【レポート】
24日、凸版印刷の印刷博物館P&Pギャラリー企画展「グラフィックトライアル2006」のトークイベント「デザイントーク in TOPPAN vol2. -オフセット印刷表現の可能性-」が開催された。同企画展は、6名のクリエイターが制作したポスターと、その制作過程を展示するというもの。「トライアル」の名のとおり、自分が求めるイメージが実現するまでの試作過程を見せるという趣向の展示だ。会期は前期(6月13日~7月2日)と後期(7月4日~30日)にわかれ、3名ずつの展示が行われる。
今回のトークイベントは、前期に展示されている3名のグラフィックデザイナー、鈴木守氏、伊藤桂司氏、澤田泰廣氏が出席。同社商印事業本部グラフィック・アーツ・センターのアートディレクター菊池巨氏が進行をつとめた。80名限定のイベントだったため、参加者を遠くない距離に感じることができるイベントになった。
まず、スタート30分は、鈴木氏、伊藤氏、澤田氏の3名の代表的な仕事が紹介された。3氏とも、ビジュアルワークの秀逸さはもとより、常に制約のある仕事の中でも、よりよい結果を求めて実験的な要素を取り入れ、デジタル、アナログの生み出す効果を、柔軟に組み合わせるデザインワークが印象的だ。
今回の「グラフィックトライアル2006」では、それぞれのクリエイターは、おのおのテーマを持って試行錯誤を行っている。進行の菊池氏がなぜそのテーマを選んだのか、3氏に質問した。鈴木氏、伊藤氏、澤田氏が順番にテーマの説明とその意図を説明していった。
鈴木氏のポスターモチーフとなった植物のグラフィックは、氏が3年くらい前から描いていて、なにかの形にしたいと思いつつ、PCに温存していたものだという。「ただ、絵をポスターに印刷するというのは、通常でもやっていること。"トライアル"というお題をいかに変換して効果的にするのか。自分も、凸版印刷さんもうれしい、そして印刷業界にとっても資料になるようないい仕事がしたいなと思った」。氏が設定したテーマは「光」。版画刷の雲母刷(きらずり)のような表現を追求したいと思ったという。実際、氏の完成ポスターは、深みのある黒の中に、微細に発光しながら浮き上がる美しい植物。細部を眺めても、全体を眺めても飽きない。
制作過程では、10月に校正刷りをはじめたものの、考えが落ち着くまで、その後3カ月が必要だった。絵柄を生かす効果が何なのかを追求すると同時に、この絵柄でいいのか、というところまで悩んだという。スムーズに仕事をすすめ、今回の仕事の進行のお手本になろうと思っていたのに、結局、入稿できたのは翌年4月だったと笑う。凸版印刷の窓口となっていた菊池氏は「鈴木さんの場合は、ほぼ完璧なデータで入稿されたため、紙の選択と印刷設計に注力できた」と語る。今回のデータはRGBで入稿された。CMYKに関してはかなり神経質だと語る鈴木氏は、自分で細かく指定をしたくなるCMYKデータを意図的に避けた。指示も「ざらりとした質感が出るといいと思う」などわざと抽象的にしたという。
澤田氏から、きらきらした効果を出すポイントとなった砂目の版(スミで印刷)についての質問が出ると「光りのグラデーションは、色が白く光って消える場合と、色を保ったまま闇に消えていく場合がある。今回は白のエッジになってしまうのではなく、色を濃く引きずったままのグラデーションにしたかった」と意図を説明。氏によれば、オフセット印刷は、線数によっては、グラデーションの20%から0%あたりで、白のエッジになってしまう場合があるという。CMYKと関係のないマチエール(質感)があれば、白いエッジ部分に目がいかないという計算があった。砂目版はそのために用いられているという。
伊藤氏は「もともと印刷物というのは重層的なもの」と述べる。印刷時のインクの皮膜の中で起こる"スペクタクル"に関心があったという。制作したポスターでは重層性がもたらす視覚効果へアプローチすべく、ニスを用いてグラフィックを重ね合わせるというものだった。「また、それによって紙の質感をなにか別のものに変えたかった」と語った。確かに、氏の制作したポスターを見ると、光の当たり具合によって、ニスを用いたグラフィックの重なりが現れ、見たこともない糸を使って織られた織物のようにも見える(写真ではそれが確認できないのが残念)。トライアルではニスとオペークホワイトの重ね合わせ、マットニスとグロスニスの重ね合わせなどがテストされた。伊藤氏は今回のトライアルで、これからの仕事にも使える部分を発見できたのも成果のひとつだと語る。鈴木氏も「(この手法が)たとえば、ブックレットの表紙になると、手で触るからマチエールがわかる。伊藤さんはこれからの仕事の研究もなさっていたのでは?」と同意した。
澤田氏のトライアルテーマは「マットとグロスの同居」だった。ポスターのモチーフとなったのは、望月孝氏の写真。水槽の下にシートを引いた状態で、水面を撮影したものだが、金属が冷たいまま液体になっているような不思議な質感があり、水には見えない。当初はメタル感をキーワードに作業が開始されたという。「質感にはずっと興味をもっていた。オフセット印刷のすごさは、"手で見る"ような触覚を再現できることにある」と述べた。「それともうひとつは、普段オフセット印刷ではやらないようなことをしたかった。オフセット印刷のあえて不得意なことをやってみた」と語る。
氏は、ニスは保護剤としてしか考えていなかったという。色が黄色に振れやすいし、できれば使いたくない「脇役の脇役」。今回は、凸版印刷のアドバイスもあり、その脇役を表現のキーテクノロジーとして使用した。ニスの種類・濃度、樹脂の調合など全部で72パターンもの出力がテストされた。校正を吟味する際は、「僕もプロなので、違いのわかる男のフリをするのがつらかったくらい(笑)」との冗談も飛び出した。その中でひとつだけMr.Bという上質系の紙と、樹脂の素材を調合したグロスニスを2回印刷したものがいい質感を出したと嬉しそうに語る。普段の作業ならば、デジタルというテクノロジーを使ってデザイナーがデータを精緻に設計し、印刷会社はその設計を忠実に再現するところに注力する。今回は6カ月という時間をかけ、こうやったらどうなるのだろう? という未知の領域に挑む楽しみがあったという。「普段の仕事でも、もちろん質は追求しているのだけれど、そのどきどきする感覚を、少しだけ忘れていたと思う」。
伊藤氏からは「澤田さんの作品は、素材感の面白さを生かす、独特の着地の仕方というのが興味深かった。この実験は成功しましたよね。僕のやりたかった"紙の質感を変える"という点では、澤田さんの作品は、鉛のように見えるポスターもある。ちょっとまいったな、というくらいの仕上がりだと思う」と賞賛。
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