【レポート】
先日、とある取材で映画版『デスノート』の監督、金子修介氏に話を聞く機会があったのだが、そのなかで「最近のお客さんは、邦画だろうが洋画だろうが"面白そう"ならば、観に来てくれる」と話していたのが、非常に印象的だった。実は、これ以前にも、日本を代表するヒットメーカーである秋元康氏(最近では、映画『着信アリ』シリーズで企画・原作を手掛けた)に取材した際にも、同様の発言を聞き「なるほど」と思ったのだが、実をいえば、映画界におけるふたりのキャリアは、意外にもよく似ている。
'55年生まれの金子氏は、'84年ににっかつロマンポルノで監督デビュー。その後、80年代終盤から商業映画に転身し、大映『ガメラ』シリーズを手掛けるなど、娯楽映画を幅広く手掛けてきた。一方の秋元氏は'56年生まれ。ご存知の通り、おニャン子クラブやとんねるずを手掛けたのち、'89年の映画『君は僕をスキになる』で企画を担当し、90年代はアニメと実写を行き来しながら、何本もの作品を世に送り出してきた。
つまり、彼らが本格的に仕事を始めた90年代初頭は、日本映画の"冬の時代"。日本映画製作者連盟の調べによれば、'60年にピークだった映画館数(7,457館)は、'70年にはほぼ半減(3,246館)。その後もじりじりと減少を続け、'98年には2,000館を割り込む結果となる。また、興行規模の拡大などから配給収入自体は増えたものの、80年代以降、洋画にシェアが喰われる状態が続いている。
そうした状況が、少しずつ好転し始めたのは、2000年代に入ってから。それまでスタジオジブリや東映、『ドラえもん』シリーズといったアニメ作品が占めていた興行収入のトップ10に、ポツポツと実写のヒット作が入り込み始める。『ホワイトアウト』や『踊る大捜査線 THE MOVIE2』『世界の中心で、愛をさけぶ』などが、大きな話題を呼んだことは記憶に新しい。また、それにつられて、公開される本数自体も増加。去年、封切られた邦画の本数は356本。実に30年前、1976年頃の水準に戻ったことになる。
もちろん、当時と今では、映画を取り巻く環境はまったく異なる。依然として、映画会社が主となって企画を進めているのは変わらないが、テレビや出版社といった他業種からの出資はごく当たり前のものに。また、電通や博報堂など、大手広告代理店がプロデュース企業のなかに入っていることも珍しくない。
そうした現在の状況のなかで、ひときわ目立つのが、コミック原作作品の多さだ。矢沢あい原作の『NANA』が、興行収入40億円を突破し、昨年の興行収入ランキングの4位にランクイン。このほかにも『ALWAYS 三丁目の夕日』(西岸良平)、『海猿』(佐藤秀峰)、『タッチ』(あだち充原作)などがヒット。コミック原作企画は、間違いなく、今の日本の映画界において大きな場所を占めている。
記事の冒頭に挙げた『デスノート』(大場つぐみ・小畑健)は、公開1週間で70万人を動員する勢いを見せ、11月に公開される後編とあわせて100億円の興行収入を見込む。原作は『週刊少年ジャンプ』で連載がスタートするや否や大きな評判を呼び、コミックスは累計で1,400万部を突破、まさに去年の漫画界を賑わせた作品だ。
デスノート(前編)
顔を思い浮かべて名前を書くだけで、相手を殺すことのできる"デスノート"を手に入れた青年・矢神月(ライト)は、そのノートを使って、すべての犯罪者を一掃。犯罪のない理想の社会をつくろうと企てる。一方、次々と発生する凶悪犯の謎の死に不審を抱いた警察は、これまで数々の難事件を解決してきた私立探偵・Lとともに、その主犯と目される殺人犯"キラ"を追い始める……。
次々と追加されていく、デスノートの"ルール"と、それに翻弄されつつも利用していく月とL。ふたりの息づまる頭脳戦が、どんな風にスクリーンに描き出されるのか。
- 丸の内プラゼールほか全国松竹・東急系にて上映中
(C)2006「DEATH NOTE」 FILM PARTNERS
主人公の月役には人気俳優の藤原竜也、対する正体不明の名探偵(?)L役には『男たちの大和』での演技が印象的だった新鋭・松山ケンイチをキャスティング。また、月のサポート役(?)として登場する死神・リュークは、全編CGで登場(エンドクレジット以外では声優が伏せられていることも注目を集めた)。CG制作にはこれまでにも映画『APPLESEED』などを手掛けたデジタルフロンティアが参加している点も見逃せない。さらに、本編の一部を深夜のテレビで公開するという前例のないPR展開など、話題に事欠かない作品となっている。
もう1本、こちらも要注目なのが、羽海野チカ原作の人気コミックの映画化『ハチミツとクローバー』。美大に通う貧乏学生の、甘酸っぱくも切ない青春を描いた作品だが、先にフジテレビで放送されたアニメ版が大きな話題になった。
ハチミツとクローバー
物語の主人公は、純朴青年の竹本、常に冷静沈着でクールな真山、そして天才的な美術の才能の持ち主だが言動は桁外れの奇人・森田――同じ下宿に住む彼ら3人に、可憐な天才少女・はぐみ、真山に片想いする山田あゆみを加え、5人のそれぞれの思いが複雑に交錯する。
- 7月22日より渋谷シネマライズ、新宿ジョイシネマ3、池袋シネマサンシャインほか全国ロードショー
(C)羽海野チカ/集英社
今回の映画版では、基本的な設定はそのままながらも、ストーリーを大胆に翻案しているのが大きな特徴だろう。5人の"群像劇"という基本ラインは押さえながらも、原作以上に、誰もが一度は経験したことのある、青春の1ページを丹念に描き出している。監督を務めるのは「KDDI」やサントリー「BOSS」のCMを手掛け、国内外で高い評価を得る、人気CMディレクターの高田雅博。主演陣も、竹本役には櫻井翔、花本はぐみ役には蒼井優。さらには伊勢谷友介、加瀬亮、関めぐみといったフレッシュな顔ぶれをキャスティングしているのも、見どころのひとつだ。
この『ハチミツとクローバー』は、今後の原作映画のあり方を考えるうえでも、キーになるかもしれない。これまで、映画なら映画、アニメならアニメといった具合にバラバラに売り出されていた"映像化権"だが、この『ハチミツとクローバー』では、制作元のアスミック・エースが映画とともに、アニメの映像化権を取得。いわゆる"オールライツ"で制作されており、そのため、6月29日より放送を開始したテレビアニメの続編『ハチミツとクローバーII』との連携など、さらにビジネスを広げるような試みを行っている。こうした点に注目しておくのも面白い。
このあとも、川原泉の名作『笑う大天使』(主演は上野樹里)、あだち充の『ラフ』、中原アヤの『ラブ★コン』など、コミック原作の実写映画は目白押し。大きなヒットとなった『海猿』や『NANA』は、早くも続編の制作が決定している。作品認知度とプロモーションの相乗効果、さらには観客動員数の予測が立てやすい点など、興行する側にとっても、コミックの映画化はメリットが多い。
また観客側にも、コミック原作だろうと日本映画だろうと"面白ければそれでいい"という感覚が着実に根付きつつある。
徐々に拡大しつつある日本映画界が、コミックをバネに、さらなる飛躍を見せるのか。これからが勝負になりそうである。
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