【レポート】
WIRELESS JAPAN 2005・初日の午後には「ウィルコムDAY」と題して、ウィルコムの執行役員3名による今後の同社ビジネス戦略の詳細を語るセッションが行われた。中でも注目は最後に登場した、同社執行役員ネットワーク技術本部長の平澤弘樹氏。同氏はDDIポケット創立時から現在、そして将来にわたるウィルコムのネットワークに関する解説を行い、現在物理速度が最高256kbpsとなっている「AIR-EDGE PRO」を今年の年末には最高384kbps、来年の後半には同768kbpsに高速化するというロードマップを明らかにした。
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ウィルコム執行役員・ネットワーク技術本部長の平澤弘樹氏 |
まず平澤氏は、携帯電話や他のPHS事業者の網と自社のそれを比較して「我々のネットワークはかなり特異なネットワークになっている」と話を切り出した。一般に携帯電話の基地局が1基地局でカバーするエリアの広い、いわゆる「マクロセル」構成となっているのに対し、PHSの基地局は相対的に1アンテナでカバーできるエリアの狭い、いわゆる「マイクロセル」構成となっていることはよく知られていることだが、かつてのアステルグループやNTTパーソナル(現NTTドコモ)など他のPHS事業者と比べても、ウィルコムのネットワークは特殊な構成になっているという。
それはアステルやNTTパーソナルなどの網が、1アンテナがカバーするエリアがあまり重複しない典型的なマイクロセルなのに対し、ウィルコムの網はマイクロセルであるにも関わらずセル同士が何重にも重なり合うという点。これにより、あるポイントから集中的にトラフィックが発生した場合でも、マクロセルや他社のマイクロセルではトラフィックを収容しきれずに1端末あたりのスループットが大きく低下するのに対し、ウィルコムの場合は重なり合う複数のマイクロセルにトラフィックが分散するため1端末あたりのスループットはそれほど低下しない、と平澤氏は語った。同氏は「交差点の真ん中でノートPCを広げてネットにアクセスする人はほとんどいないように、トラフィックの発生する場所というのはかなり偏在しており、例えば渋谷でもトラフィックの全く発生しない場所はざらに存在する」と述べ、マイクロセルが重なり合う環境でないとそのような状況に対応するのは難しいとの見解を示した。
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ウィルコムのマイクロセルと他社のマイクロセルの比較 |
右上の黄色い円が1端末が通信できる範囲。このようにアンテナが多数含まれるため、トラフィックが複数のアンテナに分散することでスループットの低下を防げるという |
ただこれらのことは「実は全て後になって結果的に分かったことで、元々はアンテナを設置する場所が確保できなかったのでこうなっただけ」「当時はアステルのアンテナは1台十数万円だったのに対しうちのアンテナは1台200万円もしていたので、社内では『何て効率の悪いことをしているんだ』との意見が大勢を占めていた」との裏話も平澤氏は披露。同氏は「今では東京23区内だけで1万5千~2万くらいのアンテナが建っているが、顧客からのクレームに対し言われるがままに対応していたらこうなっただけで、今から同じものをもう1回作ろうとは思わないし、もし最初から知っていたらそもそも手を出そうとは思わなかったかも」と述べて会場を笑わせた上で、「最近無線LANに新規参入を表明している事業者が複数現れているが、1~2年でこれだけのネットワークは作れない」として、YOZANやライブドア、平成電電などの動きを牽制した。
その上で平澤氏は最近の同社の設備投資状況について触れ、「KDDI時代は新規の設備投資をするなと言われていたが、親会社がカーライルになってやっと設備投資できるようになった」と語り会場は大爆笑。「今度は会社が設立されて10年が経過しアンテナが古くなってきてしまったので、最近はアンテナ等の設備を更新する工事に追われている」とのことで、アンテナの数自体はそれほど増えていないそうだが、それでも新型のアンテナに更新することで1アンテナ当たりの収容チャネル数が増加している他、アンテナ利得が向上したことでカバーエリア自体は着実に広がっているという。
特に新型のアンテナの最大の特徴が、従来のAIR-EDGEではQPSKまでの変調にしか対応していなかった点を拡張し、64QAMまでの変調に対応するようになった点。そのため現時点でも端末さえ64QAMに対応したものが登場すれば一気に高速化することも夢ではないというが、「さすがにいきなり64QAMを携帯端末に載せるのは荷が重いので、まずは今年の末に8PSK対応の端末を投入して最高384kbpsへの高速化を行い、来年後半に64QAM対応端末を投入して最高768kbpsに速度を引き上げる」として、2段階で高速化を行う意向を明らかにした。
ただ当然64QAM変調を導入するとなると受信環境がシビアになるが、その点はNTTドコモのHSDPAやauの1x EV-DOなどで導入されている「適応変調」技術を導入し、受信環境が良好な状況では64QAMを使い、環境があまり良くないところではBPSKやQPSKなどを使うというように状況に応じて変調方式をリアルタイムで切り替えるようにするとのこと。またそれに伴いバックボーンも従来のNTTのISDN網ベースから独自のIP網ベースに切り替える他、それが完了し次第足回り回線も光ファイバに切り替える、との方針を平澤氏は示した。
これ以外にも平澤氏は同社のネットワーク構成について様々な情報を明らかにしているので、ここでその一端をご紹介したい。
まず同社ユーザのトラフィック分布を屋内利用と屋外利用で区別すると、現時点では「トラフィックの約8割が室内からとなっている」という。そのため現在のエリアの強化は「いかに屋内に電波を浸透させるか、それ1本に絞っている」とのことで、最近導入した屋内設置型の超小型基地局「ナノセル」もそのために開発したほか、ナノセルの登場以前は「高層ビルの上層階をカバーするために、隣のビルに上向きにアンテナを立ててピンポイントで狙ったりもした」と語った。最近ではビルのオーナー側から「AIR-EDGEが入らないとテナントが入らない」と苦情を言われることが多くなったため、ビルの新築段階からアンテナを入れるケースも増えているという。
トラフィックについても、音声定額制の開始によって音声トラフィックが「当初の想定の3倍になった」というが、「AIR-EDGEの1ユーザあたりのトラフィックは元々音声端末のユーザの20倍ぐらいあったので、ネットワークの容量的には全く問題はなかった」とのことで、「周波数あたりのトラフィックはドコモの5倍ぐらいに達しているのではないか」と語った。ただ「この先加入者数が順調に増加した場合、何人ぐらいまでなら現在の網で耐えられるのか?」と会場から質問があると「当初は1,000万人ぐらいまでは大丈夫だろうと考えていたが、音声トラフィックの伸びが予想以上なので、現在は500万人ぐらいまでは大丈夫だと思っている。それ以上は実際になってみないと何とも言えない」と平澤氏は回答した上で「加入者数が増えると周波数需要も逼迫するので、やはり新しい周波数が欲しい」との希望も口にした。
IP電話に関しては「現在のAIR-EDGEはパケットの遅延も大きく速度も遅いのでIP電話に使うのは難しいと思うが、将来的に高速化された場合にユーザがその上でIP電話を使うのは当然のことだろうし覚悟はしている」と述べつつも、「ユーザがIP電話に期待しているのは低価格であり、そもそも音声通話がタダならわざわざIP電話を使う意味が無い」と述べ、音声定額制がIP電話への対抗策であることをはっきりと認めた。
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