【レポート】

$100ノートPCの現状 - デジタルデバイド解消へ、MITメディアラボ所長語る

    末岡洋子  [2005/09/30]

    途上国のデジタルデバイド解消に向け、マサチューセッツ工科大学(MIT)のメディアラボが乗り出している。スローガンは、「子供1人にコンピュータ1台」。9月26日、フランス・パリで米IDCが開催したイベント「European IT Forum 2005」にて、同メディアラボ創業者兼会長のNicholas Negroponte氏が取り組みの現状を報告した。

    Nicholas Negroponte氏。このような取り組みでは、「現地の先生の教育が大切」という。子供達が最初に覚える英語は「google」なのだそうだ

    Negroponte氏は現在、東南アジアなど途上国の子供たちにコンピュータを提供するため、One Laptop Per Child(OLPC)という非営利組織を結成して活動している。OLPC結成は今年1月。スイス・ダボスで開かれた世界経済フォーラムで発表された。

    OLPC着想のきっかけとなったのは「教育の重要性」とNegroponte氏は説明する。米コンピュータ誌『Wired』の創刊者の一人でもある同氏は、90年代はじめから、PC配布やセンター設置など、コンピュータ分野における途上国支援に関して各国政府機関やベンダーの相談に乗ることが多かった。自らの取り組みとしては、約5年前にカンボジアのある村にコンピュータを寄贈、実際に子供達の教育に役に立っていることを実感した。これが今回の非営利組織設立につながったようだ。

    OLPCの活動を支えているのは、設立時より参加している米Google、米Advanced Micro Devices(AMD)、米Red Hatをはじめ、メディアの米NewsCorp、流通の米Brightstarの5社。設立当初5社から集まった1600万ドル程度の資金は、100ドルPCの開発・検証やプロトタイプ設計に充てている。MITメディアラボは技術面での支援を行う。OLPCはコンピュータメーカーでもあるわけだが、実際の製造は中国で行われる予定だ。なお、支援企業は数週間内に3社が参加して、合計8社になる予定という。

    さて、100ドルのノートPCはいったいどのようなものになるのだろうか? 青写真がかなり出来上がってきたようだ。Negroponte氏はこの日いくつかの仕様を明らかにした。プロセッサは500MHzで駆動するAMDのチップを搭載、256MBのメインメモリ、最低でも0.5GBフラッシュメモリを持つ。インタフェースでは、USBポート×4などを計画している。Negroponte氏が「技術的ブレークスルー」と述べたのはデュアルモードのLCD画面で、野外で利用できる白黒画面とカラー画面を持つ。

    米E Ink製の白黒ディスプレイ。OLPCのノートPCもこのようなものとなる

    もう一つの大きな特徴が、ビルトインWiFiチップが実現するメッシュネットワーク機能だ。つまり、ある生徒がコンピュータを起動するとともに、そのコンピュータが他のコンピュータにネットワークを提供するノードにもなる。現在、コンピュータを閉じてもノードの役割を果たせるように取り組みを進めているという。MITラボにて技術面での検証済みで、あとは消費電力などの課題をクリアするだけ。これは第2世代以降で実現する機能となりそうだ。OSにはLinuxを採用する。Skypeの採用にも積極的な姿勢を見せた。

    これだけの機能を搭載して、どうやって100ドルを実現するのか? Negroponte氏は通常のノートPCのコストを分析しながら、次のように説明した。「(通常のノートPCの)価格の半分は、流通・営業・マーケティング経費。(OLPCの場合)この部分はほとんど必要ない。残りの半分はマシン本体の価格となり、ざっくり半分が画面、残り半分がそれ以外のパーツとなる。画面に関しては35ドル前後を目指しており、アプリケーションを"ダイエット"することで、処理能力をカバーする」。

    フラッシュメモリを選んだ理由は、「書き込み」より「読み込み」の方が多いと想定したため。このように、不必要な機能を取り除くアプローチで現在の仕様に至ったという。現在の試算では、1台あたりのコストは129ドルあたりまで下がった。100ドルというゴールが見えてきたようだ。

    無線インターネット接続は、主としてサテライト経由で提供する。サテライトは高価だが、村に1台設置して300人の子供が使った場合、接続に要する一人あたりのコストは月1ドル程度まで下がると予想している。第2世代ではサテライトディッシュを用いない方法を採用する計画もあり、MITが研究開発を進めているという。ちなみに、MITは台北にて1万ノードのメッシュネットワークを構築した事例もあるという。

    この100ドルノートPC、今年11月17日世界情報社会サミットにて、実際に動くモデルを発表、来年末までに最初の事例が出ることを目指している。現在、タイなど5カ国から受注を受けており、台数は国にもよるが、1国あたり500~1000万台単位とのこと。現在の課題は、億単位の数を生産するための生産体制という。

    ところで、先進国でも年齢、性、所得などによるデジタルデバイドが存在する。この問題に関してNegroponte氏は、「OLPCのフォーカスはあくまで開発国」としながらも、つい先日、米マサチューセッツ州で生徒1人1台コンピュータ所有を義務付ける法律が制定された例を挙げ、他の州や他の国もこのような例に習うのではないかとの見解を示した。「商用版の廉価ノートPCが出てくる可能性もあり、これが実現すれば世界中の取り組みを後押しするだろう」とNegroponte氏。なお、米メイン州では2002年に中学生の生徒と教師に米Apple Computer製のノートPCを配布した例がある。

    Negroponte氏は「ノートPCを1人1台」を強調する。誰もが使えるコンピュータがあるセンターではなく、デスクトップPCでもなく、どこでも持ち歩けるノートPC。「世の中を変えるのは教育」というNegroponte氏の言葉は、説得力を持って響いた。

    米マサチューセッツ州で配布を予定しているノートPCのモック。画面はカバーを360度回転させて閉じたところ。教科書のように利用できる

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