【レポート】

復活した夢の飛行船「ツェッペリンNT号」

3 空の豪華クルーズ再現なるか……

    湯木進悟  [2006/06/28]

    クリーンかつエコロジーな飛行を実現

    ツェッペリンNT号のゴンドラには、乗員2名、乗客12名が搭乗可能で、通常は地上300m以上の高度を最高時速125kmで飛行。高層ビルなどがないエリアでは、地上から約150mの高度をキープした低空飛行が行えるという。船内の窓は自由に開閉できるようになっており、まるで上空で自転車をこぐような、ゆったりとした速度で遊覧を楽しむことができる。また、好みの場所では、しばらくの間静止(ホバリング)してもらうといった優雅な飛行も実現する。

    ツェッペリンNT号には乗員乗客14名が搭乗できる

    飛行中でもキャビン内の窓は自由に開閉できるようになっている

    地上近くを飛行するため、乗船中の眺めは最高!

    ある女性搭乗者は、「正に自然と一体になっているという感じでしょうか。同じ空を飛んでいるのに、飛行機で移動する時とは、全く異なる時間が流れるんです。こんなにも地上の近くを飛行しますから、街路樹ならば木の葉まで、海ならば潮目まで眺められる魅力があります。鳥になって空を飛び、地上でのいろんな煩わしい出来事もすべて忘れてしまう……。そんな贅沢な気持ちを味わうことができます」と語ってくれた。

    ゆったりと優雅に低空飛行を楽しめるのが、ツェッペリンNT号の大きな魅力

    飛行船は、飛行機やヘリコプターとは違って、基本的に最初から浮力が備わっている。推進力などを得るためにエンジンを回すものの、飛行機と同じ動力で比較すると、sその16分の1以下の燃料消費に抑えられるという。また、エンジンやプロペラは、ゴンドラから離れた位置に設置されているため、キャビン内は非常に静かで、ピッチングなどの振動もほとんどない。

    また、飛行船が地上において、どのように"停泊"しているかご存じだろうか。飛行船は、専用のマスト車から伸びるマスト頂部のカプラにその先頭部を繋ぎ止められ、マスト車を中心とした円形の係留地で、常に風に立つように自然に回頭しながら待機しているのである。日本飛行船は、埼玉県桶川市の本田エアポートを運航基地としているが、この直径300mの円形係留地さえ確保できるならば、ツェッペリンNT号はどこにでも離着陸できる。事実、現在もツェッペリンNT号は、日本中を巡航しつつ、各地に設けられた臨時場外離着陸場を拠点に、スムーズな移動を続けているという。巨大な飛行船が滞在できる場所さえあれば、静かに降りたって停泊し、また次なる目的地へと、ふわりと浮上して飛んでいく……。滑走路をもつ飛行場を必要とせず、飛行機のような騒音やヘリコプターのような風圧、そして自然環境に大きな影響を与える心配もない。ナチュラルに上空を移動できる飛行船には、クリーンかつ省エネ・エコロジーな魅力が備わっている。

    ツェッペリンNT号は、各地の円形離着陸係留地を利用して、日本中を巡航している

    なお、飛行船のスムーズな運航には、地上での保守管理などに携わるグランドクルーの活躍があることを忘れてはならない。係留中も風になびいて待機する飛行船は、まるで目が離せない子どもでも見ているかのように、細やかな世話を必要とするという。例えば、昼と夜では飛行船の内圧が異なるため、微妙に空気を取り入れたり、排出したりするメンテナンスを行われなければならない。また、気温の上下に伴って、飛行船のヘリウムの浮力にも差が出てくるため、ウェイトの調節なども随時なされている。もしも雪が降り、飛行船上部に積雪したならば、その重みで船体が傾いてしまうので、ひたすら温水などをかけて除雪作業を行う。自然と一体となる、環境に優しい乗り物だからこそ、きめ細やかなケアを必要とする……。飛行船を24時間体制で見守るグランドクルーは、ツェッペリンNT号の行く先ならどこへでも、キャラバン隊を組んで移動していく。

    グランドクルーは、飛行船の運航に必要な地上車両のキャラバン隊を組み、飛行先へ共に移動していく

    24時間体制で飛行船の保守管理に携わるグランドクルー

    夢と希望をつめこんで

    ツェッペリンNT号のサイズは、全長75.0m、高さ17.4m。ジャンボジェット機を超える巨大な広告塔として、非常にインパクトのある宣伝飛行を低空で続けることができる。日本飛行船は、こうしたコマーシャルフライトを軸にして、資源探査・気象観測・航空測量・災害救助・通信中継などの分野も視野に入れたビジネス展開を行っている。

    とはいえ、日本飛行船代表取締役COOの渡邊裕之氏によると、同社がこれから最も力を入れていきたいと願っている分野として、観光遊覧やクルーズ飛行が挙げられるという。ドイツでは、2001年8月に独ツェッペリン飛行船技術が観光遊覧飛行事業を立ち上げて以来、これまでに4万人を超える乗客がツェッペリンNT号に搭乗、現在でも、予約してから搭乗するまでに約1年を要する盛況ぶりであるという。

    渡邊氏は、外洋クルーズ客船の乗組員として、数々の世界1周航海に出ている間に、豪華客船で旅行を楽しむ人々の"共通点"を発見したそうだ。

    「世界1周クルーズを楽しまれる人々の平均年齢は65~67歳。皆さん、ゆっくりと旅行を楽しんでおられるんです。日本からアメリカやヨーロッパに飛行機で行くとなれば、十数時間は狭いシートに座りっぱなしになってしまいますが、それは体力的に無理があります。それならば、ゆったりと安心して行ける客船を選ぼう……。そんな思いから旅しておられる大勢の方にお会いしました。スピード社会の現代でも、皆が皆あくせく急いでいるわけではないんだな、と感じました」(渡邊氏)

    1930年代には、全長245mという巨大な飛行船「ヒンデンブルク号」が、ドイツのフランクフルトからアメリカ東海岸のレークハーストまでの大西洋航路を飛び、空の豪華客船の全盛期を築いた。ヒンデンブルク号には、ツインの客室が25室あり、展望サロン、レストラン、食堂、バー、ロビー、シャワー室、喫煙サロンなどが備わっていたという。またラウンジには、グランドピアノまで置かれていたといい、豪華な空の旅を楽しむことができた。

    1930年代には巨大な硬式飛行船が主役となり、豪華な空の旅を提供した(イメージ)

    残念ながら、ヒンデンブルク号は事故で姿を消したものの、当時とは比べものにならない最新技術によって、ツェッペリンNT号が見事に復活を遂げた。独ツェッペリン飛行船技術には、ツェッペリンNT号の後継モデルとして、最高85名の搭乗が可能な新・大型飛行船を製作する計画があるという。

    最新の飛行船で、21世紀にふさわしい空の豪華クルーズを提供する---日本飛行船は、そんな大きな夢や希望もつめこんで、ツェッペリンNT号で新たな未来を切り開こうと努めている。

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