【レポート】
このレポートは、毎日放送(大阪市、TBS系列)の方々への対話を通じて、放送局の現状をお伝えするものである。ただし、放送および放送局を巡る話は、大変に興味深いし話題も多方面に及ぶが、そのすべてをこの紙面で語ることは到底できない。そこで、放送局とイノベーションの関係、とくにインターネットとのかかわり方を中心にお話したい。
毎日放送(MBS)は、関西圏(二府七県)を放送エリアとするテレビ局であるが、ラジオ放送も行っている。ここが手がける代表的な番組は、「世界ウルルン滞在記」や「世界遺産」などである。TV局の系列(規模)から見ると、準キー局という地位にある。社歴は設立が1950年なので、半世紀を越える名門放送局といえるだろう。
この1年ほど、TV局の話題が多かった年はない。とくに、TV局にとっては、成長著しいインターネット通信業者からのM&Aによる攻勢への対応に追われてきた一年といえる。しかし、このレポートのテーマとしてはこのことではなく、今のTV局のメディア力の一側面をお伝えすることとしたい。
TVは今も昔も家庭における娯楽の王様である。筆者が物心ついたときには、まだ白黒TVで、真空管が使われていた。今からみればみすぼらしい画質を、多くの国民が噛り付くように観ていた。その後、カラーTVの時代が訪れ、さらには大画面化・高精細化が進んでいった。近時では、薄型大画面化とデジタル化が完全に定着し始めている。
そのTV局が危機を迎えているというのは、ちょっと考えるとおかしな話である。まずはこの危機の中身を考えたい。その第一は、株式の取得によるTV局の経営権に対する支配の問題である。しかし、これはなにもTV業界に限ったことではない。日本企業のM&Aに対する防衛策の甘さが招いた問題といえる。現に、他の業界のM&Aは、今年度非常に多いといわれている。第二は、放送メディアの技術革新によって起きた課題である。10年近く前、BSやCSの登場によって、「地方局が無くなる!」とさわがれた話がそれである。しかし、これはキー局の系列局に対する関係性の問題なので、いわば自分の振る舞い方の問題である。第三は、デジタル化への対応の問題である。地上波デジタル放送を行うための設備費用は巨額となる。しかし、これも費用の回収問題であるので、経営努力の問題である(または社会的負担の問題である)。最後が、インターネット配信との関係である。これは、「放送と通信の融合」か「連携」であるかは別にしても、放送に関するユニークで本質的な課題を内在している。
総じていうと、TV局は今も昔もその基盤は磐石と言えよう。実際、放送事業は国の免許事業なので、原則として新規参入のない世界である(CSやBSはありうるが)。しかも、国民にこれだけ毎日観られている企業はまずない。他の業種の企業がどんなに巨大でも、TV局にCMを流さない限り、商品を短時間に、あまねく日本国民に知らせることはできないであろう。豊かな社会となり、成熟社会になればなるほど、無数の商品が存在するのであるから、TV・CMの意義はかつてないほど重要であろう(まだインターネットは統計資料などから判断するとTVの10分の1程度の影響力しかないといえようか)。
このように、TV局は、実にすばらしいビジネス上のポジショニングと潜在能力をもっているにもかかわらず、それを活かし切れていないようにも感じられる。このような状態を経済学の言葉を使えば、保有資産(資源)が効率的に利用されていないという表現を使う(投資家が放送局を狙う正当性がここにある)。とくに、次に見るように、次々と新しいチャネルが生まれている割には、今のところ目新しいコンテンツや仕掛けが生まれていないように感じられるのである。
ドイツの経済的なことわざに、「ビジネス制約(危機)は、ビジネスチャンスである」というものがある。TV局は、BS・CSから始まって、地上波デジタル放送、そして来年四月から本放送が始まる携帯放送、さらにはインターネット配信など様々な技術革新に襲われている。その度に、巨額の費用を強いられることになるが、これはビジネスチャンスに他ならない。放送できるチャネルがますます増加するということは、番組コンテンツという商品を販売する経路が増えることを意味するので、原則的には絶好の機会である。それなのに、負担ばかりが語られるのはなぜだろうか。
そのひとつは、TV市場の飽和化がまず考えられる。視聴者数は増えず、所得も拡大していない世界では、経済学的にみれば、チャネルの増加は、1チャネルあたりの視聴者数または収入が小さくならざるを得ない。この世界で収益を上げるためには、限られたパイの分け前を拡大するしかない(これは単純なシェア獲得競争であるが、TV局では視聴率競争という名前に変わる)。それでもチャネルの増加は、全TV局の総経費を上昇させるので、当然利益は薄くなる。
この制約を乗り越えるためには、上で述べたように自局の売り上げを伸ばすか、マクロ的なTV市場を拡大させることが必要である。そのためには、ひとえに、番組コンテンツの魅力の向上に尽きる。これは、一つ一つの番組の面白さをより追及する面と、いまひとつは、ここでの議論の中心である「新しいチャネルにふさわしい番組コンテンツの創造」(当局メディア開発局次長兼デジタルセンター長・塚田清志氏)であるといえよう。それを、携帯TVとインターネット配信ビジネスについてより詳細に検討してみたい。
2006年4月から、携帯電話用のTV放送(別名、1セグ放送)が本格的に開始される。これは、地上波テレビ放送と同じ内容のものを当分は放送することを義務付けられている。これによって、TV放送事業者は、もうひとつの放送チャネルをもつことになる。すなわち、視聴者数をこの放送分増加させることができる。これは、TV放送事業者の広告収入が増加する可能性が高まり、勿論、市民も戸外でいつでもどこでもTVを見る機会が増すので望ましいといえよう。ただ、このような面では、また新しいチャネルが追加されたというレベルかもしれない。
しかし、このメディアは、「電子商取引(EC)を考えるだけでも、大変に相性がいい」と当局メディア開発局専任部長・長井展光氏はいう。確かに、親指一本で、商品購入のための操作ができ、課金も通信料金に含めることができるからである。「BtoC」型ECにおいて、着メロ・着ウタなどが早々に市場化できたのもその理由であろう。しかし、PCと携帯電話からのEC販売の絶対量は、前者が圧倒的に大きいのも事実である。今後は、その限界を携帯TVの中でどう打破していくかが大きな課題であろう。ただし、地上波デジタルTVでも、BS・CSでも、インタラクティブ性をもつことはできるのである。しかし、TV局はそのインタラクティブ性を含めた潜在能力をいまだ開花させていないといえよう。
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