成したレンガのビルは、映像に取り込まれて使用される

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