【レポート】

CSLオープンハウス - 娯楽と実用を兼ね備えた研究

1 娯楽性と実用性を両立させる研究

    大塚実  [2005/06/17]

    ソニーコンピュータサイエンス研究所は10日、東京・品川区の同社施設にてオープンハウスを開催した。同研究所は、純粋にコンピュータサイエンスに関する研究を行う場として、1988年にソニー本体とは別法人として設立。それ以来、オープンハウスはほぼ2年に1度の頻度で開催されており、今回で8回目となる。

    同研究所は、計算脳科学、システム・バイオロジー、経済物理学などを研究分野とする基盤研究室(FRL)と、デバイス・ソフトウェア・ネットワークの研究などから「人と情報環境との理想的な共生関係」を探求するインタラクションラボラトリー(IL)、そしてパリの研究所の3部門で構成。

    オープンハウスでは、その3部門からの研究成果が発表されていたが、本レポートではILの内容を中心にご紹介したい。

    中身の詰まったポリゴンモデル?

    キュウリや骨付き肉などのCGモデルをザクザク切っていくデモソフトを動かしていたのが「インタラクティブなボリューム的CGとユーザーインタフェース」。よく知られているように、ポリゴンモデルは物体の表面だけのデータの集合であり、包丁でまっぷたつにするような処理では、断面部分の描画に不都合が生じる。ボリュームレンダリングではこの欠点は解消されるが、データ量が膨大で処理が重いという問題もある。この研究テーマは、「ポリゴンモデルの軽さ」と「ボリューム的な中身の詰まった表現」を両立させよう、というものだ。

    こんな複雑な形状に切ることもできる。操作は、マウスの右ボタンでオブジェクトの回転、左ボタンで切断していく

    「包丁」インタフェースを使って、皮をむくようなこともできる。ノートPCとは思えないほど軽快に動作していた

    その手法は非常にシンプル。普通に考えるように、普段は通常のポリゴンモデルと同様に扱い、物体を切って新しい断面ができたときに、そのテクスチャを動的に生成して貼り付けている。だが問題となるのは断面のテクスチャを「どう生成するか」であり、デザイナーが物体の中身を「どう指定するか」である。この研究では、そういったインタフェースの部分についても考案している。

    その中身の指定方法だが、このシステムではある1つの断面についてのみ、テクスチャを定義する手法を提案している。当然、この断面が切断されるとは限らない(というか、ほとんどの場合は別の面になるだろう)が、その場合はこのデータから計算された断面画像が生成される。人体のような複雑な内部構造を持つモデルの表現は難しいものの、シンプルな野菜などには十分実用的。

    中身に対してもテクスチャをマップする、と考えると分かりやすい(左)。竹の場合、縦方向と横方向では断面の模様が違うので、その向きも指定できる。これにより、少しややこしく切った場合(右)でも、それっぽく表現できる

    3Dマウスなどの特殊なデバイス無しでモデリングができるほか、1つの断面テクスチャを持つだけでよいのでデータ量が少ないというメリットもある。ゲーム機での応用や、教育用コンテンツなどを考えているそうだ。

    愛社精神に溢れる"改造"Tシャツを着ていた開発者の大和田茂氏

    ゲームも試作したそうだ。指定された形状と同じに切ればクリア

    アルバムを持ち寄る楽しさを実現するシステム

    無線LANは多くのノートPCに標準搭載されるようになり、利用する人もずいぶん増えた感があるが、ホットスポットでインターネットに繋げたりすることが主流で、いわばケーブルを置き換えただけにすぎない。しかし今後、様々な機器がワイヤレス通信機能を持つようになってくると、注目されるのが端末同士で通信を行うアドホックネットワークだ。オープンハウスでも、関連する研究テーマが紹介されていた。

    VAIO type UにUSBカメラを付けた試作機でデモを行っていたのが、「モバイルアドホック環境における『共通の想い出』自動検索」。友人らとアルバムを持ち寄って話が盛り上がる、という経験は誰でもあるだろうが、それをコンピュータで実現しようというのがこのテーマ。

    システムのインタフェース。手前の列が自分の画像で、左上、右上はネットワーク上の友人が持つもの。検索して共通に関係すると思われる画像はフラッシュ表示される

    試作した端末。VAIO type UにUSBカメラを貼り付けている。OSはLinux。VAIO type Uは小さく、応用も利くので、こういったテーマの研究に最適な端末なのだとか

    このシステムでは「共通の想い出」という点に注目した。相手に関係ない写真を見せても、話は一方的になりがち。お互いに楽しいのは、やはり一緒に旅行したり、同じイベントに参加したりしている場面だろうということで、撮影時間や画像の特徴を抽出するなどして関連性を判断、関係すると思われる写真を提示する。これまでのように、ネット上に画像を公開したり、データをメールで送ってもいいだろうが、それでは写真を持ち寄る楽しさは実現できない。同じ場に持ち寄ることで、それをきっかけにコミュニケーションが促進される、と考えて作られたのがこのシステムである。

    このグラフは、横軸が時間、縦軸が撮影画像の枚数。白と赤のグラフが中央付近で重なっていることから、この2人はこの期間内に行動を共にしていた可能性がある。このほか、画像の特徴も使って関連性を判断

    「シンクロシャッター」機構も実装した。開発者の河野通宗氏によると、「やってみないと分からない楽しさ」があるという

    さらに、試作機には「シンクロシャッター」機構も実装した。カメラを持ち寄って何かを撮影するときに、誰か一人がシャッターを切ると全てのカメラが反応、同時に撮影して画像を共有する。全員で同じ被写体を撮影しているとは限らないので、カメラによっては壁や床の画像になってしまう場合もあるだろう。しかし、自分が撮影する写真だけでなく、同時にシャッターを切った他のカメラの写真も手元に集まってくるのは楽しそうだ。将来的に、こういった機能がデジカメに付いたりすると面白いかもしれない。

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