【レポート】

ソフトバンクの戦い - 携帯事業で値下げ勝負は不利も、ヤフー・3Gがカギに

    椎名純一  [2006/04/21]

    ソフトバンク関係者によると、今回の携帯電話事業に孫社長が賭ける情熱は並々ならぬもので、ここまでの気迫で挑むのはヤフーBB参入以来なのだという。通信会社を変えても番号が変わらない「ナンバーポータビリティ制度」が始まる11月までに、孫社長は何を打ち出してくるのか。

    ヤフーBBで参入した当時の武器は、競合他社の半分以下という衝撃的な価格、街頭で赤い袋を無料でばら撒くという営業展開、そしてIP電話だった。巨大な赤字を垂れ流しながらも、強引な手法でトップシェアをつかんだソフトバンク。今回の携帯事業でも、同様の攻勢は見られるのだろうか。

    現在、携帯のユーザーが最も不満に思っているのは、月々の料金だろう。ADSL参入時のような、価格破壊を期待する声は多い。

    だが、ボーダフォン買収発表の会見で、孫社長は価格戦略について問われた際、「現時点で新たな価格戦略をコメントすべきではない」と明言を避けている。ソフトバンクが価格破壊を仕掛けてくると見る向きは、実は多くない。ドコモの売上高が4兆8,446億円、KDDIは売上高2兆9,200億円。これに対して、ボーダフォンは売上高1兆4,700億円。この数字だけで単純に比較はできないが、値下げ競争という「体力勝負」になればソフトバンクに不利なのは明らかだ。しかも、買収にかかった費用を返していくなかでの戦いだ。

    さらに負担となるのが設備投資だ。ボーダフォンの第3世代の通信ネットワークは、競合よりかなり弱い。ある通信会社の首脳は、「ボーダフォンは高値での売却を目指して決算の数字を良くしようとしてきたのではないか。そのために、必要な設備投資まで意図的に遅らせてきた」とまで読む。これからネットワークを整備するために、さらに負担が発生するため、すでに第3世代の設備投資を終えている競合よりも、価格勝負に打って出る余力は残されていない。

    最も考えられるのは、ヤフーBB契約者への営業だ。孫社長は事業戦略として「面を取って深堀りする」と繰り返し語っている。つまり、無料でADSLの機材を配ってでも、シェアという「面」を取る。そのユーザーにIP電話や動画配信など、付加価値の高いサービスを提供し、顧客一人が支払う額を増やしていく。つまり「深堀り」するという発想だ。ヤフーBB契約者への携帯とのセット割引は最も仕掛けやすい戦略だろう。

    また、将来的にはヤフーBBとボーダフォン携帯が、家では無線IP電話の子機として使えるといった「無線」と「有線」が融合したサービスが展開してくるのも確実だ。

    では、ADSLでのIP電話のような当面、明確な「売り」となるサービスはあるのか。そのカギは、やはりヤフーにありそうだ。孫社長はボーダフォン買収の会見でも、「ヤフーのコンテンツを活かしていく」と明言している。今回の買収がソフトバンク単独ではなく、ヤフーが関わっていること。さらにADSLでも「ヤフーBB」という名称にして、圧倒的な知名度を誇る「ヤフー」ブランドを利用したことからも、携帯でもヤフーを最大限に活かしてくることは間違いなさそうだ。

    ヤフーの強さ、それは圧倒的な「規模」だ。ページビューで、トップのヤフーは2位の楽天を4倍以上と大きく引き離している。

    あるアナリストはヤフーを「偉大なる平凡」と評する。他にはない斬新なサービスがあるわけではないが、一通り何でも揃っている。だから、特定の人々にしか受け入れられないといった癖がなく、多くの人々が習慣的にヤフーのサービスを使っているというのだ。オークションを筆頭に、多くのサービスの強さは圧倒的な規模を存分に活かしたものだ。

    ソフトバンク携帯の電源を入れると、携帯版ヤフーが立ち上がる――現在のボーダフォン契約者1,500万人にヤフーのサービスを提供できれば、基盤はさらに大きくなり、楽天やMSN、Googleへの切り札にもなるという相乗効果も生まれる。通信料金だけではなく、ヤフーで提供しているような、例えばオークションの手数料やショッピングでの出店料など、孫社長の言う「面を取って、深掘りする」形で複合的に稼ぐことも可能だ。

    だが、問題はヤフーとの連携がどこまでうまく機能するかだ。ボーダフォンの第3世代契約者数は1,500万のうちの300万人と、競合に比べて圧倒的に遅れている。「ボーダフォンの実際の価値は1,500万人分ではなく、300万人にすぎない」とまで言い切るライバル企業の幹部もいる。

    第3世代と比べて、第2世代の通信速度はかなり遅い。ヤフーと連携した形でのデータ通信サービスをうまく展開していくには、第3世代への切り替えをいかに進めていくかが、当面の大きな課題だ。

    「すぐにできる斬新なサービスがあれば、自分たちでとっくにやっている」とはき捨てるボーダフォン幹部すらいる。強力なライバルを前にソフトバンクがどのような勝負を仕掛けてくるのか。

    創業時から「20代で名乗りをあげ、30代で軍資金を貯め、40代で勝負を賭ける」と豪語してきた孫社長。49歳になる今年、携帯が人生最大の勝負となることは間違いない。

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