【レポート】

2006年W杯 - ネットで応援するW杯とスタジアムで応援するW杯

    古林高  [2006/06/19]

    サッカーの醍醐味

    サッカーの醍醐味はどこにあるか。人それぞれ視点を持っているだろう。筆者にとってのサッカーの魅力は、パスワークの創造性を見ることにある。鉄壁で隙がないように見える守備陣を、いかなるパスワークで切り崩し、ゴールに持ち込むか。如何に事前に作戦を立てていても、実際の試合では思った通りにはならないものだ。結局は、思わぬ場面で選手が突如閃きを得、観衆全員が息を呑むような意外性とスピードで以ってパスを通し、一瞬にゴールが決まる。感動の瞬間である。私にとってサッカーの感動はこのような選手達の創造性の発露によってもたらされることが多い。

    6月12日、W杯、日本代表の初戦である対オーストラリア戦がキックオフした。前評判は日本に有利で、日本はこの試合に勝利できる、との意見も多く耳にした。ところが蓋をあけてみると、オーストラリアはなかなかの強豪だった。日本の動きをよく見たオーストラリアが徐々に陣形を固め、日本側はオーストラリアの守備陣を効果的に切り崩せない。それでも前半26分、中村俊輔が左足でセンタリングしたボールが、ゴール前の相手方キーパーを中心とした混戦を通り抜けてスポッとゴールに入った。待望の初得点である。この先取点に、日本の勝利を確信した観客も多かっただろう。この1点を守り抜けば勝てる…。ところが後半、再三日本ゴールを脅かしてきたオーストラリアがついに得点、その後立て続けに2得点を重ね、1-3で日本の敗戦が決まってしまった。

    オーストラリアが日本ゴールを脅かした数々のシュートシーンは、世界的にみても強い部類に入ると思われる日本の守備陣を、彼らなりの創造性で以って切り崩していた。偶然の3点ではなく、守備を切り崩した上での得点だった。逆に日本はどうだったか。試合の勝ち負けを別にしても、全体的にオーストラリアに対して優位に立てていたとは言い難い印象だった。少なくない数のシュートは放ったが、それらの多くは、オーストラリアの守備陣を切り崩した上での決定的なシュート、とは必ずしも言えないように感じた。

    とはいえ、日本代表チームには良いところも見られた。前半の中田英寿、中村俊輔らは、力まず身構えず、背筋が通ったリラックスした体使いと立ち位置から、スッと前線に絶妙なパスを送る場面が何度も見られた。後半途中で登場した小野伸二も、短い時間の間にいくつかの適切なパスを繰り出していたようだった。受け手と息が合わず、その後の攻撃に繋がっていかなかったが、技を技と意識させない自然なプレーから繰り出す、彼ららしいセンスの良いパスの数々だった。日本チーム初得点となった中村俊輔のゴール前へのロビングも、そうした良いパスの一つだったと感じる。そうしたプレーがチームの無意識として有機的に繋がってくれば、勝てる。

    古くから日本では、無心、柔よく剛を制す、といった言葉を大切にしてきた。それは、無心になり、柔らかくあることで、意識や思考、論理を超えた強さを発揮できる、という方法論である。サッカーについても、そうした方法論が当てはまるのではないかと感じるところがある。無闇に勝ちを意識し過ぎて硬くなっていないか。自分たちの方法論を信じているか。柔らかく無心を心がけ、天性の閃きを以ってする創造的なサッカーを日本代表チームに期待したいのである。そして、柔よく剛を制して欲しいのだ。

    W杯のネット観戦

    ところで今回のW杯、ネット時代に開催されるだけに、W杯関連の様々なサービスがインターネット上に展開されている。今回筆者は、日本・オーストラリア戦はTVではなくパソコンを使って観戦してみた。メインのデスクトップPCでTVキャプチャカードを通じて中継映像を映し、サブのノートPCでインターネットのサッカー掲示板を開き、全国の観戦仲間のコメントを見る、というスタイルだ。試合の合間にふと掲示板をリロードすると、夥しい数の書き込みが追加されている。自分と似た見方もあれば、まったく違う意見もある。ユニークで笑いのツボにはまる書き込みもあれば、中には罵詈雑言に近い書き込みもあるが、それは応援の気持ちが入りすぎた結果と苦笑すればいいだろう。ネット市民としてあるためには、少々の乱暴な言葉には寛容であったほうが良い。

    サッカースタジアムや、パブリック放映スペースでの観戦と違うのは、掲示板では大勢の人がそれぞれ明確な言葉で気持ちを語ることだ。サッカースタジアムでは大歓声が聞こえるが、それは意見ではなく感情の発露であり、しかもそこで表現されるのは多数派の気持ちだ。しかし掲示板では一人ひとりの様々な意見や気持ちが、明確に文字で述べられる。観客の間で、様々な意見のやり取りをしながら観戦するというのは、ネット時代の新しい応援スタイルだ。「サッカースタジアムで熱狂するのが一番」「酒場で生ビール片手にワイワイやりながら応援するのが良いに決まってるじゃないか」と一言でいうなかれ。それはそれ、これはこれ。マイナー選手やマイナーチーム、人気のない監督をこっそり応援していたら、他にも同類が居た、と喜ぶチャンスがあるのも、ネット観戦ならではの楽しみなのだ。

    それでは、ネットで提供されているW杯関連のサービスをいくつか紹介しよう。まずgoogle。googleではW杯の時期、「サッカー 日本」、「日本 オーストラリア」などを検索すると、検索結果の上に試合予定や得点などが表示される。googleの携帯サイトでも同じサービスが実施される。ちょっとした時間にも使えて便利なのがgoogleモバイル検索メールのスポーツ検索サービス。W杯の最新情報が知りたい人は、メールの本文に「サッカー」と入れて指定のアドレスにメールを送ると、スケジュールやスコアなどの情報が返されてくる。詳しくはこちらを参照のこと。その他には、google「パーソナライズドホーム」。Googleのトップページの右上に、「パーソナライズドホーム」というリンクがあるが、ここにサッカーの最新情報や動画を楽しめる機能が追加された。

    Yahoo! JAPANは、W杯の話題で交流する「サポーター広場」サービスを公開している。元サッカー日本代表主将の井原正巳氏とともに試合や戦術を議論する「激論! サッカー」。Yahoo!インターネット検定の「2006 FIFAワールドカップ検定」ではW杯の歴史や、今大会の各グループ、選手や監督に関する知識の検定サービスを期間限定で提供する。その他、Yahoo! 掲示板では、W杯関連の場所が設けられ、連日サポーターたちの熱いコメントが掲載され続けている。So-netは、PSP向けVOD「Portable TV」にて、W杯全試合のダイジェスト映像を配信している。ダイジェスト映像をダウンロードしPSPで視聴可能であるところが特長。「月額パック」に登録すればダウンロードし放題となる。ニフティは、「サッカー特集 by 相馬直樹」を開設している。W杯試合の見どころやレポートを更新している。マイクロソフトMSNもW杯特集ページを開設している。ハイライト動画クリップも無料で配信している。動画配信サイト「ドガッチ」では、W杯全64試合のハイライトを無料で配信する。映像を見るには、簡単な個人情報の登録が必要だ。シーンごとのハイライト動画が掲載されており、映像のサイズは小さいが鮮明なので、ボールの動きもはっきり分かる。まだまだ端末の普及はこれからではあるものの、熱い注目を集めている「ワンセグ」放送。もちろんW杯の試合も放映する。ワンセグチューナ搭載の携帯電話やノートPCで、外出先での観戦も乙なものだ。画面は小さいながらも、デジタル放送なので、鮮明な映像を楽しむことができる。

    クロアチアとブラジルの戦い

    日本代表の2戦目の相手はクロアチアだ。その若くも厳しい表情のイレブンを見ていると、中世の騎士団のようなイメージがオーバーラップする。そのクロアチアとブラジルが、日本戦に先立つ13日(現地時間)に対戦した。この試合は見ものだった。歴史的な強さを誇ると言われる今年のブラジル。ロナウジーニョを筆頭に素晴らしい選手が揃っている。これに対して、サッカーの古豪ユーゴスラビアの伝統を担う、いぶし銀のようなクロアチアがどのような戦いを挑むことができるのか。

    結果はブラジルの勝利だった。しかしスコアこそ1対0でブラジルが勝利したが、内容的にはクロアチアの方が良い試合をしたのではないか。組織的な守備で、ブラジルの攻め足を徹底的につぶし、容易には守備を崩されない。その一方で、時折カウンターで剃刀のような鋭い攻撃をブラジルのゴール前で展開する。ブラジルのロナウジーニョは圧巻なまでに素晴らしい技量を示したが、そのロナウジーニョを以ってしても、クロアチアの堅陣をともすると攻めあぐねたのである。観客の目を奪っていたのは、クロアチアの蜘蛛の巣のような懐の深い守備と、切れ味鋭い攻めであり、これに対して、ブラジルが攻めあぐねている様がありありと伝わってきた。ところが、ブラジルはクロアチアの堅陣を十分に破れないまま、その外郭から放ったシュートがゴールを割った。カカの豪快なミドルシュートだ。クロアチアの守備は必ずしも崩されていなかったと思うが、遠距離弾のシュート一発で相手を沈めてしまうところが、ブラジルの個人技量の底力なのかもしれない。ともあれこの試合でクロアチアは、ブラジル相手に一歩も譲らず、自分たちの創造性あるサッカーをしつづけた。良く戦ったと感じ入る試合だった。

    そして日本対クロアチア戦

    そして18日(現地時間)、いよいよ日本代表がクロアチアと戦う日がやってきた。筆者は今回、機会に恵まれてこの試合を現地で観戦することができた。ドイツ中部、ニュルンベルクは快晴ながら心身ともに熱い日だった。午後3時のキックオフを前に、ドイツの高速道路「アウトバーン」を通って、日本とクロアチアのサポーター達が続々と到着する。クロアチアの人達を見て実感するのは、その体格の良さだ。クロアチアのイレブンばかりでなく、実は民族皆、大男ばかりなのだ。身長174cmの筆者の顔の前に、クロアチアの人達の分厚い胸板が来るような印象である。体格が良くて動きは敏捷。クロアチアチームの身体的なアドバンテージは相当なものだと感じた。ニュルンベルクのフランケンスタジアムは、収容人数約4万4千人程度と言われているが、日本とクロアチアの応援団でほぼ満席の状況だ。暑い午後3時の日差しは、両チームの応援団の気持ちに一層火をつける。試合開始前から、スタンドでは大歓声が熱狂的に繰り返されていた。そして待ちに待ったキックオフ…。

    キックオフで両チームの声援は最高潮に達したようだった。両チームとも、いつまでもスタンディングで思い切り声援を送らんとするサポーター達ばかりである。テレビでの観戦と違うのは、この大歓声に乗りながら応援できることばかりではなく、実際の選手がボールを蹴る音まで聞こえてくるような現実を目の前に出来ることだった。ボール捌きは、テレビで見るようにはクールではなく、選手の足に纏わり付く重量を持っていることが伝わってくる。また、視野が広く持てる。ボールの動きにつれて、両チームの全イレブンがどのように動いているのかが、よく見える。選手が疲れてくれば、芝生に足を取られそうになる足の重さまで見えるようだった。

    今回の日本代表チームは、序盤、とても丁寧にボールを繋いでいるようだった。クロアチアも切れ味の良いパスワークと個人技を駆使して、多彩に攻めを作ろうとするが、日本の守備陣はとても沈着冷静、これに落ち着いて対処し、クロアチアに決定的に崩されることはなかった。ボールを絡め取っては、ゆっくりとパスを繋いで前線にボールを送っていく。

    日本の守備は強い。これは、もちろん練習のなせるわざではあるだろうが、根底には日本人のきめ細かな性格にも依っているのではないだろうか。日本の選手はとても良く相手選手の心理を読んでいる。上手に攻め手を潰し、勢いを殺ぎ、相手のフェイントを読む。相当なテクニックを持つと呼ばれている欧米選手でも、日本の守備陣には何かうまくいかないもどかしさを感じている様に見受けられる。それは、日本人が民族的に心理の読みを得意としているところもあるのではないか。相手はクロアチアである。体格で大きく勝り、しかも敏捷で筋肉質。かなりの威圧感のある相手なのである。日本のイレブンが、その相手に対して辛抱強く心理を読み、冷静に攻め手を潰していく仕事は、終盤まで集中力を切らすことがなかった。ゴールキーパーの川口能活も、優れているのは反射神経だけではないと思う。良く読んでいる。終盤、クロアチアが左サイド寄りに一人フリーで攻め込み、日本側はバックとゴールキーパーのみという決定的な対決になったとき、バックの選手がゴールの二アサイドに少し重心を移すと、クロアチアの選手がフェイントして反対側に重心を移し、ファーサイドを狙う。その動きの前に、川口能活はファーサイドにボールが行くことをあらかじめ読んでいたように感じられた。状況とともに、相手フォワードの心理を読んで、予測しているのだろう。

    ブラジル戦では剃刀のように鋭い攻めを展開したクロアチアも、日本相手にはどこか勝手が違う印象で、うまく切り崩せない。そうしてクロアチアから奪ったボールをゆっくり繋ぎ、勝機を探るように攻めていたのが前半の日本イレブンだった。後半に入ると、暑さで体力が落ちてくる中、それまで横方向のパスやバックパスを多用していたところを、縦パスで素早く前線にボールを送るように動き方も変わってきた。前半の慎重さがある種吹っ切れた印象もあり、疲れは見えたものの、後半の攻めはバリエーションがあった。攻撃的パスワークの基本的なイメージとして、相手バックの裏を突くようにパスを出し、走りこんで勝機を作るという「裏を突く」方法があるが、そうしたやり方の組み合わせでゴール直前で決定的な勝機を作り、ピンポイントのグラウンダーでゴールを奪うチャンスが生まれそうだったのだ。クロアチアも守備は堅く、そう簡単には崩されなかったが、それでも日本チームはいくつかのチャンスを作った。中でも後半の始めのチャンスは決定的だった。テンポ良くパスを重ねて相手のバックスの裏を突き、完全にクロアチアの守備を崩していたが、惜しくもゴールが決まらなかった。これを見た日本チームのサポーターは声色も変わり、後半も押してきたころには、「もしかしたら」と、本気で思っていたと思う。声援にも熱が入り、声が太く立派で勇壮なクロアチアのサポーターたちにも負けない勢いの声援がスタジアムに居る日本のサポーターの全員に自然と生まれていたのである。しかし結局は、ドローで試合は終わった…。

    試合は引き分けだったが…

    結果は零対零だったが、胸が熱くなる良い試合だった。あの大男達を相手に、良く辛抱して戦い、創造性のある立派な攻め口も見せて、十分に互角の戦いだったと思う。日本のオーストラリア戦や、ブラジルに対するクロアチアの戦いぶりを見たときには、今日は正直厳しい戦いだろうと感じたが、日本代表チームは良く善戦したと感じた。次のブラジル戦も、私達が思った以上の仕事をしてくれるに違いない。

    こうして現地で試合を見て感じたのは、自分達が、そもそも頑強で力強い民族ではない、ということだ。日本人は基本的に静かで、繊細な民族なのだと思う。そうした自分達が、如何に力強い彼らに対して戦って、勝っていく事ができるのか、そんなことを考えさせられた。昔の日本人ももしかしたら、そんなことを感じて、「柔よく剛を制す」「無心」といった哲学を生み出したのかもしれない。とはいえこの小論でそこまで述べるのはやや言いすぎか。試合の終盤、筆者は、「創造的な攻めをしよう」と一人、心の中で声援を送っていた。崖っぷちに立てば、ともすれば勝つことを強く意識してしまいがちになる。熱狂と興奮の中で、闇雲にゴールに突進してしまいそうだ。それは選手も応援団も一緒である。しかし、そうしたときほど、あえて創造的に攻めを考えることで、かえって勝利が近づくと思うのだ。決定的なチャンスが来るまで、ボールをキープして辛抱して勝機をうかがわなくてはならない。勝ちを急いで遠距離から「あわよくば」のシュートを放っても、かえって負けなのだ。厳しい時ほど、あえて創造的な攻めを考えるべきなのは、なにもサッカーの試合ばかりではないだろう。様々な仕事に言えることではないだろうか。今回、日本代表チームは最後まで雑なことはせず、懸命に自分達の試合を作ろうとしていたと思う。心の熱くなる勇敢な戦いぶりだった。

    ネット観戦とスタジアム観戦

    さて本題である。W杯の観戦をするならば、誰しも、スタジアム観戦が一番と思うだろう。自分も実際に体験して、スタジアムでの観戦が一番感動したことは事実だ。ただ、一ついえるのは、自分の考えを持とうと思った時には、ネット観戦も面白いと言うことか。スタジアムの熱狂の中では、一体感こそが感動を生む。けれど、時として人と違う気持ちや考えを持ってもいい。他の人がブーイングを出している時に、一人拍手を送りたいこともあるだろう。そういう自分に気がつくこと、それはそれで、大切なことだと思うのだ。ネットの大勢の仲間は、それを気づかせてくれるきっかけを与えてくれる。人は皆、いろいろな意見を持っていて、ネットではそれが表現されているからだ。とはいえ、やはり現地での観戦は感動的だ。W杯はこれからも続いていく。サッカーファンの皆様の中でスタジアムでの観戦を経験されていない方には、是非一度とお勧めしたい。とりわけ筆者のように、日頃部屋の中でパソコンばかり使っている人間にとっては、スタジアム観戦は予想以上に強烈な生々しさだったのである。(了)

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