【レビュー】

デジタルオシロ選択の基礎 - 実際の波形観測で勘所を知る

1 デジタルオシロとアナログオシロの違い

    福田昭  [2005/04/29]

    デジタルオシロスコープ(デジタルオシロ)はとても便利な計測器だ。信号波形が残る。取り込んだ信号波形をいろいろと解析できる。ネットワークにつながる。パソコンに信号波形のデータを移せる。アナログオシロスコープ(アナログオシロ)で散々苦労した技術者にとって、最近のデジタルオシロはうらやましいの一言に尽きる。

    しかし、少し考えて欲しい。アナログオシロではプローブで拾った信号を直接、CRTモニタの垂直軸に入力する。信号そのものを観測する。デジタルオシロは違う。主にアナログデジタル変換器(A-D変換器)によってデジタルデータに変換し、波形メモリーに蓄積する。その後で波形メモリーのデータを読み出し、補間などの処理を施してディスプレイに表示している。

    本来であれば、アナログオシロの動作原理を理解するとともに操作経験を積んでから、デジタルオシロを扱うべきだろう。にもかかわらず、多忙な開発現場ではアナログオシロの経験なしにデジタルオシロを扱うことが少なくない。こういった環境でデジタルオシロを購入したり、取り扱ったりすることはリスクが伴う。

    そこで本稿では、デジタルオシロとアナログオシロについて、同じ信号による表示波形の違いを示す。さらにデジタルオシロでは、機種によって表示波形が大きく異なることを見せる。機材の借用や質問への回答などでご協力をいただいた関係各位に、この場を借りて深く感謝します。

    なお本稿で使用したオシロスコープに関する仕様や情報などはすべて、一般の技術者がウエブサイトや展示会などで容易に入手できる範囲にとどめた。

    それでは、実験のセットアップについて説明しよう。アナログオシロを1機種、デジタルオシロを3機種用意した。比較的多くの技術者が使う、普及価格帯の機種を選んだ。

    ○表1:実験に使用したオシロスコープの一覧

    種別 アナログオシロ デジタルオシロ デジタルオシロ デジタルオシロ
    型名 V-1565 TDS3012B MSO6104A TDS5104B
    ベンダー名 日立電子テクノシステム 日本テクトロニクス アジレント・テクノロジー 日本テクトロニクス
    周波数帯域幅 100MHz 100MHz 1GHz 1GHz
    最大サンプリング周波数 - 1.25Gサンプル/秒 4Gサンプル/秒 5Gサンプル/秒
    入力チャネル数 2チャネル 2チャネル 4チャネル 4チャネル
    波形更新速度 - 3600回/秒(注1) 10万回/秒 10万回/秒(注2)
    ディスプレイ 6インチ角形モノクロCRT VGAカラー液晶 XGAカラー液晶 カラー液晶
    本体寸法(幅×高さ×奥行き) 275mm × 130mm × 360mm 375mm × 176mm × 149mm 354mm × 188mm × 282mm 447mm × 285mm × 288mm
    本体重量 約6kg 3.2kg 4.9kg 11.23kg
    価格 20万7000円 48万円 198万5900円 220万円(注3)
    備考 - (注1)カタログには記載なし。某ベンダのサイトから入手。 (注2)FastAcgモードのとき。 (注3)日本テクトロニクスのウエブサイトには価格情報がなかったので、ウエブマガジンの記事から転載。

    図1:測定実験のセットアップ。左手前上が日本テクトロニクスのデジタルオシロ「TDS3012B」(ミッドレンジのポータブル機)、左手前下が日立電子テクノシステムのアナログオシロ「V-1565」(ポータブル機)、中央がアジレント・テクノロジーのデジタルオシロ「MSO6104A」(ミッドレンジのポータブル機)、右奥が日本テクトロニクスのデジタルオシロ「TDS5104B」(ミッドレンジの据え置き機)。

    まず、デジタルオシロとアナログオシロの観測波形の違いを調べた。入力信号にはNTSCビデオコンポジット信号を選んだ。アナログ信号としては、日本国内では、なじみ深い信号である。信号の周波数は、最も高い色副搬送波(カラーサブキャリア)でも3.579545MHzと、それほど高くない。周波数帯域幅が100MHzもあれば、信号波形の観測には十分なはずである。

    実験では、CCDカメラで撮影した映像信号をオシロスコープに入力した。アナログオシロ「V-1565」の観測波形をまず示そう(図2)。なじみ深い表示画面である。静止画像である図2では分からないが、撮影対象物の変化に応じて波形がリアルタイムに変動する。また発生頻度の少ない信号がうっすらと見えたりする。信号の発生頻度に応じて波形の輝度が変動する、アナログオシロならではの良さが出ている。

    図2:アナログオシロ「V-1565」でNTSC信号を観測した波形。時間軸は2ms/div。

    続いて、同じ信号をデジタルオシロで観測した波形を示す。「TDS3012B」の波形(図3)と、「MSO6104A」の波形(図4)である。

    図3:デジタルオシロ「TDS3012B」でNTSC信号を観測した波形。時間軸は2ms/div。

    図4:デジタルオシロ「MSO6104A」でNTSC信号を観測した波形。時間軸は2ms/div。

    2機種とも、一見すると似た表示波形である。しかし詳細に眺めていくと、大きく違う。「TDS3012B」の波形(図3)を拡大して観察して欲しい。写真では良く分からないかもしれないが、実際には正弦波状の異常波形が画面の下半分に出現している。エイリアシングが起こっていることが分かる。

    エイリアシングとは、入力信号周波数の2倍よりもサンプリング周波数が低いときに発生する測定エラーである。A-D変換の結果、サンプリング周波数と入力信号周波数の差分の信号が出てしまう。この信号をエイリアシング信号と呼ぶ。

    しかし表1によると、「TDS3012B」の最大サンプリング周波数は1.25Gサンプル/秒(1.25GHz)である。3MHz~4MHz程度の信号を取り込むには、十分高いサンプリング周波数のはずだ。にもかかわらず、エイリアシング信号が発生している。その理由は次のパートで述べよう。

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