【レポート】

ケーブルテレビ2005レポート - CATVは生き残りのために携帯電話と手を組むべき?

    佐藤晃洋  [2005/06/20]

    ブロードバンド通信サービスではADSLやFTTHに押されてすっかり影の薄くなってしまったCATV業界だが、地上デジタル放送の開始などハイビジョン放送の拡充でCATVが見直されている部分もあるほか、CATV自身もFTTH化に向かって遅ればせながら動きを始めている。そんな中15日~17日の3日間、東京ビッグサイトにてCATV業界・年に一度の大規模展示会である「ケーブルテレビ2005」が開催された。本稿ではその中から注目すべき製品やいくつかのセッションをピックアップしてご紹介する。

    参考出品のSTBに注目集まる

    ケーブルテレビ2005はあくまでCATV事業者側の展示会ということで、CATVの局側に置かれるようなヘッドエンド設備の展示がメインだが、一方で家庭に設置するためのSTB(セットトップボックス)なども多くのメーカーが展示している。

    まず多くの参加者の注目を集めていたのが、NECのブースで展示されていた「楽ビジョン」。「テレビでWebページを見られるようにする」というコンセプトだけを聞くと、パナソニックの「Tナビ」などと一見同じように見えるが、こちらはよりテレビとWebの一体化を進め、Webページの一部にテレビ番組の画面を埋め込んでデータ放送のように一体表示させたり、緊急時にCATV局側から情報をプッシュ配信したりすることも可能になっているという。

    NECの「楽ビジョン」

    MPEG-2/WMVを利用したIP放送にも対応しているほか、拡張スロットにはケーブルモデムやFTTH接続用のONUなどを内蔵することも可能になっているとのことで、双方向対応も容易だという。参考出品ということで具体的な製品化時期や価格等は未定とのことだが、市場に登場してくれば注目すべき一品だろう。

    また、住商エレクトロニクスのブースに展示されていたハードディスクレコーダ内蔵の米Scientific Atlanta製STBにも多くの参加者が集まっていた。160GBのHDDを内蔵したこのSTBは3チャンネル分のチューナーを搭載し(CATVチャンネルを3チャンネル同時に録画することも可能だという)、内蔵するHDDに録画した番組を、家庭内LAN経由でLAN上にある他のSTBから視聴することも可能になっている(開発中のためエンコード方式や暗号化等の情報は非公開。また、PCからの視聴は認めていないという)。また、同機はハイビジョン番組の録画にも対応しているとのこと。

    まだ開発中の段階で、細かい機能やHDD容量等は今後変更される可能性が高いほか、具体的な発売時期も未定だが、説明員によれば「現状の仕様の場合で、今のところ米国では1台700ドル程度での販売を考えている」とのこと。ほかに、記録型DVD搭載機もラインアップに加えられていた。既存のCATV・SkyPerfecTV!用のSTBでは、ある番組を見ながら裏番組を録画するといった場合には複数台のSTBを用意する必要があったが、このSTBなら1台でそれらを賄うことが可能。ただこの製品、昨年もこの展示会に展示されていたのだが、1年経った今年もあまり話に進展がないのが気になるところだ。

    Scientific Atlanta製のHDD内蔵STB

    こちらは記録型DVDドライブ内蔵型

    主な仕様

    CATVは生き残りのために携帯電話と手を組むべき

    次にご紹介したいのは、2日目に行われた分科会の中から、米CableLabsのクリストファー・ラマーズ氏の講演。同氏は米国のブロードバンド業界全般について現在の状況を解説した上で、その中でCATVが生き残っていくためにどのような方策を採るべきかについて語った。

    クリストファー・ラマーズ氏

    ラマーズ氏はまず、米国でWiMAXベースの通信サービスや衛星インターネットなどが多くの地域でスタートしているほか、電話会社によるADSL/FTTHを利用した映像配信サービスも続々立ち上がりつつある状況を振り返り「映像配信だけではCATVは勝負にならない」との見解を述べた。ではCATVはどうすればいいのかというと、同氏は「携帯電話会社との連係に活路を見出すべき」と語る。

    同氏は、米国でも日本同様に電話サービス全体の収入における携帯電話からの収入の割合が増大している様子を示し「米国でも固定電話を持たないユーザが増加している」と述べつつも「しかし1ユーザあたりの通話時間は増大しているのに、いわゆるARPU(月間電気通信事業収入)はここ数年横ばい傾向であり、携帯電話会社もサービス拡充のために必要な投資額をどこから確保するかに頭を痛めている」と語り、CATV会社が携帯電話会社とうまく協力することにより互いにWin-Winの関係を築くことができるのではないかとの見解を示した。

    米国でもこのように、2007年には固定電話を持たないユーザが25%を超えるという

    具体的には「CATV会社がMVNO(Mobile Virtual Network Operator)の形で携帯電話を販売する」といった手法や、日本とは比較にならないぐらいCATV会社の資本力が強力であるという米国の事情を反映して「携帯電話会社をCATVが買収してしまう」といった方法が考えられるという。逆に携帯電話会社側にとっても、携帯電話向けの動画配信サービスを行う場合にCATVのインフラを活用することで、携帯電話会社が単独でサービスを展開するよりも有利になる可能性が高いと同氏は語り、そのために現在DOCSIS規格・Packet-Cable規格といったCATVインターネット関連の規格を、ワイヤレス通信に向いた形にアップデートする検討を進めていることも明らかにした。

    ただいずれにしてもIP放送に脅威を感じているのは日本も米国も事情は同じのようだ。同氏は米国におけるIP放送の現況について「現状はパートナーシップが非常に複雑になっているために機動的な動きがしづらくなっているようで、最も脅威だと言われているSBC CommunicationsとMicrosoftの連合も、既存の方式と完全な互換性があるものを出そうとするあまりに動きが遅れている」と述べ、短期的にはCATVの市場が大きく食われる可能性は低いとしながらも、長期的には「(IP放送事業者は)STBをタダでばらまいてくる可能性も高く、それなりに利益も生むと思われ、我々も手をこまねいてはいられない」と語った。

    IP放送に関する提携関係の模式図。確かにややこしい

    同氏は最後に「今までの技術を一度整理したうえで、ハイビジョン放映の拡充や複数チャンネルを同時視聴できるSTBの提供など、顧客との関係を強化していく必要がある」と述べて講演を締めくくった。

    単なる「地域情報の配信」から、地域の「安心・安全」の提供へ

    上記は米国におけるCATVのシェアの高さを背景とした発言であり、中小事業者が多い上にマーケットシェアも低い日本のCATVにおいてこの内容をそのまま当てはめるわけにはいかない。では日本のCATVはどうやって生き残りを図るべきなのか。それについては初日に行われたパネルディスカッションの模様をご紹介したい。

    ディスカッションの内容は多岐に渡ったが、キーワードとなったのは「地域密着」と「広域連携」。まず「地域密着」については、昨年全国各地で発生した水害・地震等の災害における報道体制において、CATVのコミュニティチャンネルの存在が地域密着型メディアとして見直される例が相次いでいるが、それ以外にも実は意外なところにニーズがあるのではないか、との話が相次いだ。

    大阪府内で広域CATVを展開するケーブルウエストの松本正幸社長は「池田市の小学校の事件を教訓に、警察等に寄せられた池田市内での不審者に関する通報情報をメールで配信するサービスを行い好評を得ている」「市内の給食センターと提携して学校給食のメニューを写真入りで毎日配信するサービスを行ったところ、特にアレルギーを持つ子供を持つ親の関心が高く多くのアクセスを受けている」などと語ったほか、横浜市内でCATVを展開する横浜ケーブルビジョンの高橋伸隆社長も「コミュニティチャンネルで地元警察とタイアップして、婦警さんが出演する犯罪情報コーナーを設けたところ好評を得ている」と述べ、『安心・安全』を求める傾向が強い昨今の消費者の動向をうまく生かすことがCATVの生き残る道であるとの見解を示した。

    また通販チャンネルの老舗「ショップチャンネル」などを展開するジュピター・プログラミングの竹岡哲朗社長も「ショップチャンネルではCATVとタイアップして地元の名産品を販売するコーナーを設けており好評を得ている」と語るなど、地域密着という特性を逆手にとって全国的に商売を展開する方法もあることを強調した。

    CATV独自に東名阪のネットワークを構築

    一方「広域連携」だが、これまで単一の県内でCATV同士がネットワークを相互接続するといった例はいくつか見られたが、今回横浜ケーブルビジョンの高橋氏が「今年秋には東京・名古屋・大阪を独自の光ケーブルで相互接続し、ハイビジョン番組を独自配信できるようにする方向で作業を進めている」ことを明らかにし、「これによって、これまであまり行えなかったCATVの自社製作番組を相互に配信しあうといったことが容易に行えるようになる」とそのメリットを訴えた。将来的にはこのネットワークを東京以北や関西より西に広げ、全国網を構築する予定もあるという。

    また、この独自ネットワークはコンテンツ提供者側にも魅力があると竹岡氏は語る。竹岡氏は自社で現在運営しているチャンネルについて、地上波やBSデジタル放送との対抗上将来的にはハイビジョン化を考えなくてはいけないものも出てくると前置きし「衛星でハイビジョンを全国に伝送しようとするとコストが高くつくが、仮にCATV独自の全国網ネットワークが使えるのであれば、コンテンツ提供者の側も安価なCATVに優先的にコンテンツを出そうという話になる」と述べ、このCATV全国網構想に期待する姿勢を見せた。

    ただ、これがすぐに事業者同士の統合に結びつくかと言うと話は別のようだ。慶応大学の菅谷実教授はこの点について「CATVは基本的に地域独占事業者だが、このような地域独占事業者同士がくっつくというのは他の業界の例を見ても意外と難しい」と述べ、その典型的な例として「90年代に通信業界でメガキャリア同士の連携が進んだが、現在ではそれらの連携は全て失敗している」と指摘。そのため単純な合併や業務提携というよりは、それら過去の失敗例を分析した上で適切なスキームを慎重に選ぶ必要があると語った。

    高橋伸隆氏(左)と松本正幸氏

    竹岡哲朗氏(左)と菅谷実氏

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