【レポート】
この後は清水上氏と激指の対局を振り返りながら、コンピュータ将棋の弱点や今後求められるものなど、多岐に渡る話題に花が咲いた。
まず話題に上ったのが、何を持ってコンピュータが人間に「勝った」とするかという定義の問題。今回解説を担当した島朗八段は「早指しルールなら比較的早い時期にコンピュータが人間に追いつくだろうが、(名人戦・竜王戦などの)タイトル戦ルールとなるとまた話が違うだろう」と語ったのに対し、松原氏は「名人戦のような2日間に渡る対局だと、初日の夕方の封じ手(その時点で手番を持っている側が、次の日の一手目を紙に書いて封印する)の後、翌朝の対局再開までの間にコンピュータが夜通し手を読むこともできるので、その間電源を落とさせるかどうかといったことも考えなければならない」と語り、ルールを決める難しさもうかがわせた。
また清水上氏が「事前に何度か(市販ソフトで)練習したところ、序盤が良くてもその後油断して負けるパターンが多かったのでそれに気をつけた」と語ったことを受けて、島氏が「人間側がコンピュータをきちんと研究すれば、(コンピュータが勝つのに)さらに2~3年はかかるのではないか」、松原氏が「(チェスで)カスパロフがDeep Blueに負けた際も、カスパロフがコンピュータをなめてかかっていたことが大きく影響した」と語るなど、挑戦を受けて立つ人間側の準備も重要であるという点でパネリストの意見は一致した。
実際の対局を振り返った中では、激指が急戦気味の手筋を選択したことに対して鶴岡氏が「急戦は最初に駒損しやすいので、コンピュータ側から攻めていくのは難しい」「勝負に勝つことだけを考えるなら別の(持久戦気味の)手筋を選ぶだろうが、今後コンピュータが直すべきところを教えていただくためにもバランスの取れた選択をした」と語った。清水上氏が序盤の駒組みが終わったところで「激指側は発展性のない形なのでいずれ手詰まりになると思い、作戦勝ちだと思った」と述べたのに対し、鶴岡氏が「この時点で激指は全くの互角だと判断している」と語るなど、清水上氏がうまくコンピュータ側の苦手な戦法に持ち込んだこと、そして激指はその不利な状況に気づいていない様子がうかがえた。
終盤でも清水上氏が「飛車さえ取られなければ安全と思っていた」と述べたのに対し、鶴岡氏が「ここでもまだ(激指の評価関数上は)数百点差しかなく、実際に寄せられるまでわからないのが弱点」と語るなど、今回の対局では双方とも大きな駒得が発生しなかったことから、コンピュータは自分が不利であることに終盤まで気づかなかった様子が明らかにされた。
会場との質疑応答では、まず「勝ち」の定義について「コンピュータ将棋の側からいわゆる『新手』(新たな定番としてその後広く指されるような手)を生み出すようになってこそ、コンピュータの『勝ち』ではないか」という意見が出されたのに対し、伊藤氏が「今回の対局でも大局観がないが故に出てきた手もあり、そこから良くなる手がもしあれば近いうちに出てくるのではないか」と語ったほか、「今回も終盤の着想などは感心する部分があり、むしろそういう精神的な積み重ねがボディーブローのように効いてやられるのではないか」(島氏)、「PCの側は新手という意識はないだろうが、プロがそれを見て驚くということはすぐにも起こっておかしくはない」(松原氏)など、コンピュータが新手を生み出す日は近いとの意見でパネリストは一致した。
また「大局観をコンピュータの側からどうアプローチすべきか」という質問には、清水上氏が「大局観にはこれといったトレーニング方法がなく、単純に経験を積み重ねるしかないため、コンピュータには難しいと思っている」と語ったほか、鶴岡氏は「コンピュータの立場から言えば『評価関数を洗練させる』ということになるが、人間の読みはある種ノンリニアな部分があり、さらに自動学習までさせるとなるともっと難しい」、伊藤氏は「一応そういうアプローチでソフトを作ってはいるが、強い人になればなるほどあまりにも自然にやっているため言語化できない」と述べ、その難しさが垣間見えた。
「今の段階で時間無制限・スパコンを使うなどすればどこまでコンピュータ将棋は強くなるのか?」という素朴な質問も出されたが、これには鶴岡氏が「(今の思考速度から)100倍早くなれば、早指しなら名人・竜王と勝負できると思うが、序盤については速度向上が強さに直結しないので果たしてどうなるかはやってみないとわからない」と回答した。ただ松原氏は「チェスは過去に専用コンピュータを使うプロジェクトが多数存在したが、将棋は今まで4CPUを使ったものが最高で専用ハードを使ったものがない」とも語り、「今が専用ハードにトライするラストチャンスかもしれないので、ぜひそういうプロジェクトをやってみたい」としてスポンサーの登場に期待する一幕もあった。
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