欧州ソフトウェア特許について考える (3) ソフトウェアに特許はいらない - FFIIにその理由を聞く(2)

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【レポート】

欧州ソフトウェア特許について考える

3 ソフトウェアに特許はいらない - FFIIにその理由を聞く(2)

末岡洋子  [2005/12/19]
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--では、特許に反対する理由は何でしょう?

2つの理由を挙げましょう。

1つ目は、実際的でシンプルな理由です。プログラマがプログラムを書き、これを売る前にまず保護対策を講じるとします。特許申請した場合、コストがかかります。欧州の場合、1件につき約5万ユーロの申請費が必要で、さらに特許が降りるまでに3~4年かかります。その間も年間費が生じますし、この間、申請中のものを発行してはいけません。つまり、販売できるまでに最短でも3~4年待たなければなりません。ソフトウェアの世界では、3~4年は長いというのは、言うまでもありませんね。

2つ目は、精神論・哲学的な理由です。ソフトウェアは発明ではありません。ソフトウェアは、プログラミング言語をはじめ、すでに存在するものの組み合わせです。その結果できることは新しいことかもしれませんが、発明とはいえません。特許は20年間のモノポリーを認める仕組みで、他の人がそのソフトウェアを使えなくするようなことを申請することが正しいとは思えません。

特許を取得すると、収益を上げることができます。でも事実上は、取得したテクニックは、他の人にとっては使用禁止を意味し、他のプログラムからそのテクニックを取り上げることを意味します。特許はコピー(模倣)から保護すると主張する人がいますが、そんなことはありません。私が書いたプログラムとまったく同じことを行うが、まったく異なるプログラムを誰かが書くことはありえます。特許では、この部分に配慮していません。

さらにいうと、オープンソース開発者は、まず資金力がありませんし、特許システムに慣れていません。なぜなら、GPLなどのオープンソースのライセンスはいずれも、著作権をベースとしたものだからです。

--先ほどの話に戻ります。どうして著作権で成長した企業がソフトウェア特許を支持するようになったのでしょう?

もし仮に、1991年にBill Gates氏が特許を取得していたら、今日、ソフトウェアという市場はなかったでしょう。Microsoftはいまや大企業になり、投資や自社のポジションを保護する必要が出てきました。そこで、特許という手法を選ぶようになったのです。

歴史を振り返ると、ソフトウェアと特許との関係はつい最近のことです。80年代~90年代前半まで、ソフトウェア特許はメジャーではありませんでした。IBMがソフトウェアで特許を取得していましたが、IBMはほかにもたくさんの特許を抱えていたことから誰も関心を払っていませんでした。

そのIBMに勤務していたMarshall Phelps氏が90年代はじめ、IP(知的所有権)にもっと目を付ける(=収益に代える)べきだと思いつき、(IPポートフォリオのような)コンセプトを生み出したのです。1994年、Phelps氏は、自社がどんな特許を持っているのか、どの企業がこの特許を侵害している可能性があるのかを調べ、その企業の弁護士のところに対して、“われわれはこれだけの数の特許を持っている。御社がどの特許を侵害しているかはわからないが、その可能性は高い。支払うか法廷に行くかしよう”と詰め寄りました。多くの企業はいわれるままに支払ったといわれており、その金額は企業の売り上げの5%程度だったといわれています。いま、Phelps氏はMicrosoftで知的財産担当を勤めています。

ここではIBMとMicrosoftの話をしましたが、このようにして企業はソフトウェア特許に目を付けるようになったのです。そして、特許を所有する2社が双方の特許に対して快諾する「クロスライセンス」は、このころから一般的になりました。

でも、それだけでは終わりませんでした。最近では、特許の仕組みに付け込んだ新しいタイプの企業も生まれています。たとえば、Microsoftが出資しているIntellectual Venturesという会社は、特許を収集するだけでなにも生産しない会社です。クロスライセンスはお互いに製品を生産するから結べるのですが、なにも生産しない会社はクロスライセンスを結べません。このような企業から特許侵害を言われた場合、企業は支払うしかありません。このような企業は“Patentroll(patent=特許、troll=トロール、奇怪な小人の意味)”と呼ばれており、PatentrollにはIntellectual Venturesのほか、Akasiaなどもあります。

掘り下げていくと、背後に弁護士の大きな影響力があることが分かりますね。米国で一昔前に盛んだったタバコ訴訟の弁護士たちが、新しい収益源としてソフトウェア特許に目を付けたといわれています。

--今回の否決は、欧州のソフトウェア特許にとって何を意味するのでしょう?

指令が通過すれば、加盟国は自国の法で指令を批准しなければなりません。が、否決により、指令そのものがなくなりました。つまり、各国の法はそのままということになります。ソフトウェア特許を支持していた人にとってこれは、1)これまでどおり、33カ国で引き続き異なる特許の申請・登録プロセスがある、2)特許訴訟を33カ国で行わなければならない、ことを意味します。

反対していたわれわれにとっては、良いニュースです。先に触れた通り、EPOはすでに4万5000件ものソフトウェア特許を発行していますが、強制力を持ちません(各国の法機関は自国の特許法を精査し、EPOが発行したソフトウェア特許に賛成するかどうかを決定できる)。このような現状の方が、ECが提案していた悪い指令が通過するよりも望ましいと思っています。

ただ、問題は残っています。クロスライセンスなど、特許システムを乱用するようなことがまかり通るということは、500年以上の歴史を持つ特許システムそのものに何か欠陥があるのではないか、といえます。まだ答えは出ていませんが、その可能性はあります。EPOはソフトウェアに特許を発行しています。EPOはEUとは独立しているため、EU側から変えることはできません。そのため、欧州にはソフトウェアと特許に関する、明確で的確な指令が必要なのです。

われわれは今後、特許をきちんと検査し、本当に機能しているのか、本当にイノベーションを促進しているのかを確認しなければなりません。

--今回の否決の後、関係者はすべて勝利宣言を出しました。どうしてでしょうか?

われわれは3年間、熱心に粘り強くロビー活動を続けました。そして、最後には欧州議会内で見解が変わってきたことを感じました。そして、(2度目の議会の検討で)Michel Rocard氏などの議員が21の修正案を制定することに乗り出したのです。この21の修正案は、主要な政党すべての支持を得ました。この修正案では、ソフトウェア特許は禁止されており、これが通過すれば、ソフトウェア特許を禁止する指令ができたわけです。そこで、ソフトウェア特許支持派のうちの、進化論者(IBM、Siemens、Philipsなど、特許との付き合いが長い大企業)は"指令はないほうが良い"といい始めました。一方のアナーキスト(BSA、EICTAなど)は、それでもソフトウェア特許が必要と主張していました。

Rocard氏は、21の修正案で過半数を得られることを確信していましたが、リスク(ECが修正案を無視した指令を強制する)についても承知していました。そこで、否決しようとなったのです。このような状態では、否決しか道はなかったのです。

そして、誰もがみな、"自分たちの勝利だ"といいました。FFIIにとっては、良い指令が通ることがベストでしたが、否決は"セカンドベスト"の結果でした。アナーキスト型のソフトウェア支持者にとっては、完全な負けだったはずです。

--今後、ソフトウェア特許に関してどのような動きがあると予想していますか? また、FFIIの今後の活動予定は?

この3~4年間は、大きな変化はないでしょう。今後の活動予定としては、まずは資金集めです(笑)。ちなみに、これまでに費やした資金は30万ユーロ、すべて寄付金ベースです。

その次に、各国レベルで特許法を変えるロビー活動を考えています。この活動のベースとして、Rocard氏の21の修正案を利用したいと思っています。口で言うほど簡単なことではありませんが、3、4カ国が自国法でこの修正案を取り入れれば、新しい指令にも影響を与えることができます。

--3年間の活動を振り返ると?

ロビー活動は楽しかったです。極右派の議員に声をかけられて議会の中に入ったり、ストラスブールでは川で賛成派の立派な船の横でボートを帆走させたり……。

個人的なエピソードとしては、オープンソースに移行中のミュンヘン市が一時期、ソフトウェア特許の懸念から計画を中断したことがありますが、私がその際の調査書を作成しました。この調査書によりミュンヘン市は移行計画を続行することになったのですが、この一件がきっかけで、FFIIは世界の報道関係者の注目を集めるようになりました。もちろん、支援にもつながりました。

また、ドイツのLinuxイベントでデモをしたとき、スピーチのためにきていたJon "maddog" Hall(Linux International)も来ていました。"一緒に参加しないか"と誘ったところ、同感してくれましたが、"明日、ミーティングでカナダに行かなければならない"と断られました。このとき、Jonは寄付代わりにTシャツを買ってくれたのですが、翌日、デモの場所に行くと、JonがTシャツを着て立ってるではありませんか。--Jonは、"カナダに行って同じことをするよりも、今日この運動に協力することのほうが意義があるのではないかと考え直した"と言い、先頭に立って歩いてくれました。

欧州は今回、ソフトウェア特許について考え直すきっかけを世界に与えました。米国と日本はソフトウェア特許を認めていますが、米国では見直しの動きも出てきています。また、開発国からも、米国から採用を求められている知的所有権システムは本当に必要なのかという疑問の声が上がり始めています。

われわれはこの4年間、常に同じことを主張しました。一方、ソフトウェア支持者はポジションが何度も変わったことから、議員の中には、“特許支持派の主張は一貫性を欠いていてよくわからない”と言って、われわれに聞いてくる人もいたぐらいです。われわれにはネームバリューも資金もありませんでしたが、信頼してもらったことが運動成功につながったと思っています。

FFIIのメンバーはすべて、ボランティアベースです。私の場合、Webコマースソフトウェアの開発に携わったとき、ショッピングカート、支払いなどありとあらゆるものに特許が存在することを知りました。これを使うと訴えられる可能性がある、恐ろしいことだと思いました。このようなことからソフトウェア特許に疑問を持ち、活動に加わったのです。私は仕事の合間に活動に参加していますが、この運動のために会社を1年休職した人間もいます。みな、疑問と問題意識を持って、活動に加わりました。

まだ戦いは続きますが、今回、われわれのような小さなグループでも変化を起こせるのだということを体感しました。自分の活動が世の中に変化を起こしている、行動を起こせば人々は気がついてくれる、とても面白く、すばらしい経験です。われわれの活動は、ひょっとして、40~50年前の環境保護団体にたとえることができるのかもしれません。

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インデックス

目次
(1) 欧州ソフトウェア特許はどうして否決となったのか?
(2) ソフトウェアに特許はいらない - FFIIにその理由を聞く(1)
(3) ソフトウェアに特許はいらない - FFIIにその理由を聞く(2)

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