【レポート】
「宇宙人の存在を示す怪電波信号を捕捉……!?」
昨秋に出回ったこの話題は、多くの人々の関心を集めたようである。米Planetary Society(惑星協会)が、地球外知的生命体の探索を目的に進めている「SETI@home(Search for Extraterrestrial Intelligence at Home)」プロジェクト。そのもとで検出された一部の電波信号データは、異星人から発せられた可能性がある、との情報が広まっていた。その後、現時点で地球外知的生命体の存在を示す明確な証拠は何も見つかっていない、との声明が改めて権威者より発表され、早まって伝えられた情報の否定が行われる運びとなったようだが、この一件で、宇宙人探しに対する世間の注目度の高さを窺い知ることができた。
SETI@homeは、世界各地のPCユーザーの力を、グリッドコンピューティング技術で結集させて、地球外から電波望遠鏡に寄せられる膨大な量の受信データの解析を進めることが大きな特徴とされている。また、国内でも日本惑星協会が専用ページを用意するなど、多数のユーザーの賛同を得てきたと思われる。
ところが、海外の望遠鏡を用いて行うSETI@homeではなく、日本国内の望遠鏡で地球外知的生命体の探索を行う、日本独自のプロジェクトが遂に始動した。兵庫県佐用郡佐用町の兵庫県立西はりま天文台(NHAO: Nishi-Harima Astronomical Observatory)で、国内最大、また公開施設としては世界最大級の口径2mの望遠鏡「なゆた」を活用して進められる「SETI@NHAO」プロジェクトである。
大阪・神戸から西へ向かい、世界文化遺産となる姫路城を中心とした観光都市の姫路を離れると、次第に列車から見える景色は、山奥の田園風景ばかりが目につくようになってくる。兵庫県立西はりま天文台への玄関口となる佐用駅も、普段は閑散とした感じである。
兵庫県西端に位置する佐用町が、天文台建設につながる最初のプロジェクトを打ち出したのは、1960年代後半にまで遡るとする説が有力であるという。広くアピールできるような施設を何か作り上げたいといった願いから各案の検討が進みつつあったようだが、日本中を襲ったオイルショックの影響で計画は立ち消えになる。しかしながら、その後に再び何らかの兵庫県立の施設建設を目指すというプロジェクトが立ち上がり、調査チームを結成。伝え聞くところによると、ハーブ園か果樹園か、あるいは温泉で町興しを進めるのがよかろうかと、町内を1日中歩き回って検討したものの、どの案も決定打に欠け、ふと疲れ切った調査チームが地面にごろりと寝転がって休憩すれば……。すでに辺りは真っ暗で、見上げれば満天の星空が! これだ、この美しい夜空を眺める天文台こそが、佐用町の目指す建設プロジェクトだと、その後の計画に大きな弾みがつくことになったという。
いざ天文台の建設に向けて動き出してみると、天文台が置かれることになる大撫山は、まさに天体観測に絶好のロケーションであることが判明する。例えば、天文台にとっては、陽炎や風によって生じる渦(気流の乱れ)が望遠鏡の妨げとなるために、晴天率や空の暗さはもちろんのこと、建設場所の空気の安定性も非常に重要な条件になってくるという。佐用町の朝霧を見下ろせる場所に位置し、これらの条件を満たす大撫山上の西はりま天文台は、実際に完成後の観測で、「対日照」という現象の撮影にも成功している。対日照は、惑星空間に漂うダスト(固体の微粒子)が太陽の光を散乱して輝く現象で、その光は極めて淡いため、空の透明度がよく、非常に暗い場所でないと撮影できないとされている。定量的な研究のために、標高1,000m以下の場所で対日照の撮影が行えたのは、西はりま天文台が世界初になるという。
天文台では、10~15年先を見据えた観測システムの構築が求められるとされている。そのため、西はりま天文台においては、同施設が完成した1990年の頃から、日本最大の2mという口径を誇る望遠鏡の導入を視野に入れた構想が練られ、1994年末までには、兵庫県議会でも本腰を入れて予算案などの検討を進めるなど、その環境が整いつつあったとされている。だが、不幸にも、1995年1月17日に、淡路島北部を震源とする直下型の大地震「阪神・淡路大震災」が発生。兵庫県は6,000名を超える死者を出し、巨額の予算を望遠鏡に割けるような状況ではなくなってしまう。
「宇宙は私たちのふるさと」をテーマに掲げ、宇宙を知ることで、自然について、人間についての理解を深め、心を豊かに育てることができると語りかけてきた西はりま天文台。大震災に見舞われた兵庫県へ、大きな夢と希望を与えられるのは、こうした自然とふれあう機会ではないだろうか。そんな訴えが功を奏したのか、1度は消えてしまいそうになった2m望遠鏡のプロジェクトが、2001年には正式に承認され、総額16億8,000万円を投入した「なゆた」望遠鏡が誕生、西はりま天文台は、日本をリードする天文台として生まれ変わることになったのである。
なゆた望遠鏡は、三菱電機が提供する統合制御システムによって、コンピュータ自動処理でスムーズな観測を行う。眼視観望装置、超高感度ハイビジョンカメラ、可視冷却CCDカメラ、3波長同時観測近赤外線カメラ、可視光分光器という5種類の観測装置が搭載される設計になっているという。肉眼で覗いても、約10~15億光年先まで観測可能とされており、さらに可視冷却CCDカメラを用いた特殊な観測を行うことで、140億光年先という、いわば宇宙の果てにまで迫ることも可能になるようだ。
公開望遠鏡として、一般市民にも140億光年先の宇宙探索のチャンスを提供するなゆた望遠鏡。そこに「SETI@NHAO」という壮大な研究テーマを組み合わせることには、深い意義が込められている。
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