【レポート】

コンピュータの未来を切り開くインタフェース - WISS2004

11 美崎薫 presents スペシャルナイトセッション

    美崎薫  [2005/03/30]

    WISSは宿泊しながら、延々と議論が続けられている。

    場が「お開き」になるのは深夜の2時~3時であり、なかには4時過ぎまで起きていたり、徹夜組がいたりもする。

    そんなエネルギッシュな会であるから、当然昼よりも夜の方が楽しい。なにしろ右を見ても左を見ても、日本を背負って立つ気鋭のコンピュータ研究者がごろごろいるのである。議論は活発で、研究開発は一触即発。談論風発、駄じゃれは連発って感じなのであった。

    参加者リスト。こんな風に会議の席順と名前を一致させたりする

    そんな才気煥発のアイデアはどこから生まれてくるのだろうか。

    ふと振り返ってみると、アイデアをどう形にするのか。それをどう支援するのかは、なかなか興味深いテクノロジーであるように思う。たとえばこういう問いかけをしてみてもよいだろうか。

    コンピュータは発想支援に役に立つのか。立っているのか。

    事務系なら能率手帳に「超」整理手帳、システム手帳もある。糸井重里氏の日刊イトイ新聞では「ほぼ日手帳」なんて手帳を作っていたりもする。『黒革の手帖』なんてのもリバイバルで盛り上がったようだ。

    使った実例でいえば、古くはダ・ヴィンチの手帖、宮澤賢治の手帖なんかは、もう刺激にあふれていて、手帖というよりは芸術の域に突入しているように思える。

    こんなものをまのあたりにすると、アイデアがどんな形をとって生まれてくるのかは、生まれてきてみなければわからないのだ、ということにあらためて気づく。

    大事なことは、スケジュールの管理や住所録なんてことではなくて、アイデアなのだ。アイデアをどう形にするか。そのための手帳やノートが必要なのである。

    現在使われているコンピュータは、主として文字をうまく扱うことには長けているが、不定形でごちゃごちゃしたアイデアを表現するには不向きのように思えてならない。

    そこで、はたしてこの研究者たちは、どうやってアイデアを形にしているのか。そんなスペシャルナイトセッションを開催することにした。

    参加者は、まずは日立製作所デザイン本部の星野剛史氏。機械工学をバックグラウンドに、水晶型ディスプレイなど途方もないアイデアを力づくで形にしていくデザイナーである。

    使用しているノートはいわゆる大学ノートで、つねに使い終わった直前のものと2冊を携帯するという。横幅をうまく使うために、ページの中央で二つ折りにして、2段組みにして書くことも多いそうだ。文字だけでなくイラストを大胆に使っている。ノートの種類は横罫だったり升目だったり、あまりこだわっていないらしい。

    日立製作所デザイン本部の星野剛史氏のノート。アイデアを書き記したページ

    日立製作所デザイン本部の星野剛史氏

    同じく日立製作所デザイン本部で、今回は「On-Demand Cursor」を発表した塚田有人氏は、バインダー型のノートで、無地のメモ帳などを活用するという。これもアイデアメモのひとつ。

    日立製作所デザイン本部の塚田有人氏のノート。デザイン的な処理の見られるページ

    日立製作所デザイン本部の塚田有人氏

    ユーモアあふれる「親と子の心を繋ぐ実世界指向インタフェース」の実世界指向"おむつ"インタフェースで知られるデンソーITラボラトリの宇土敬祐氏が使用する手帳は、スリムの縦開きタイプ。ポケットにはいる気軽さがいい。思ったことはなんでも書いていくという感じで、メモからアイデアまで、ごった煮状態。次々わいて出てくるアイデアがつまっている感じだ。

    デンソーITラボラトリの宇土敬祐氏の手帳。ごった煮的な情報に、いろいろな発想の断片メモが見られる

    デンソーITラボラトリの宇土敬祐氏

    パナソニックデザインで携帯電話をプロデュースする木全輝志氏が使っているのはA5 6穴タイプのシステム手帳。スケジュール管理などは、携帯端末で行っているので、こちらは純粋にアイデア帳だという。なにやら携帯電話のアイデアにあふれている。腕には、リスト型のPHS。仕事柄、携帯電話は多数所有しているという。

    パナソニックデザインの木全輝志氏の手帳。携帯電話のアイデアを示すアイデアメモ

    パナソニックデザインの木全輝志氏

    木全輝志氏の腕には、リスト型のPHSが光る

    アルプス電気でデバイスを開発する萩原康嗣氏。使用しているのは小型の6穴式システム手帳。カラーで英語のほかイタリア語表記なんかもあったりして、おしゃれな感じの手帳である。能率手帳型の右ページがメモ欄になったタイプで、メモ欄には、薄く格子がひかれている。格子を活用したメモに向いている。

    アルプス電気の萩原康嗣氏の手帳。右ページにはさまざまなアイデアが記される

    アルプス電気の萩原康嗣氏

    それぞれ個性的な手帳で、見れば見るほど興味深い。

    今回は発想支援のために、コンピュータでなく手帳を使っている、という方を紹介しているが、もちろんコンピュータ研究者だから、最初からコンピュータに情報を入れてしまって活用している、という方も少なくなかった。blogやメール、qwikWeb、QuickMLなど、いろいろなものが発想支援ツールとして活用されているようだ。

    本文中で紹介した、Memoriumも、発想支援ツールのひとつである。

    道具に凝ればよいアイデアが出てくる、というわけではないだろうけれど、それでもよい道具は、アイデアを出そうという気持ちを高めてくれるはず。アイデア豊富な研究者に倣って、アイデアを形にする方法を探っていきたい。

    人の手帳ばかり覗かせてもらったので、最後に、筆者自身の最近のスタイルもご覧いただこう。メモはできるだけデジタル化している。可能であるかぎりはVAIO Uの手書きメモをメモ帳として使っている。

    美崎のメモ帳。VAIO Uに開発中のソフト「SmartWrite」を入れて取っている

    併用して紙を使うこともある。手書きメモソフトの保存操作が煩雑なためだ。枚数が増えると、操作の煩雑さでメモへの集中力が欠けてしまうのだ。

    紙を使う場合、できるだけ書き終わった直後にデジタルカメラでデジタル化している。どうせスキャンしてしまうのだが、いますぐ必要なメモはスキャンよりもデジタルカメラの方が早い。10枚くらいならすぐにデジタル化してしまえる。

    手帳、ノートはもっていない。紙にまつわるペン、カッター、はさみ、テープなども、ほとんどもっていない。アイデアとは直接は関係ないが、名刺をもらうのもやめてしまった。その場で写真に撮って終わりなのである。我ながらラディカルだとは思うが、紙からデジタルに移るためには、このくらいのむちゃは必要だろうと思う。気を抜くと、つい紙に戻ってしまうくらい、紙は自然なインタフェースなのだ。

    ノートは所有していないので、メモ書きなどで必要な場合は、配付される資料に直接書き込んでいる。本に書くところまでは至っていないようだ。

    書斎にいるかぎりは、紙は使わず、直接コンピュータの中に入れてしまっている。書斎のコンピュータはすべて電子ペンで動作していて、マウスは使っていない。必要に応じて手書きメモソフトも使っている。

    と、こんなところが筆者のメモ術。術というほどのこともないな。

    この美崎薫presentsの手帳&ノート術は、これからも不定期で開催していきたいと思っている。他人のノート見るの、大好きなのだ。

    なお、2005年のWISSは、2005年12月7~9日に、四国の小豆島で行われることが確定している。すでに準備に入って動き始めているくらいだから、ますますイベントには磨きがかかることだろう。インタフェース研究者、メーカー担当者など、大勢の参加が予想される。国内でもっとも活発なコンピュータ会議WISSで、コンピュータの未来を切り開いていこう!

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