【レポート】
電力線搬送通信(PLC)といえば、家庭内のコンセントや電柱から引き込まれる電線などを利用して高速なデータ通信を行うことができる技術として以前から注目を集めているが、一方で電線から漏洩するノイズがアマチュア無線や航空無線などに大きな影響を与えるという問題が依然解決できておらず、本格的な実用化には依然大きな課題が残されたまま。その中で、今年に入って総務省においてHF(短波)-PLCの実用化に向けた研究会が再開され、現在も高速電力線推進協議会(PLC-J)らPLC推進派と、日本アマチュア無線連盟(JARL)や電波天文など慎重派との間で激しいつばぜり合いが繰り広げられている。
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武藤浩二氏 |
そんなPLCの現在の状況について、8月20・21日の両日に都内で行われたアマチュア無線業界の夏の恒例イベント「ハムフェア」内の技術シンポジウムにおいて、JARL電磁環境委員会の武藤浩二氏らから報告がなされた。果たしてアマチュア無線側は現在のPLCのおかれた状況をどう捉えているのだろうか。
PLCについては2002年に総務省の「電力線搬送通信設備に関する研究会」で規制緩和について激しい議論が繰り広げられた結果、最終的に「漏洩電波(ノイズ)の影響が大きすぎることから、現時点での規制緩和は困難」という結論が出る一方で、漏洩電波の低減についての技術開発を制約するべきではないとの姿勢から、研究開発目的の設備について事前の許可制による設置が2004年の初頭に認められるようになっている。その上で今年1月から「高速電力線搬送通信に関する研究会」として会議が再開されたわけだが、武藤氏によれば「これまでのところ決定事項は(唯一の例外を除いて)何一つない」という。
まずPLCの設備(モデム、配電線等)から漏洩する電波の許容範囲については、PLC-Jら推進派から出されている案は概ね電波法に定められている「免許を要しない無線局」の出力規制と同程度の水準だとのこと。この点について武藤氏は「無線局ですらないPLCが、免許不要とはいえ一応無線局として使われているものと同レベルの許容を求めるというのはおかしな話ではないか」との見解を示した。それ以外に研究会では電力線からの漏洩電波の放射特性の評価などが議論されているほか、海上無線・航空無線・短波放送への影響の評価実験が現在進行中であるということだが「アマチュア無線や電波天文への影響評価については検討すらされていない」(武藤氏)という状況。
そんな中前述した「唯一の例外」として、8月18日に開催された第8回の研究会で決定した事項が「漏洩電波の規制値として、パソコンなどからの放射電磁波の規制値を定めた規格である『CISPR22』(※)をベースに作業班を設置して検討を行う」という内容。これについてJARLは「賛成・反対を論ずる以前に評価する材料がない」こと、電波天文(国立天文台・大石雅寿氏)は「PLCからの影響の定量的評価の方法が決まっていない段階で規制値を検討しても意味がない」として賛否を留保したとのことだが、他の出席者からは特に意見がなく「いわば暗黙の了解の形で決定した」(武藤氏)。(※CISPR(国際無線障害特別委員会)はIEC(国際電気標準会議)の特別委員会で、CISPR22では「情報技術装置からの妨害波の許容値と測定法」を定めている)
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海江田威宣氏 |
研究会では10月を目処に一応の結論を出す予定となっているが、果たして残り2カ月で前述の作業班の作業が間に合うかどうかも不透明な状況。また今回のシンポジウムでは今年6月のJARL・PLC-J共同実験の結果、今年4月にJARLが行った都市部の環境雑音の評価実験の結果なども報告されたが、現状はデータ収集の範囲を出ず、結論としては「(PLC設備から)10~30mの距離では垂直偏波の方が水平偏波よりも支配的」などごくわずかのものしか得られてないという。そのため実験を元に結論を出すのも困難なことから、「残り時間が切羽詰った状況で急に情勢が変化していく可能性があり、より一層の危機感を持って対処していく必要がある」(JARL・海江田威宣専務理事)ということで、情勢は依然不透明なままといえそうだ。
一方海外の情勢はどうなっているのか。米国では、昨年10月にFCC(連邦通信委員会)が免許不要で電波利用が可能な範囲を定めた「FCC Part15 Rules」にPLC(米国ではBPL(Broadband over Power Line)と呼ばれる)に関する規定を追加したことから、今回その内容について紹介がなされた。
具体的な規制値については写真を参照していただくとして、その中で武藤氏が興味深いものとして強調したのが「BPL機器の一般への販売を禁止する(機器を購入できるのはPLCによるブロードバンドサービスを提供する企業のみ)」「BPL機器の設置に当たっては、運用開始の30日前までに設置場所等の情報を公開データベースに登録することを義務付けるほか、免許を受けた無線局に妨害を与えた場合の対処規定を定める」といった点。これらの規制により、仮にBPL機器により無線通信が妨害を受けた場合でも容易にその妨害源を特定して対処を要請することが可能なほか、機器の購入者がISP等に限られることで妨害発生時の適切な対応が期待できるなどのメリットが考えられる。
これ以外にも航空無線の周波数の利用禁止、沿岸警備隊や軍隊・警察等重要な無線局の周辺での利用禁止・事前調整義務などが定められており、武藤氏は「仮に総務省の研究会で(PLCの利用を)決めなければならなくなったとしても、最低限これぐらいのことは要求したい」とこのFCCの規定を賞賛した。
ただこのほかの国では、オーストラリアが今年4月から宅内・アクセス系両方のPLCについて規制緩和に向けたDiscussion Paperを公表しパブリックコメントの募集を始めた点、オーストリアのPLCトライアルが今年1月に全て中止されたのが目立つ程度で「それ以外の国の情報は入ってきていない」という。このことから、海外でもPLCに関する動きは鎮静化しているといっていい状況の模様だ。
いずれにしても「あくまで我々は『PLCによる無線通信への干渉』を問題にしているだけで、PLCそのものに絶対反対というわけではない」(武藤氏)というアマチュア無線側の意向は以前から一貫している。またPLC推進側の動きに対し、以前に比べ共同実験などの点で進展は見られるものの、仮に規制が定まってもそれがどこまで厳格に運用されるのかといった慎重派の不信感は依然拭いきれていない。PLCを導入するためには技術的な問題点の解決もさることながら、まずはこの不信感をいかに解消するかが問題だといえそうだが……。
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