【レポート】
SIGGRAPH会場では、初日から「EMERGING TECHNOLOGIES」展示セクションがオープンしている。これは研究機関などが開発している最先端のバーチャルリアリティ技術を展示するコーナーで、毎年日本からの参加が多い。ここではそのレポートをお届けすることにする。
リアルな一人称視点の3D映像のアニメーションを大画面で見たとき、人間は没入感を感じるが、実際に動いているわけではないので、静止している平衡感覚と動いている視覚とのギャップが「酔い」をもたらす。3Dゲームなどをプレイしていて気分が悪くなる「3D酔い」はこうしたことが原因だ。
NTTコミュニケーション科学基礎研究所と電通大稲見研究室は、人間の平衡感覚を直接操作し、静止姿勢でいながら重力加速度の知覚を行わせる画期的なシステム「Shaking the World: Galvanic Vestibular Stimulation as A Novel Sensation Interface」を発表した。
人間の平衡感覚は、「前庭」と呼ばれる内耳の一部の組織が司っていることが知られている。この前庭に直流微弱電流の流し方を変えて刺激することで人間の平衡感覚を直接操作する……というのがこのシステムの基本的な考え方だ。流す電気の電圧は年齢や性別によって皮膚の水分含有量が変わってくるので違うそうだが、電流の強さは約1mAだそうで、これは電気マッサージ器の20分の1の強さ。人体への悪影響は心配ないという。元々は、内耳の先天的な不良を調べるための医療機器としてこの仕組みがあり、5年前にその医療認可が降りている技術だそうで、NTT同研究所らでは、この技術をバーチャルリアリティ技術に転用できないかと3年間ほど前から研究を開始したという。
ブースでは、ラジコンのコントローラの左右操作で実際に傾きを感じられる基本的な体感デモから、一人称視点のレースゲーム映像を見せて、そのコーナリング時に左右の横Gを感じられる応用デモまでを見せていた。実際に体感したが、静止姿勢のままなのにリアルタイムに左右に重力の移動を感じられる感覚が新鮮であった。担当者によれば「ゲーム映像と完璧に連動させられれば、原理的には3D酔いをかなり低減させられる」とのことで、もしかすると近い将来、ゲーム機のコントローラに前庭刺激ユニットを実装したものが登場してくることがあるかもしれない(?)。アミューズメントパークのバーチャルライド系のアトラクションへの応用なども考えられており、この技術の実用が進めば、大がかりな油圧ピストンシステムによる実可動を伴わなくても、リアルな重力加速度演出ができるようになるかもしれないとのこと。
EMERGING TECHNOLOGIES展示セクションへの入り口をくぐって目の前に最初に飛び込んできたのが、この大がかりなバーチャルリアリティ・システム「バーチャル・ハングライダー」(ブラジル サン・パウロ大学 可積分研究室発表)だ。見てそのままのシステムで、実際にハンググライダー状のきょう体にうつぶせ状態になって乗り込み、立体視対応のヘッドマウントディスプレイ(HMD)を装着して姿勢を動かして仮想空間の中で空の遊覧を楽しめる仕組みになっている。ユニークなのは、プレイヤーを取り囲むようにして置いてある扇風機で、実際の飛行速度や飛行方向などに応じて風の強さや向きが変わるようになっている。HMDを付けた状態では実際に風を受けて空を飛んでいるように思える……というわけだ。
今回の展示では来場者も景色が楽しめるようにプロジェクタを1機使用してHMDの映像と同内容のものをスクリーンに投影していたが、これがなくても問題はない。逆にHMDを使わず、複数のスクリーンを使ってプレイヤーを取り囲むようなマルチパノラマ画面のシステムも実現可能だとのこと。3台の扇風機はシミュレーションシステムを司っているPCからシリアルポートで直接制御されて動いている。
レンダリングはCAVERNA Digital社のVR Clusterシステムを使用。3Dグラフィックス自体は、研究室オリジナルの「X3D」フォーマット(XMLベースのWeb向け3Dグラフィックスシステム)の3Dエンジン「JINX」を使用しているとのこと。X3Dベースなので、互換性が高く、カスタマイズも容易だという。このシステムはドイツのダルムシュタット市にあるCYBERNARIUM博物館への導入実績があり、実際に体験できるようになっているという。
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