【レポート】

COOL Chips VIII - 曲げられるマイクロプロセッサに非同期式設計を応用

    福田昭  [2005/04/28]

    LSI回路技術に関する国際会議「COOL Chips VIII」でセイコーエプソンが発表した非同期式のマイクロプロセッサに関する講演内容(発表者はセイコーエプソン テクノロジープラットフォーム研究所の唐木信雄氏)をお届けする。

    デジタル論理回路の設計技術には大別すると、クロック同期式とクロック非同期式がある。実際にはデジタル論理LSIの大半は、クロック同期式で設計されている。非同期式に比べ、回路設計がはるかに容易だからである。ゆっくり動かす場合はともかく、動作速度を高めようとすると、非同期式では回路設計がきわめて難しくなる。

    ただし、非同期式のデジタル回路には、同期式に比べると以下のような利点がある。

    1. 消費電流が少ない
    2. 不要な電磁波の放射強度が低い
    3. 回路の各部を異なる速度で動かしやすい

    セイコーエプソンは特に、3)の利点を重視した。プラスチックフィルム基板にデジタル論理回路を形成しようとしたからである。ディスプレイ向けに、柔らかくて薄い、大面積デジタル論理回路の開発を狙う。

    ただしこの場合、製造方法が通常のシリコン集積回路とは大きく違う。まず、ガラス基板に多結晶シリコンの集積回路を作成する。それから集積回路の薄膜を剥がし、プラスチックフィルム基板に転写する。

    ガラス基板に成長させたシリコン結晶は、品質がそれほど高くない。結晶粒の小さな多結晶シリコンとなるのがふつうである。このため、トランジスタごとに特性が違うという問題を抱える。回路の各部で動作速度が異なるのである。クロック同期式では、回路の各部を均一な速度で動かさなければならない。比較的単純なドライバ回路であればともかく、複雑な大規模論理回路は動かしにくい。

    そこで同社は、非同期式の回路設計を採用することにした。非同期式では回路の各部がお互いにやり取り(ハンドシェイク)しながら動作する。トランジスタごとに特性が違っても、回路そのものは動作する。消費電力が下がる、不要な電磁波の放射が少なくなるといった効果も期待できる。

    非同期式の回路でトランジスタの特性ばらつきを補償

    そして実際に、8ビットの非同期式マイクロプロセッサ(名称は「ACT11」)を試作した。3万2000個の多結晶シリコン薄膜トランジスタ(TFT:thin film transistor)で構成している。動作周波数が500kHz、電源電圧が5Vのときに、消費電流は180μAとかなり低い。シミュレーションでは、同期式に比べて消費電力が70%減り、不要な電磁放射が最大で21dB低くなったとしている。

    プラスチックフィルムに8ビットマイクロプロセッサを形成

    不要な電磁放射スペクトラムの違い。赤色が同期式、黒色が非同期式。

    また回路設計の負担を軽減するため、ハードウエア記述言語(論理回路の設計用言語)であるVerilog HDLのサブセットを新たに開発した。回路ブロック間の通信をサポートする。

    なお過去、ガラス基板にプロセッサを形成した例としては、シャープと半導体エネルギー研究所が共同で試作した8ビットマイクロプロセッサ「Z80」がある。このときは多結晶シリコンよりも結晶粒が大きなCG(continuous grain)シリコンを成長させていた。CGシリコンは液晶ドライバICで実用化されている。

    関連記事

    関連サイト

    新着記事

    特設サイトの情報

      人気記事

      一覧

        イチオシ記事

        新着記事

        特別企画

        マイナビニュースマガジン