【レポート】
「おもしろい」を意味する、ちょっぴり温かみが込められた関西地方の言葉に「おもろい」という表現がある。お笑い文化の関西エリアには、ユニークな製品サービスを提供する企業も少なからずあり、それはロボット技術の開発分野においても例外ではないだろう。
各種産業のフロンティア分野に、革新的なアイディアで挑戦していく地元企業を支援するため、兵庫県、神戸市などが主催する「国際フロンティア産業メッセ2005」が、神戸ポートアイランドの神戸国際展示場で開催された。"おもろい発想"で、ロボット開発に取り組んでいる企業などにスポットを当てつつ、その現状と課題を探ってみた。
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金出武雄教授 |
基調講演は、兵庫県出身の、カーネギーメロン大学(CMU)ロボット研究所ワイタカー記念全学教授の金出武雄氏らを招いて行われた。
「ロボット研究と地域社会」をテーマにした金出氏はまず、ロボットの歴史を振り返る。何をもってロボットとするか、その定義は様々であるが、広い意味で考えればロボットの歴史は古い。例えば、1800年代には、頭を下げた時に視界を妨げないよう、自動的に帽子を上げるという、ある意味でロボット技術とも呼べるユニークなアイディアの特許が取得されていたと、同氏は笑いを交えて語っている。
同氏の説明によれば、一連のロボット開発の最初の転換点となったのは、産業用ロボットの原点が生まれた1960年代。コンピュータ制御化された、関節とリンクからなるロボットアームが登場して、その後は工場を中心に、次々と産業用ロボットの実用化が進められたようだ。そして、人工知能を搭載し、より知能的に賢くなったロボットが誕生して、ロボット開発は第2の転換点に至ったと、同氏は解説する。
CMUロボット研究所で同氏が力を入れて携わった研究に、「Autonomous Navigation」と呼ばれる、運転手の要らない「ドライバー・レス・カー」を実現する小型ナビゲーションロボットシステムの開発がある。走行レーンの把握に加え、障害物の検出や危険予測などをし、まるで人間が運転しているかのように高度な自律走行を行うロボット車両の開発が目指されたようだ。1980年代半ばには、Autonomous Navigationを搭載した自動車「Navlab」の研究が進められている。
同氏はユーモアたっぷりに、Navlabの大きな特徴は、単なるドライバー・レスのロボット自動車ということではなく、その車内に、実地研究を行える研究所(LAB)スペースが備わっていることだと語った。今回の基調講演では、LABスペースに乗り込んだ研究員の視点から撮られたNavlabの走行映像が流され、その心境を疑似体験することができた。が、これがなかなかのハラハラドキドキものである。「しっかりとしたプログラムでなければ、それこそNavlabは崖から落ちてしまうかもしれない。だから乗り込む方も、真剣に研究してプログラムを作り上げていきますよ」と、同氏は笑いながら振り返っている。
Navlabの開発はどんどん進み、周囲を走行中の他車も認識可能となって、実際に公道を走るようになる。再び車内から撮影された走行映像を見ていると、「あっ、危ない」と感じた場面でNavlabが急停止! Navlabは危険を察知すれば停車するようプログラムされており、この時は、道の横から自転車に乗った子どもが飛び出してきたのである。こういった突発性の高い場面でもNavlabの高い完成度が実証された。ちなみに、このテスト走行中に道へ飛び出す役になったのは、Navlabの危険回避プログラムを組み上げた人の子どもだったらしく、正に命懸けの真剣な研究開発である。
そして、1995年、Navlabは、ワシントンDCからサンディエゴまで、人間のドライバーの手を借りることなくアメリカ横断に挑む「No Hands Across America」に見事成功! 安全のため、一応は運転席に人間が座り、どうしても必要な時にはマニュアル運転に切り替える方式で実施されたこの挑戦は、全コース中の98.2%をロボット走行で走り切ったとされている。この時、同氏も自らNavlabに乗り込んでいたようだが、その感想は「実のところ自動運転の方が疲れました。もしかしたらこれは危ないかも……と、いつも気を配りつつ、運転しないで乗っている。かえってこの走行は疲れてしまいますね」と、冗談交じりに語った。
Navlabは、単なる研究プロジェクトで終わることはなかったという。その開発技術が路線バスの運行に活用されるなど、大学の研究成果を積極的に役立てていこうとする米国社会の姿勢が印象的だったと、同氏は語る。企業と大学の同時研究、技術移転などが、米国では日本よりも活発に行われているとされ、CMUの研究室などからスピンオフして誕生した企業も少なくないという。
さらに、同氏が米国社会で高く評価しているのは、小中高等学校から、子どもたちにロボット技術について教育するカリキュラムの充実。例えば、CMUでは、教育の現場で評価の高かったカリキュラム(授業内容)の情報を収集し、それらを各学校の教師に向けてダウンロード提供している、とのこと。まずは教師がロボット技術について理解を深められるよう、指導能力の向上を図るプログラムも用意されているという。ロボット技術に関する学習を、”遊びに”ではなく、義務教育のカリキュラムに組み入れる。そうすることで、地域社会全体でロボット産業の育成に携わろう、とする姿勢が強いようだ。
2030年までに、米国内に居住する高齢者の数は7,000万人を突破するという。何らかの身体的な障害を抱えて生活する人の数も5,400万人に達するとされ、同氏は、このままでは現状の福祉・介護制度でケアできるレベルを超えてしまうと、予測している。できるだけ多くの人が、介助者に頼り切ることなく、自分で生産・消費者としての生活を楽しめる社会。その実現は、今後のロボット技術の発展にかかっている---と語り、同氏は講演を締めくくった。
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