【レポート】
「オープンソースソフトウェアに何も貢献せずに、ただ乗りする企業が多すぎる」「コミュニティが閉鎖的で自分の意見を全く反映してくれない」など、オープンソースソフトウェア(OSS)に対する疑問・不満などを最近耳にする機会が増えているような気がするのは、筆者だけだろうか。
そんな数多くの疑問や不満に対し、当のOSSの開発者やコミュニティの中核を占める人物達はどのように思っているのか。6月23日に都内で行われた「VA Linux Business Forum」の1セッションとして開かれた「OSS RoundUp」では、Rubyの開発者として知られるまつもとゆきひろ氏、Debian GNU/Linuxの世界でおなじみ八田真行氏ら5名のパネリストがそれらの疑問に対し一つ一つ自分達の見解を述べた。
まず序盤で盛り上がったのが<写真>の質問。質問自体は長いので写真を参照して欲しいが、パネリスト達はこれを「オープンソースの負の部分をもっと取り上げて欲しい」という意味だと解釈し、それに対する意見をいろいろと披露した。
まずPerl 5.8の開発者の一人でもある小飼弾氏は「OSSに何か問題が発生した場合、その責任を取るのはそれを使ったユーザであり、だからこそバグの究明やパッチの提供などが行われる」と述べたほか、八田氏は「OSSは無償で提供される代わりに保証もない(No Warranty)ため、OSSを使ってシステムを提供している企業も何か問題が起きれば責任を取るというリスクがあるので、そのリスクが存在する以上決して"ただ乗り"ではない」と述べ、いわゆる「OSSただ乗り論」に対し反論した。
その後話は「企業プログラマがOSSの開発に従事することは業務で得た知識を無償提供しているのと同じで、企業倫理に反するのではないか」という点に移ったが、これには八田氏が「今やIT業界も野球の世界同様で、海外の企業が有能なプログラマを引っこ抜いたり学生の段階から青田買いしたりということが当たり前に行われているので、(OSSの開発にプログラマが関わるのを禁止するような)変なポリシーを持つ企業はいずれ淘汰されるのではないか」と述べたほか(小飼氏もこれに同意)、まつもと氏も「確かに『会社が(OSSの開発に関する活動を)認知してくれない』という相談はよく受けることがあるが、それならもっといいところに移ればいいと思う」と述べるなど、今や優秀なプログラマを確保するためには好むと好まざるとに関わらずOSSとの関わりを容認せざるを得ないし、またそれによって企業側も利益を得るとの見解で一致した。
続いて「OSSのコミュニティが企業の論理で動かされている」という不満に対しては、パネリストは「企業もコミュニティの中では一参加者に過ぎないのだから、どんどん企業の論理で参加してくればいい」という意見で一致した。
八田氏は「もしコミュニティの意向を企業の力でねじ曲げた事例があれば問題だが、そのような事例があれば教えて欲しい」と述べた上で、「最近Debian GNU/Linuxの開発者を大量に引っこ抜いて作られた"Ubuntu Linux"が話題になっているが、Ubuntuの開発成果は結局Debianでも利用できる(Ubuntuは開発成果を囲い込めない)ので別に問題はない」と語り、仮に企業が独自のOSSプロジェクトを立ち上げたとしても大勢に影響はないとの見解を示した。
また、まつもと氏は「プログラマも霞を食って生きていくわけにはいかないので、もっと企業には積極的に支援して欲しい」と述べたほか、自らの経験として「確かにRubyにも(自分の勤務先の)お客さんの要望で入れた機能はあるが、開発の方向性に関する議論において金で決まった例を知らない」と述べるなど、企業がOSSのコミュニティに貢献することはあっても、企業がOSSのコミュニティをゆがめるのは困難だとの見解を示した。
この点について、VA Linux Systems Japanの佐渡秀治氏は「日本では"金儲け=不浄"というイメージが強く残っているために、開発者が変に潔癖になっている部分があるのではないか」と分析したが、小飼氏や八田氏は「たぶんこれは"オレの要望が無視された"と腹を立てている人の意見ではないか」と前置きした上で「発言が受け入れられなかったのは発言者の責任」「きちんと真剣に提案(コード等)を出されれば開発者もそれを受け入れるか否かを検討せざるを得ないが、そうでなく適当に言いたいことを言っているだけなのは、ただの愚痴に過ぎない」などと語り、それは企業の問題ではなく個々の発言者の姿勢の問題だと述べた。
OSS関連では、昨年の年末に行われた「オープンソースウェイ2004」において佐渡氏が日本のOSSを"ガラパゴス諸島"に例えた件についても意見が交わされた。
佐渡氏は当該発言の真意について「OSSの開発は個々人の能力が重要だが、日本ではむしろ組織への所属が優先される傾向にあり、頻繁に転職を繰り返すような人を除いては企業でオープンソースに関わることがインセンティブになりにくい」という疑問意識があったことに加え、「あの講演では私の前にしゃべった人が皆OSS礼賛に終始していたので、話の流れ上マイナスのニュアンスのことをしゃべる必要があった」という事情もあったと述べた。これに対し八田氏は「別に日本のOSSが"ガラパゴス諸島"のまま発展していくのならそれはそれで構わないが、一方ではOSSがある種の"黒船"的存在であり、インドや中国等と競走することを考えると"ガラパゴス"であることを止めるか、もしくはもっと積極的に"ガラパゴス"にならないとダメになる」とした。
その上で世間では"ガラパゴス"発言が「英語によるコミュニケーションの問題」と捉えられたことについての議論に移ったが、佐渡氏は「英語がダメでもコードと活動を見て評価してくれる」、小飼氏は「面白いものをどんどん出していけばむしろコミュニティの方から歩み寄ってくるし、むしろ外人が日本語を覚えてメールを送ってきてくれるようになったりする」と述べるなど、別に英語が苦手なことは大きなハンデにはならないという見解でパネリストは一致した。
これ以外の話題としては、開発者側(Geek)とビジネスを仕切る側(いわゆる「スーツ組」)との対立に関して、まつもと氏が「やっぱり金を持っている側(=スーツ組)が強い」と述べたのに対し、小飼氏が「スーツ組もスーツ組で"Geekから虐げられている"と思っている」「(スーツ組が)差し出した手を(Geekから)はねのけられていることも多い」と述べるなど、お互いに「相手から一方的に虐げられている」と思い込んでいる部分がある様子が浮き彫りになった。八田氏からは「スーツ組はOSSがどのような性質のものかを勘違いしていることが多い」との意見も聞かれる一方で、小飼氏は「(Geekも)堂々と金を要求すればいいのにもったいない」と述べ、なかなかすれ違いは解消できなさそうな様子が垣間見えた。
他にも「日本ではOSSの世界に若い人が少ない」「今一つだけプロプライエタリなソフトをOSSにできると言われたら何をOSSにするか」「OSSと宗教との関係」などさまざまな質問に対しパネリストが答え、会場からの質問なども多数飛び出していた。
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