【レポート】

GyaOの苦しみ - 独自コンテンツの死角と活路

椎名純一

USENの06年8月期決算は、19億円の赤字に転落、GyaO事業だけで50億円の損失を計上した。株価も決算発表前日に、一気に半分近い水準にまで下がった。決算が予想以上に悪かったことに加え、成長が期待されている無料インターネット放送「GyaO」が期待を裏切ったことも原因のひとつだ。アナリスト向けの決算説明会では、GyaOの将来性を疑問視する質問に対して、宇野社長は新たなメディアが生まれる際の「生みの苦しみ」で、07年度は黒字に転じると豪語した。だが、ヤフーが無料の動画配信に本格参入、さらに民放テレビ局も電通と組んで無料のブロードバンド放送「ドガッチ」を開始しようとしているなど、競争環境は厳しさを増している。1,000万近い登録者を集め、ブロードバンド放送の成功例と目されていたGyaO。現状は「生みの苦しみ」なのか、それとも、ヤフーやテレビ局の前に、このまま埋没してしまうのか。

アナリスト向けの説明会では、GyaOの現状についての資料が配られた。それによると、GyaO登録者のうち、数週間に1回程度GyaOへ訪れる登録者は、全体の3割から4割程度にすぎないという。しかも、この数字はGyaOの番組を視聴しているのではなく、あくまでサイトを訪れている人の数である。1人で2人分以上登録している重複登録者については、USENでは2、3割と見ているようだ。つまり、実際に定期的にGyaOを訪れているのは、登録者1,000万のうちの300万程度ということになる。

視聴時間はどうだろうか。同じ資料では視聴時間の推移を表すグラフも示された。現状では視聴習慣が順調についてきているとは言いがたいようだ。とりあえず登録して試しに見たという「ご祝儀視聴」の域をなかなか脱していないことを物語る。

GyaOが乗り越えなくてはならない、2つのライバル。それが、動画配信に本格的に乗り出してきたヤフー、さらに既存のテレビ放送だ。

ソフトバンクの孫社長は5月の決算発表の席で、具体的な数字は出せないとしたものの、USENが営業で顧客や広告会社に配っている資料から、ヤフー動画は既にGyaOを実際の視聴者数や視聴時間で抜いていると言い切った。インターネットで何か新しいビジネスを展開しようとする企業の多くが、ヤフーの壁に突き当たる。圧倒的なアクセス数を誇るヤフーは、動画サイトなど各種のサービスにお客が自然に流れていくからだ。

GyaOとヤフー動画の最も大きな違いがコンテンツに対する姿勢だ。ヤフーは圧倒的な規模を活かして、コンテンツ製作者が真っ先に映画やアニメなどを持ち寄る、動画コンテンツ流通の「場」となることに徹している。自分でコンテンツの製作まで手がけるつもりはないということだ。それに対して、GyaOは積極的に独自コンテンツの製作に乗り出している。

ドラマでは性病の悩みに答えるという「性病先生」、女性が男性を買うという「レンタル彼氏」、バラエティでは「嘉門達夫のナリキン投稿天国」など、GyaOのサイトを見ると、いくつもの独自コンテンツを見ることができる。独自コンテンツこそがヤフーといった、他の動画配信を手掛けるネット企業、さらにはテレビへの差別化要因と考えているようだ。だが、独自コンテンツを成功させるのは、決して楽ではない。独自コンテンツを考えていくと、今度は別の巨大なライバル、既存のテレビが現れる。

現在、テレビのゴールデンタイムでの番組制作費は1時間当たり、約3,000万円と言われている。NHKと民放を合わせた全6局、テレビ全体というシステムとして考えた場合、毎日1時間だけで2億円近い制作費をかけていることになる。一方、ブロードバンド放送ではせいぜい2、300万円程度だろう。これは、テレビの深夜放送よりまだ安い金額だ。制作費をかければ面白い番組ができるというものでは、もちろんない。GyaOは製作会社のテレビ局離れや、番組のDVD展開などによる多様な収益を期待しているというが、少なくとも現在のテレビと同じ土俵に乗ったような独自コンテンツを作り続けている限り、GyaOに勝ち目はない。

では、独自コンテンツを展開していくうえで、現在のテレビに死角はないのか。現在、19時から22時のあいだ、いわゆるゴールデンタイムと言われる時間帯のテレビ番組の視聴率合計は70%弱。単純に言えば、日本人の10人に7人が、その時間帯にテレビを見ているということだ。テレビの影響力を示す圧倒的な数字だが、逆にこの大きさこそが死角になりうる。

テレビの主戦場であるゴールデンタイムで、視聴率の合格点はおよそ15%と言われている。つまり、テレビ局はこの時間帯ではたまたまそのときは家にいなかったという潜在的な視聴者を含めると、最低でも世間の2、3割の人に見てもらえるような番組をつくろうとしているということだ。だが、多くの人の支持を集めようとして作られた番組には、いわば取りこぼした人々が少なからず存在する。家族揃ってテレビを見るという構図が崩れた現在、ますます顕著だろう。巨人戦の視聴率低迷は、嗜好の多様化を象徴しているように思える。例えば、もし、いまだに根強い人気を誇るアニメ「機動戦士ガンダム」を再放送したとしても、視聴率は数%程度だろう。とてもゴールデンタイムにテレビで放送できる数字ではない。しかし、視聴率数%というと少なく聞こえるが、実際には数百万人ということだ。日本有数の発行部数を誇る雑誌でも数十万部ということを考えると、「取りこぼし」とはいえ相当な数だ。恐竜ではないが、テレビというメディアとしての圧倒的な大きさこそが、その死角になりうる。

ライブドアへの支援発表以降、メディアの注目を浴びることになった宇野社長だが、活字メディアの取材には積極的に応じるものの、テレビの取材は一切拒否している。テレビを利用しようとして結局飲み込まれてしまった堀江貴文被告の姿から、GyaOが戦いを仕掛けているテレビという巨大なメディアに対して、感じているものは何か。

「コンテンツ イズ キング」。ハリウッドで古くから言われている「格言」だ。現状のテレビ局が手がける大多数に向けた番組に飽き足らない視聴者、そして番組製作者を引きつける仕組み作り。さらに、現在のテレビとは違う次元の、「通信」ならではの双方向性を活かした、志の高い番組を作っていくこと。それが、GyaOにとって、数少ない活路であるように思える。



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