【インタビュー】
ネルソン氏の父は映画監督ラルフ・ネルソン、母は女優セレスト・ホルム。芸術家の両親の気質を受け継いだのか、テッド・ネルソンの身体表現力は、リラックスした雰囲気のなかで十二分に発揮された。親密な笑顔、おどけた様子。ZIGZAGを語るときの熱っぽさ――
テッド・ネルソンは、いったいどこからハイパーテキストの啓示を得たのだろうか。
最近、DVDビデオなどで、映画のエンディングには複数のバージョンがあること、しばしばハッピーエンディングとそうでないものの両方を撮影し、最終的に公開するバージョンを決めるのは監督でない場合も多いこと、映画にはディレクターズカットなどとして、まったく別のバージョンが存在しうることが、広く知られるようになってきた。
あるいはまた「女優」から、美内すずえ作の漫画「ガラスの仮面」を連想もした。ヒロインの北島マヤが、ひとつのシチュエーションに複数の演技を次々と演じてみせるシーン。
もしも幼いネルソン氏の前で、父のラルフ・ネルソンが複数バーンジョンの脚本を書き、あるいは母のセレスト・ホルムが北島マヤのように複数の演技の練習をしていたとしたら――。それはハイパーテキストへの啓示になりはしなかっただろうか。
「ぜんぜん違うよ」と、ネルソン氏は即座に否定した。「『Paddle-to-the-Sea』という絵本がきっかけだったんだ。この本は今でもAmazon.comで買えるから、ぜひ手に入れるといい。これは世界の歴史を地図に示したような、どこからでも読める絵本なんだ」。世界観を示す羅針盤としての原初体験だ。
「書くことも好きだった。いろいろなことに興味をもって、長く長く文章を書き続ける。長い文章を書くと、それをどう編集したらいいだろうとか、どのアイデアとどのアイデアがつながっているんだろうと考えるんだ」。
「なぜものごとには制限があるんだろう。なぜ本当はいろいろなものが背景にあるのに、それをなくしてひとつのことだけに当てはめてしまうんだろう。説明をするのがたやすくなるとしても、なんだかそれにはもの足りなさを感じてしまうんだ」とネルソン氏は続ける。「みんなちゃんとものごとを引用して話せばいいのに。著作権法でうまくいかないこともある。だから、引用をちゃんとできるようにしてやればいいんじゃないかとも考えた。異なる文脈にひとつの文章を置くことで、別の意味をもたせることもできるだろうと考えたんだ」。
「ハイパーテキストについて全部を話すのは、とても長い話になるよ。一度に全てを説明しきれたもんじゃない」
ネルソン氏が「Bad Design」(悪いデザイン)だというインターネットのハイパーテキスト。筆者はもう少し踏み込んだハイパーテキストを知っている。BTRONである。
BTRONは、OS自体が実身/仮身モデルというハイパーテキスト構造になっていて、常時編集可能であり、複数のバージョンを自在に編集しジャンプできるほか、Xanaduのイメージする「トランスクルージョン」(Transclusion: ネルソン氏による造語で、コピーと異なりハイパーテキストでオリジナルのまま引用する機能)があるからだ。
「ハイパーテキストは小さなテキストが多重に重なり、複数のバージョンがあったり、言葉の意味同士がつながりあったりして存在する」とネルソン氏は説明する。その感覚は筆者にもよくわかる。ものごとのありようは、たったひとつだけで存在するのではなく、さまざまなものの多重的な存在のなかから浮かび上がってくる氷山の一角だと考えているからだ。
編集できることは、ハイパーテキストにとって必須条件のひとつ。なぜなら、テキストにアノテーションを加えて新しいバージョンをつくることは、ハイパーテキスト自体を成長させることになるからだ。
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小さなテキストが多重的に重なってハイパーテキストができるんだ――ネルソン氏はシステム手帳をメモ帳にして説明。このシステム手帳はストラップで腰につながっていた |
手帳マニアの筆者は人の手帳を見るのも好きなのだが、自分ではVAIO UにSmartWriteをインストールして手帳としている。ネルソン氏にも使ってもらった |
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