【インタビュー】

Hypertextの父・Ted Nelson氏、来日 - 可視化されたHyperlinkの世界"FloatingWorld"

1 言葉はあるが、中身はない - 特別な言葉"ハイパーテキスト"を生んだテッド・ネルソン氏

美崎薫  [2006/04/11]

まったく新しいもの

世の中の怪物、キメラやスフィンクス、エイリアンから怪人に至るまで、あらゆるクリーチャーは、何かと何かの合成でつくられてきた。まったく新しいものを想像/創造することは、きわめて困難なことのひとつだからだ。まったく新しいものには名前がつけられることで、初めてそれが他のものと区別される。魔術とは本質的に、秘密の名前についての科学だ。

言葉に先立つ概念があるか。これは哲学の重大な問題だが、一般にものごとは、言葉によって他のものと峻別され、特徴をもった存在として屹立する。

言葉はある。しかし、中身はない――そんな特別な言葉が、コンピュータにはある。「ハイパーテキスト」である。いまから40年以上も前に、この言葉を生み出した男がいる。テッド・ネルソン氏。時代を40年以上も先取りした男だ。

テッド・ネルソン氏

ハイパーテキストというからっぽの容れ物に、それから40年、多くの人がいろいろなものを注いできた。Web / html、WikiWikiWeb、BTRON(実身/仮身)、ロータスノーツ、ハイパーカード……。しかし、現在に至るも、その容れ物が溢れることはおろか、満杯にすらなることはなかった。当人によるXanaduとZIGZAGでさえ、その容れ物を満たすことはなかったのだという。

平面上にハイパーテキストを展開した初期のZIGZAGファイル。家系図をハイパーテキスト化した例

たったひとつ

どんなデザイナーであれ、クリエイターであれ、職人であれ、アーティストであれ、作家であれ、一生涯をかけて満足できるものをたったひとつでも作り出すことができれば、それは僥倖である。凡百のなにものかを作り出すことの容易さに較べて、たったひとつのオリジナルを作り出すこととは、それほどまでに困難な道のりだ。

「天才はしばしばたった一度しか語らず、たった一度だけ口にしたことでも忘却されない」
(「科学装置としての脳と心 リセプターと精神変容物質」R.M.レスタック/新曜社)

「人生の体験は、重要なものほど、一回しか起こらない」
(「クオリア降臨」茂木健一郎/文藝春秋)

「心にこの上なく鋭く鮮やかに深く刻みこんで、素晴らしい想い出にしておくためには、何度もくり返してはいけないのよ」
(「幻魔大戦2」平井和正/角川書店)

ジャレド・ダイアモンド著「銃・病原菌・鉄 一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎」(草思社)には、「発明じたいがむずかしい例としては(文字)、水車、回転式ひき臼、歯車、磁針、風車、写真術などがある。これらは、新世界ではまったく発明されていない。旧世界でも一度か二度発明されただけである。」とある。

自分の体験に照らしてみても、大切なことがそう何度もあったわけではないことに気づかざるを得ない。啓示を受けた人は、一生それを超えることはできないのだろうか。

啓示のあと

啓示を受けたあとに、なにをなすか。それはひとによってさまざまだ。

MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボを率いるニコラス・ネグロポンテ氏は、およそ10年前に著作「ビーイング・デジタル」で、「すべてがデジタルに統合されていく」というイメージを提唱した。写真、音楽、映像、書物と、あれから10年ですべてがそのとおりになった。そのイメージを具現化するために、MITはいまでも最先端の研究を続けている。ネグロポンテは、MITに次々と研究者を集め続けている。

しかし、ネルソン氏は組織派ではない。スワースモア大学、ハーバード大学大学院、慶應義塾大学、北海道大学、オクスフォード大学、サザンプトン大学、ワダム大学。ほとんど世界中を放浪しながら、ネルソン氏はXanaduを説き、その足がかりとしてのZIGZAGを開発し続けている。

今回のインタビューの待ち合わせ場所は、東京都新宿区四ツ谷の路上だった。四ツ谷三丁目の交差点にある消防博物館前。なんとも奇妙な場所だ。ネルソン氏は言う、――堅苦しいのは嫌いなんだ。

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