【レポート】

実験住宅「ユビキタスホーム」へ引っ越してみた

4 テ・レ・ビ・ヲ・ツ・ケ・テ

    美崎薫  [2005/12/13]

    風呂のお湯の温度を調整するのに大苦戦し、フィノはまるで言うことを聞かず、ユビキタスホームといっても住んでみればオール電化の家との違いは説明しにくいなぁ、などと思いながら、日々は過ぎていく。

    「テ・レ・ビ・ヲ・ツ・ケ・テ」

    フィノの音声認識は、ご想像の通り、かなり無理のあるしろものであった。「テレビをつけて」というとテレビがつくという設定なのだが、音声認識に認識されるように発話するには、通常の会話のように語尾を曖昧に発音するようではだめなのである。フィノの首を持ち上げてマイクの指向性を高めた上で、はっきりと一定の音量と速度で、「テ・レ・ビ・ヲ・ツ・ケ・テ」と発話しないとだめなのだ。

    二日目くらいまでは、もうほとんどだめで、もともとテレビを見る習慣はあまりないのだが、ここまで認識されないと、もうめげるというか、あきらめるというか、テレビなんか見なくてもいいや、という気分になってしまう。

    逆に、一度でもテレビがつくと、もう消したくなくなってしまうのである。どうせ電気代が自腹なわけでもなし、などと昏い考えも頭をよぎる。ふだんはこまめに電気を切るタイプのような気もするのだが(「記憶する住宅」の電気代は、月15,000円~20,000円くらいだ)、住む場所によって生活パターンが変わってくるのだろうか。

    これでは、いくらフィノが生活パターンを学習するといっても、ぜんぜん学習になっていない……。

    そんなわけで、風呂にはいると、鼻歌の代わりに、「テ・レ・ビ・ヲ・ツ・ケ・テ」と発話の練習をくり返す日々が始まった。人間のすごいところで、どんなに使いにくいものでも、あっという間に使えるようになってしまうものなのだが、このフィノも、3日目くらいには、なんとか3割くらいの確率で使えるようになってきたからおそろしい。正直言って、人間って、なんてすごいのかと思った。

    フィノへの愛着は、住む人間によってそれぞれらしいのだが、フィギュアは嫌いでないとしても、ロボットにはほとんど関心がない美崎にとってみれば、言うことを聞かないフィノは、インタフェースとしては良くないものに思えた。言うことを聞くようになっても、取り立てて愛着がわいたわけではない。居住者のなかには、愛着をもった方もいたそうである。

    このあたり、ロボットのモチーフに『天空の城ラピュタ』のロボット兵を使うとか、いっそフィギュアで惣流・アスカ・ラングレーにするとか、ドラスティックなキャラクター導入を用いたらどうなるかというところには、少し関心がないではない。

    「テ・レ・ビ・ヲ・ツ・ケ・テ」
    「あんたバカ~?」
    「テ・レ・ビ・ヲ・ツ・ケ・テよ~」
    「あんたバカ~?」
    「動け、動け、動け、動け、動け、動け、お願い動いて。いま動かなきゃだめなんだよぅ」

    ……古典的なネタになってしまった。

    ちなみに、2週間の滞在のあいだに、けっこうおおぜいの友人・知人が次々と訪れたのだが、そのあいだで、この「テ・レ・ビ・ヲ・ツ・ケ・テ」は流行語になってしまった。びみょーなイントネーションで「テ・レ・ビ・ヲ・ツ・ケ・テ」といっているのが聞こえたら、ああユビキタスホームの話をしているのね、と理解してもらって差し支えない。

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