【レポート】
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バイオカイトの飛行テストが繰り返された西宮浜(御前浜公園) |
無風の室内でも飛ぶバイオカイト……。なかなか開発コンセプトも定まらないまま、ある時、森氏はバイオカイトの胴体部分に30gの錘を付けて、飛行機というよりはグライダーの感覚で滑空させたところ、20~30mはスムーズに飛ぶことを発見したという。風による揚力は発生しないため、上昇していくのは難しいが、この状況を見た伊藤博士は「30gの錘で滑空したのであれば、それより軽いモーターを搭載して、鳥のように羽ばたく凧の設計が行えるかもしれない」とのアイデアを口にした。バイオプレーン開発への長い道のりの始まりである。
当然のことながら、航空機力学をモデルに開発されたバイオカイトの機体にモーターを搭載して、頭部にプロペラ飛行設計を採用すれば、飛んではいく。しかし、これではすでに市販されているゴム動力のプロペラ飛行機の模型と、何ら大きく変わるところがない。別の試みとしては、地元、兵庫の阪神甲子園球場で名物となっているジェット風船をバイオカイトに結び付けて、風船から吹き出す空気の推進力で飛行させることも考えられたという。しかしながら、最初は風船から勢いよく空気が吹き出しても、すぐに吹き出し圧が変化して推進力が衰えるばかりか、しぼむ風船が逆に錘の役割を果たすことになり、あっという間に墜落してしまったようだ。
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鳥に近いデザインに仕上がってきたバイオプレーン |
興味深いことに、バイオカイトは、飛行機に近いコンセプトの凧であるものの、A4ファイルサイズに折りたためるような、現在のコンパクトな設計に至る上で参考になったのは、自然界の鳥だったという。微風でも揚がるバイオカイトだが、凧として売り出す以上は、強風の下でも立派に凧として揚がっていく設計が求められてくる。当初は複雑極まりなかったというバイオカイト本体の骨組みは、様々な条件下での飛行テストを繰り返すうちに、いつの間にか鳥の骨格と似た配置に仕上がっていったそうだ。
鳥のように羽ばたく設計を備えられたら、バイオカイトは無風でも飛び続けられるに違いない。そう確信した森氏は、前よりも一層鳥を観察することが多くなったという。周囲を飛ぶ鳥を発見すると、ついその動きを目で追ってしまう。同氏は笑いながら「危うく事故になりそうな時が何度もありました。行き詰まった時は、必ず鳥に戻って考えようとする自分の姿があるんです」と振りかえる。
バイオカイトからバイオプレーンへの重要な変更点の中に、本体サイズの縮小が挙げられる。バイオカイトの標準翼長は約1mで、このサイズのバイオプレーンが完成したとしても、旋回半径が大きすぎて、とても一般的な建物の室内では使用できない。目標に掲げられたのは、6畳の広さの部屋でも旋回して飛ぶバイオプレーンの開発。その実現には、標準翼長50cm以下のサイズが求められ、それに伴って、搭載するモータには30gよりも厳しい重量制限が課されることとなった。
「何かを参考にしようにも、他に前例がない。未開の地、無人の原野を行くようなものです」と、森氏は語る。まず、搭載パーツを集めるため、玩具屋などに出向いては、ミニ四駆やチョロQのモーター、ギアなどを次々と応用テスト。携帯電話のバイブレーション機能などに用いられている部品も、片っ端から分解して試してみたそうだ。2004年2月には、バイオプレーン0号機とも呼ぶべき試作機が完成、かろうじて羽ばたき、2mほど飛行することに成功した。その後、開発を進めることで、次々と飛行記録が塗り替えられ、ついに商品化の一歩手前まで辿り着いたという。
すでに同社は、連続20時間は優雅に飛び続ける性能を備えたバイオプレーンの開発を完了しており、商品化を前にした最終耐久テストの段階に入っているという。実際に家庭用コンセントから電源を取り、専用回転ポールの周囲を羽ばたいて飛び回るバイオプレーンを見て、筆者は目を見張った。これは本当に鳥のようではないか! 不思議なもので、もっと激しく羽ばたかなければ落ちてしまうのではないかと思いきや、バイオカイトで研究を重ねた揚力を利用しているためか、いつまでも危なげな様子もなく飛び続けている。
バイオプレーンの第1号製品は、有線方式で専用回転ポールから連続給電が行われるため、基本的には何時間でもモーターを駆動させて羽ばたき、飛行が継続可能であるという。飛行速度は自由にコントロールできるそうで、最低速度は時速1km。部屋の中を旋回して飛んでいくバイオプレーンの動きは、なかなか速い。森氏によれば、もっと大きなサイズのバイオプレーンならば、羽ばたき回数を減らして、より優雅な飛行が実現できるそうだが、小さな鳥ほど羽ばたき回数が増えるもの。コンパクト設計のバイオプレーンは、墜落を避けるために一定の最低速度を維持して飛ぶことが求められる。
間もなく玩具メーカーと正式に提携して、全国でバイオプレーンの発売が行われるという。また、同氏が最も需要が大きいと紹介するのは、ショーウインドーなどで、バイオプレーンを「ムービングディスプレイ」として飾る利用スタイル。ハイレベルな操作技術が求められるラジコン飛行機とは異なり、バイオプレーンはだれでも楽しめるバリアフリー設計が目標とされており、フラワーアートの周りを飛び続けるチョウ型バイオプレーンを皆に眺めてもらうといったコンセプトで、各地のホテルやデパートなどへ提供していくプランが立てられているという。
同氏は、よくバイオカイトを海岸の砂浜に持って行き、空高く揚げて、ゆっくりとした時間を過ごすことがあるそうだ。上空のバイオカイトを見ながら、ずっと青空を眺めていると、いつの間にか大らかな気持ちになり、さわやかな心で帰宅できると、同氏はバイオカイトについて語る。実際、同じような感想がユーザーからも数多く届いており、ある施設では、精神的障害で悩む人々のリハビリにも活用されているという。
新開発のバイオプレーンへと注目が集まるものの、だれもが楽しめるバリアフリー設計や、自然界を観察して誕生したメカニズム、それらを身近に感じて親しんでもらおうというコンセプトは、バイオプレーンもバイオカイトも同じである。森久エンジニアリングは、バイオカイトの性能にも磨きをかけて、よりリアリティに富む立体化デザインの採用や、携帯電話と連動する、リモコン操作に対応したバイオカイトの開発なども進めているという。「今後もシリーズ化して登場する新製品群に、ぜひとも期待してほしい」と語り、森氏はインタビューを締めくくった。
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