【レポート】

欧州ソフトウェア特許について考える

1 欧州ソフトウェア特許はどうして否決となったのか?

末岡洋子  [2005/12/19]
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7月6日、欧州議会はソフトウェア特許こと「directive on the patentability of computer implemented inventions」を、647対14(棄権18O)という大差で否決した。これで、ソフトウェアは特許可能かどうかをめぐって3年間繰り広げられた議論は、ひとまず振り出しに戻ることになった。この間欧州で何が起こっていたのか、どういう経緯を経たこの否決なのか。前半では事実関係をまとめ、後半ではFFIIのメンバーの1人、Jan Wildeboer氏に話を聞いた。

欧州には、特許の法体系として、1973年に成立したEuropean Patent Convention(EPC、欧州特許条約)があり、EUとは独立した欧州特許局(EPO)という機関が特許を発行している。EPCの第52項では特許除外項目について触れており、コンピュータプログラムはこの除外項目に入っている。つまり、欧州ではソフトウェアやビジネスロジックは特許の対象とならないのが表向きのスタンスだ。だが、この仕組みは必ずしも有効に機能しているとはいえず、関係者は以下のような問題点を指摘していた。

1. EPOで取得した特許は加盟国25カ国では自動的に有効とならない。また、各国はばらばらの特許法を敷いている
2. 第52項でソフトウェアは特許の対象外となっているが、慣行として例外処理により特許取得が可能である

実際、EPOはソフトウェア特許を発行しており、その数は数万件ともいわれている。今回の一連の論議は、特許に関するルールを加盟国間で一致させることと、この第52項の再定義に焦点を当てたものといえる。

修正を繰り返した指令

欧州連合(EU)の決議プロセスは、執行機関である欧州委員会(EC)が指令を提案し、それに対して閣僚理事会と欧州議会が正式な指令とするかどうかを検討する、という流れだ。

まず2002年2月、ECは指令“Directive on the Patentability of Computer-Implemented Inventions(コンピュータプログラム関連の発明特許に関する指示)”を提案した。このとき、ECはその目的として、条項と実際の慣習の間にある隔たり、プロセスのあいまいさを解決するため、また加盟国間で一致した法体制を敷くため、としていた。欧州では、指令が可決されると、EU加盟国は自国法で指令を批准しなければならない。この指令に対し、同年11月、閣僚理事会は承認を出した。

その後、指令は欧州議会の判断を待つことになるが、ソフトウェア特許反対派は欧州議会の議決の前に大規模な抗議活動を起こし、議決は遅れた。反対の理由は、ソフトウェア保護は著作権で十分であり、特許を認めることは、オープンソース運動や中小企業にとって打撃となるため、とした。反対運動の指揮を執ったのは、Foundation for a Free Information Infrastructure(FFII)、NoSoftwarePatents.comなどのボランティアベースの市民団体。オンラインではWebで署名を受け付け、オフラインではブリュッセルにあるEU本部前に集まりデモ活動を行った。MySQLやRed Hatといったオープンソース企業も、このような市民団体を支援した。時を同じくして、経済学者らは、ソフトウェア特許と経済効果を調査した結果、ソフトウェア特許は欧州経済にはマイナスになるとの論文を出した。

その結果、2003年9月、当初の予定より1カ月ほど遅れて議会を開いた欧州議会は、この指令に修正案を加えたものを可決する。修正案は反対派の意思が盛り込まれたものだったため、指令の可決は両陣営にとって勝利とも敗北ともいえない結果となった。議会が付記した修正案の中には、特許の利用が相互運用性の場合は使用料は発生しない、ビジネスや数学的メソッドを実装したコンピュータプログラムのうち、プログラムとコンピュータ間の通常の物理的インタラクションに影響を与えないものは特許の対象外とする、などがあった。

議会と異なる見解を示したECと閣僚理事会

戻された修正案付きの指令に対し、ECは採用・書き換え・削除を行い、再度指令を作成、これを閣僚理事会に提出する。書き換えられた指令は、欧州議会側の見解をほとんど無視し、原案(つまり、ソフトウェア特許容認)に近い内容となっていた。2004年5月、閣僚評議会はこの原案に近い指令を承認。このとき、正式な投票なしに承認されたことから、反対派のさらなる反感を買った。

この間、各国ではこの指令の妥当性に関して議論が行われた。たとえば、ポーランドは指令不支持の立場を表明。オランダ、ドイツ、デンマークなどでも反対意見が強く出た。このようなこともあり、2005年2月、欧州議会の法務委員会はECに対し、指令の再検討と書き直しを要求する。だが、ECは要求を無視し、3月、閣僚評議会は同指令を正式採用扱いとした。

そこで4月、欧州議会は2度目の検討を開始する。今回報告役を務めたのは、左派で知られるMichel Rocard氏(元仏首相)。欧州でカリスマ的な存在を持つ政治家だ。同氏はソフトウェア特許を認めない方針の修正案を盛り込んだが、6月、議会投票に先駆けて行われた法務委員会の投票では、Rocard氏の提案した修正案は否決された。

そして7月6日、欧州議会はついに、指令そのものをいったん破棄する道を選んだ。

Rocard氏はこのとき、否決の背景として「欧州議会は、2度目の検討で加わった修正案をECが考慮しないのではないかという恐れを抱いていた。危険の多い(EU内の)調停手続きにより、ソフトウェア特許を認める文章を盛り込んでしまう事態を避けるための否決だった」と述べている。また、「(ECが)再度われわれの認識を無視することに対する拒否の投票でもあった」と述べるなど、EC/閣僚評議会と欧州議会の間に不信感があったことを示唆するコメントも残している。

反対派、支持派による熱心なロビー活動

この間、先に挙げた反対派はもちろん、支持派も盛んなロビー活動を繰り広げた。支持派は、米Microsoftをはじめとした主要ITベンダーで構成されるBusiness Software Alliance(BSA)、独SAPやフィンランドNokiaなど、欧州の大企業が中心のEuropean Information & Communications Technology Industry Association(EiCTA)など。彼らの主張は、“特許は欧州のイノベーションと競争優位性に不可欠”というもの。反対派では上記のFFIIらのデモ活動のほか、2004年11月にLinus Tolvalds氏が他のオープンソース運動家と共同で作成したソフトウェア特許反対を表明する声明文も話題を呼んだ。

だが、7月6日の欧州議会の投票が行われる直前には、賛成、反対の両派とも、このまま中途半端な指令が通過するよりも、いったん破棄したほうが良いとの見解を示していたようだ。7月6日の議会否決の後、両派はそれぞれ「歓迎」を表明した。

調査会社の英Ovumのアナリスト、Gary Barnett氏は今回の否決に対し、「異論がないくらい、正しい選択」と述べている。「議論は泥沼化したし、両陣営とも実用的な視点での議論を行っていなかった。欧州の産業にとっては、悪い指令が通過するよりもこの結果で良かった」(Barnett氏)。だが、現在の欧州特許システムでは、反対派、賛成派の双方にとって問題が残ったままであることから、改革は早晩必要になると述べている。

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インデックス

目次
(1) 欧州ソフトウェア特許はどうして否決となったのか?
(2) ソフトウェアに特許はいらない - FFIIにその理由を聞く(1)
(3) ソフトウェアに特許はいらない - FFIIにその理由を聞く(2)


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