【レポート】

復活した夢の飛行船「ツェッペリンNT号」

1 新技術で快適かつ安全な飛行

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「長距離を移動するための交通手段として、何を選びますか?」

船旅でしか海を渡れなかった時代は、今はもうはるか昔のこととなり、現代では飛行機が長距離旅行の大半を担うようになっている。とはいえ、飛行機より以前に、飛行船が空の旅の主役を務める"輝かしい時代"があったことをご存じだろうか?

1783年、フランスのモンゴルフィエ兄弟が直径十数メートルの麻布製熱気球を製作し、世界初の有人飛行に成功。1852年には、フランスのアンリ・ジファールが、蒸気機関をゴンドラに搭載した飛行船を開発、自由に操作し上空を移動できる飛行船を世に送り出した。そして20世紀に入り、1900年には、かの有名なドイツのフェルディナント・フォン・ツェッペリン伯爵が、飛行船の大型化と輸送力の増強を図るため、内部にアルミニウム製の骨組み構造を採用した硬式飛行船「LZ1号」での初飛行に成功。飛行船は空の主役となり、世界で初めて飛行船を用いた航空旅客輸送会社がドイツに誕生すると、何万人もの乗客が世界各国を結ぶ定期航路を利用し、飛行船による空の旅を楽しむ時代が到来した。1929年には「グラーフ・ツェッペリン(LZ127)号」が、ドイツから21日7時間33分をかけて初の世界一周飛行を実現した。

ニュー・テクノロジー(NT)採用のハイテク新飛行船

独ツェッペリン飛行船技術のツェッペリンNT号

飛行船の技術革新は、高速性能に優れる飛行機が空の旅の主役を担うようになり、久しくストップしていた。しかし、1993年、ドイツで企業・ツェッペリン飛行船技術が復活。飛行船全盛期から60年以上の歳月を経て、当時よりも抜群に向上したニュー・テクノロジー(NT)を搭載する「ツェッペリンNT号」の研究開発がスタートした。

日本飛行船チーフパイロットの吉岡秀樹氏

筆者は今回、機会があってツェッペリンNT号に乗り込むことができた。最新のナビゲーションシステムなどを搭載して、電子制御でハイテク操縦を可能にするというコックピットを目にし、ニュー・テクノロジーの一端を垣間見られたように感じている。

ツェッペリンNT号は、200馬力の航空用エンジン「ライカミング IO-360」を、船体中央部に2基、船尾部に1基の合計3基装備している。ツェッペリンNT号を2004年に購入した飛行船運行会社、日本飛行船のチーフパイロット・吉岡秀樹氏によれば、ライカミング IO-360で稼動する、チルト方式を採用した4機のエンジンプロペラが、ツェッペリンNT号の大きな特徴となっており、このプロペラの角度をコックピットから操作し、自由に変えることで、従来の飛行船では非常に困難だった自力での垂直離着陸、空中での静止(ホバリング)、定点での空中360度回転など、実にスムーズな運航が可能になるだという。例えば、最大風速毎秒17mの気象条件でも十分な飛行能力を発揮できる、とのことだ。

ゴンドラのキャビン先端にコックピットが配置されている

コックピットからの飛行中の眺めは最高!

最新のハイテク機器を装備したコックピット

操縦席の側面にはジョイススティックの操縦桿が配備されている

ツェッペリンNT号は、安全性においても、昔の飛行船とは比べ物にならないという。ボディには、軟式飛行船と硬式飛行船の両方の利点を取り入れた半硬式飛行船の設計を採用。三角形フレームの丈夫なカーボンファイバー製トラスの骨組み構造を有している。吉岡氏は、この半硬式飛行船の骨組み構造が、ツェッペリンNT号のハイテク操縦性能を左右する、独特のエンジンプロペラの配置を可能にしているのだと語った。

チルト方式を採用したエンジンプロペラ

半硬式飛行船設計により、ゴンドラから離れた独特のポジションにエンジンプロペラを配置できるようになった

ツェッペリンNT号では、各部の高度な制御が可能。飛行姿勢も自由にコントロールできるようになっている

また、飛行船のエンベロープ(外皮膜)には、高い機密性をもつ、最新素材の合成繊維が使用されているという。この素材は、米航空宇宙局(NASA)が火星探査機「Mars Pathfinder」(マーズ・パスファインダー)に使用したバウンド着陸時用のエアバッグの製造メーカーが提供している。このエンベロープで覆われた飛行船内部に充填されるヘリウムは、マッチで点火しても燃えない不燃性のガスであるため、爆発・炎上の心配はないという。では万が一、飛行中にエンベロープに穴が開いてしまったらどうなるのだろうか。実は飛行船の内圧は、外圧よりも0.3%ほど高くなっているだけで、東京ドーム内外の気圧差程度に過ぎない。そのため、例え上空で直径30cmの穴が開いたとしても、ヘリウムガスが抜けきってしまうまで約8時間は要するという。飛行中に異常を感知した場合でも、すぐに着陸態勢に入れば、十分安全に地上へ帰還できるとされている。

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インデックス

目次
(1) 新技術で快適かつ安全な飛行
(2) ドイツから日本へ……波瀾万丈の道のり
(3) 空の豪華クルーズ再現なるか……


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