【レポート】

GLOCOM forum 2005 - ネット上での表現の匿名性/存在の匿名性をめぐって

 

会場の模様

8月、国際大学グローバル・コミュニケーション・センターは、研究活動の成果を発表する「GLOCOM forum 2005」を開催した。今回のフォーラムは、「情報社会の合意形成」というテーマを掲げ、「ネットコミュニティと合意形成」や「日本コンテンツ立国論」、「地域情報化研究会」といった多様なセッションで研究者や識者が講演・討議を行った。

そんなGLOCOM forumの中でもやや異色のセッションといえるのが、新しいネットワーク時代の情報社会に求められる倫理やそのシステムについて議論を行う「ised@glocom」。この研究会自体は昨年10月から月1回ほどのペースで行われており、中でも倫理研では、過去に2ちゃんねるやBlogがネットに与える影響力や個人サイトによって作り出される情報の流れなどといった話題を切り口に「情報社会の公共性」について議論を行ってきた。

今回、共同討議に入る前に講演を行ったのが、産業技術総合研究所の高木浩光氏。高木氏はいわゆる「無断リンク禁止論争」における「無断リンク禁止派」と「反・無断リンク禁止派」との対立構造、RFIDやICカードなど人間の匿名性を奪う可能性を持つデバイスの抱える問題などを切り口に、ised@glocomのディレクターを務める東浩紀氏(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター教授)が言うところの「表現の匿名性」と「存在の匿名性」という2つの匿名性をネット上で確保するためにはどうすればいいのかという問題提起を行い、パネラーの間で激しく議論が行われた。

ネット上の「私的領域」の確保と侵害の判断の難しさ

まず高木氏は、「表現の匿名性」の問題の一例として無断リンク禁止論争を取り上げ、「個人サイトと企業・官公庁等のサイトについては話を分けて考えるべき」「企業や官公庁等のサイトについては無断リンクが当然認められるべきであり、少なくとも官公庁が無断リンクを許可しない限り『公的サイト』と『私的サイト』は分けられない」などと、多くの組織によるWebサイトの「リンクポリシー」を掲げて説明した上で、問題は「自分が望まないサイト(例: アダルトサイトなど)からリンクされることに対する感情的な反発」にあるとの考えを示した。

高木氏は、このような姿勢は公的サイトにおいては好ましくないが、個人サイトにおいては許容すべき場合があると述べた上で、個人サイトにおける無断リンクの是非について「アクセス制限等の技術的手段で制約すればいいという意見も多いが、実際には個人サイトを通じて『見知らぬ人とつながりたい』と思っている(=『繋がりの社会性』を求める)個人も多いことから、そのような状況下ではアクセスコントロールは解決手段とはならない」と語った。

またこれにコメントを付けた崎山伸夫氏(この日はJCA-NET理事としての肩書きで登場)は、最近mixi上で発生したあるユーザの強制退会事件(あるコミュニティ上で「コミュニティの雰囲気を乱す」としてコミュニティからの排除・再入会を繰り返していたあるユーザをmixi事務局が強制退会処分にし、再招待も禁止した)を引き合いに出し、「別にmixiの各コミュニティに参加禁止ユーザリストの機能を用意すれば、(強制退会処分となった)某氏と問題のコミュニティがmixi上で共存することは可能なのに、mixi事務局はそれをせずに某氏を完全に排除する方を選んだ」として、「アクセスコントロールによる共存ではなく『意に沿わない他者の完全排除』を求めるユーザが少なからず存在する」ことが、この問題をさらにややこしくしているとの見解を示した。

これに限らず「サイト所有者の意図に沿わないアクセス」を巡っては、Webサイトからの顧客名簿漏洩の各種事例や、いわゆる「ウイルス作成罪」の新設を巡る議論などにおいても問題が考えられると高木氏や崎山氏は指摘。これに対しパネリストの一人である法政大学の白田秀彰教授は、「元々社会学的には表現・存在・行動という3つの軸があり、かつてはそれぞれの軸の間には何らかのクッションがあったのに対し、現在はウイルスのように表現がある特定の行為に直接つながってしまうものが現れる一方で、自らの存在を表現したもの(多くは個人情報)というものも出てくるなど3つの軸の間のクッションがなくなってきており、この中で『表現の自由』という従来の原則も見直しを迫られているのではないか」と語り、表現世界のための新しいアーキテクチャが必要になると主張した。

「存在の匿名性」はネット上ではもはや維持できない?

もう一つ「存在の匿名性」について、高木氏は携帯電話のサブスクライバID問題(一部事業者では勝手サイトにも情報が送信され、しかも端末を買い換えない限り変更が不可能)など、固有IDをブラウザや物に組み込むことで生まれるプライバシー問題を取り上げ、「例えば電子マネー一つ取っても、実験段階では暗号等を利用して固定IDによる追跡可能性をなくすようなシステムがいくつも作られていたのに、実際商用化されたものにはそのような機能は実装されておらず、容易に固定IDによって個人の情報を追跡できてしまう」として、追跡可能性をなくす技術を採用しなかったサービス運営者側の方針を問題視した。

ただこの点については、白田氏が前述した「自らの存在の表現」という概念に対し、東氏が「Internet上においては大量の情報が流れていて既に人間の情報の認知限界を超えてしまっているため、今後、場合によってはAmazonのレコメンドサービスのような、個人情報(ここでは購入履歴など)を渡す代わりにおすすめの書籍やCDを選んでくれるなどの『世界の複雑さを縮減する』(宮台真司氏の表現)サービスを利用しないとまともに社会生活が営めなくなる可能性がある。そうなるとそこでは『存在の匿名性』を守ることは不可能になる」と語り、これからのネット社会では『存在の匿名性』がないことを前提に物事を考えるべきとの考えを示した。

東氏は「今でもソフトをインストールするときにきちんとライセンス条項を読んでいる人はごく少数であるように、少数の強い人は機械や各種の支援サービスに頼らず生活し、それ以外の多数の人は支援サービスを利用せざるを得ないという風になっていくのではないか」と語った。これに対し小倉氏や東京大学の北田暁大助教授は「いわゆる『著名人のお薦め』など目利きとしてマスメディアを利用することで、個人情報を提供しなくても生活は送れるはず」と主張したが、東氏は「ネット上ではそもそも『著名人のお薦め』自体が大量に溢れており、その中から自分に合ったものを吟味して選択することがもはや不可能」だとして、「真剣に考えるとプライバシーを守るべきとは言えなくなってくる」と述べた。

ここでこの議論に対し面白い話を持ち出したのが白田氏。同氏は「このような議論こそが、実は近代における国家概念の成立過程そっくりである」と語り、近代国家では出生届や住民登録など「国家に個人情報を渡す代わりに、国家が人間関係の複雑さを縮減してくれる」機能があり、その国家が暴走するのを止めるために憲法や議会政治など様々なシステムが生まれたと指摘する。ではネット上において国家の役割を果たすものは何かといえば「それはこれからアーキテクチャをどうプログラムするか考えなければ行けない」として現時点ではまだ不明だとしたが、「日本政府が『安心・安全インターネット』を目標に掲げているのは、政府がそのアーキテクチャの機能を担おうというオプションを提示している」と述べ、国家がネット上において個人の支援機能を提供する可能性は否定しなかった。

ということで、この日の議論は「もはやネット上において『存在の匿名性』は維持できない」ということを前提に新たなシステムを考えるべきというところで時間切れとなったが、最後に白田氏は「たくさんのLittle Brother(個人情報を断片的に保有する私企業など)がいるような現在の社会よりは、むしろ完全に非人格化されたBig Brotherの方がましかもしれない」と述べたほか、東氏は「(非人格化されたものは)もはやBig Brotherと呼ぶべきではないが、車の免許などはそのメタファーとして考えられる」と語るなど、今後の議論はネット上において個人情報を元に個人を支援する存在のあるべき姿について進みそうな気配となってきた。



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