【レポート】
ソニーとソニー・コンピュータエンタテインメント、IBM、東芝が共同開発したプロセッサ「Cell」の概要は、2005年2月に半導体回路技術の国際学会「ISSCC」で披露された。その後の2005年9月には東芝がCellプロセッサ用周辺LSIを整備し、2006年10月の展示会「CEATEC」には東芝が参照ボード(リファレンスボード)を出展していた。そして実装技術の国際学会である「 ECTC(Electronic Components and Technology Conference) 2006」には、Cellプロセッサ(Cell Broadband Engine)のパッケージ技術とリファレンスボードの設計技術が報告された。
Cell Broadband Engineのパッケージ技術は、東芝とIBM、ソニー・コンピュータエンタテインメント、Georgia Institute of Technologyが共同で発表した(Y.Gotoほか、講演番号S5.2)。
Cell Broadband Engineのパッケージは、フリップチップ方式のプラスチックBGA(FC-PBGA)パッケージである。有機樹脂基板に、フリップチップ技術でCellプロセッサのダイ(シリコンチップ)を接続する。フリップチップとは、ダイ表面の電極に非常に小さな突起(バンプ)を設け、バンプを介して下地基板と接続する技術である。ダイと基板の接続に必要な面積がほぼダイそのものと等しい、非常に数多くの電極を一括して接続できるという特徴を備える。Cellプロセッサのフリップチップ接続電極数は、2965と極めて多い。
BGA(ball grid array)の有機樹脂基板は、両面基板をコアとするビルドアップ基板である。ビルドアップ層は両面に3層ずつ。合計で8層の配線基板となる。BGAの電極端子数は1236。外形寸法は42.5mm角。端子ピッチは1mm。電極で入出力する信号の周波数は2.5GHzとかなり高い。
BGAの基板材料が有機樹脂なので、パッケージ設計では温度と湿度の影響を考慮する必要がある。伝搬損失は通常、信号周波数とともに増大していく傾向にある。温度が上昇したり、樹脂が吸湿したりすると伝搬損失はさらに増大する。両方の要因による損失の変動をシミュレーションによって見積もり、設計の変動要因として組み込んだ。
有機樹脂基板の配線は、ダイ(シリコンチップ)の電極とBGAの電極を結ぶ。ここでは、配線の特性インピーダンス(Z0)のばらつきが問題となる。そこで、ばらつきの種類によって特性インピーダンスがどのように変動するかを考慮し、総合的に特性インピーダンスのばらつきを推定した。例えば配線幅が狭くなるとZ0は増大し、配線直上の絶縁膜が薄くなるとZ0は減少する。こういった効果をすべて見積もりに組み込んだ。
また信号伝送特性では、プリント配線基板と伝送先の半導体パッケージにおける特性インピーダンスのばらつきを考慮する必要がある。Cellパッケージの特性インピーダンス、プリント配線の特性インピーダンス、受信端パッケージの特性インピーダンスをモデル化した。それぞれの特性インピーダンスが高い方、あるいは低い方に変動したと想定し、信号波形(アイパターン)がどのように変化するかをシミュレーションした。アイパターンが最も劣化したのは、Cellパッケージと受信端パッケージの特性インピーダンスが高く、プリント配線の特性インピーダンスが低くなったときだった。
信号配線と同様に重要なのが、電源の分配と安定化である。プリント配線基板に実装した電圧レギュレータモジュール(VRM)からCellパッケージまでの電源分配ネットワークを想定し、Cellパッケージを設計する。電源分配ネットワークでは、電源の安定化用に何種類かのコンデンサを配置する。シミュレーションの結果、Cellパッケージには等価直列インダクタンス(ESL)の低い積層セラミックコンデンサを配置することが、電源雑音の抑制に有効であることが分かった。
リファレンスボードの設計技術は、東芝が発表した(T.Tokiwaほか、講演番号S5.4)。リファレンスボードにはCellプロセッサのほか、「スーパーコンパニオンチップ(SCC:Super Companion Chip)」と呼ぶ周辺LSI、XDRメモリ、各種のコネクタなどが搭載されている。ボードの外形寸法は400mm×300mm。配線層数は8層である。高速信号線にはストリップラインを採用し、特性インピーダンスを制御している。ECTCの発表では写真撮影が禁じられたためボード写真を掲載できなかったが、大塚氏による昨年のCEATECレポートにボードの画像があるので、興味の向きは参照されたい。なおSCCのパッケージは、Cellプロセッサと同じくFC-PBGAである。BGAの電極端子数は1385。端子ピッチは1mm。外形寸法は40mm角。
リファレンスボードで最も高速に信号を伝送する部分は、CellプロセッサとSCCの間である。Rambusが開発した高速の差動信号伝送技術「FlexIO」を採用し、端子当たりで5Gbpsの速度でデータ信号を伝送している。ECTCの講演では、配線レイアウトがクロストークに与える影響、スルーホールのスタブが伝送特性に与える影響、伝送距離が信号品質に与える影響などを検討した結果が報告された。
クロストークの検討では、差動伝送チャンネル間のギャップを変えてシミュレーションを実施した。その結果、FlexIOのギャップは300μm以上、XDRメモリチャンネル(XIO)のギャップは200μm以上を確保すればよいことが分かった。
スルーホールの検討では、多層配線基板で2本のスルーホールを結ぶ配線のレイアウトを変えてシミュレーションを実施し、伝搬損失とタイミングジッターを見積もった。多層基板の裏面に配線を通した場合(マイクロストリップライン)と裏面のすぐ近くの層に配線を通した場合(ストリップライン)は、伝搬損失が低い。またチャンネル間のギャップが200μm以下と短い場合、マイクロストリップラインではタイミングジッターが大きくなってしまう。
伝送距離の検討では、プリント配線の長さを5mmから300mmまで連続的に変えてシミュレーションを実施した。また送信端と受信端の静電容量を1.0/1.5/2.0pFと変更し、伝送特性に与える影響をみた。伝送距離が長くなると、タイミングジッターは増大する。また送受信端の静電容量が大きいと、反射の影響によって伝送距離の短いところではタイミングジッターが周期的に大きく変動してしまう。アイパターンは、伝送距離が延びるとともに、また静電容量が大きくなるとともに、アイの開きが狭くなる傾向を示した。1.0pF~2.0pFといった非常に小さな容量でも、容量の変化が信号品質に大きく影響することが分かった。
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