【レポート】

チャット感覚で指点字、盲ろう者の意思疎通を助ける装置「ユビツキィ」

1 指点字をワイヤレスで実現する装置

    石田優子  [2005/03/24]

    盲ろう者とは、視覚と聴覚の両方に障害を持った人だ。有名人ではヘレン・ケラーが盲ろう者だった。日本エコロジーの取締役社長 横田和博氏によれば、日本の盲ろう者人口は約1万3千人と推定されているという。

    盲ろう者のコミュニケーション手段としては、掌に文字を一文字ずつ指で書いていく方法や、盲ろう者が相手の表す手話の形を触ってその意味を読みとる方法があるが、それでは会話に時間がかかり、意味を取り違えることもある。また、複数の盲ろう者や、複数の盲ろう者と健常者が会話をすることができない。常にマンツーマンの関係になってしまう。さらに、通訳者を介することでプライバシーの問題にもなる。そこで通常の会話程度の速度と、複数での会話を可能にする支援装置が「ユビツキィ」だ。今回はそのユビツキィを開発している横田氏に開発の経緯やユビツキィの機能などについてインタビューした。

    指点字での会話

    6点点字の規則

    ユビツキィとは、指点字を機械で行うための装置だ。指点字とは、盲ろう者が利用している6点点字を両手の指を使って伝達する言語で、通常の話す速さで会話できる。ユビツキィの公式サイトでは「東京大学の福島智助教授のお母さんがおおよそ20年前に」使い初めたと紹介されており、互いに手を重ねるようにして、点字の規則に沿ってタイプライターのように相手の指に振動を与えて意思を伝える。

    指点字の場合は、6点を左右両手の人差し指、中指、薬指に割り振る。たとえば「あ」という文字を伝えるためには、左手の人差し指を押せばいい。その強弱やポーズで感情が伝わる。指点字は、慣れると通常の会話をするペースで意思を伝えることができる優れた伝達方法だが、盲ろう者の世界でもまだあまり広がっていない。その理由としてはマンツーマンで教えなければならないこと、指点字の通訳者を必要とすることなどが挙げられ、指点字通訳者として登録されている人は数多いが、アクティブに指点字通訳者として活躍している人は全国で数十人くらいではないかと横田氏は言う。そこで、通訳者の代わり、もしくはその補助として、機械で指点字を行えるように開発されたのが「ユビツキィ」である。

    ユビツキィ拡大写真。指点字には人差し指から薬指までの3つのボタンを使い、小指にはパソコン操作などの機能を割り当てている

    赤外線信号でやりとりするワイヤレスなので、どこにでも持ち歩くことが可能。指点字翻訳ソフトにより、パソコンのディスプレイに表示したり、音声で読み上げさせたりすることもできる

    2個1対となったユビツキィを左右の手でそれぞれ握ると、各指のところに凹凸するボタンがそれぞれ付いている。右手に握った方は6点点字の右列、左手に握った方が左列に該当する。たとえば「あ」と伝えたい場合は、左手に持ったユビツキィの人差し指のボタン部分を押すと、他のユビツキィを持った人の左手の人指し指のボタンが振動した状態になり、相手にも「あ」という文字であることが伝わる。しかも、押し方の強弱でプロソディ(言葉の強弱、高さ、リズムなどを示す)のある会話が楽しめる。複数の人がそれぞれユビツキィを握っていれば、1対1ではなく、1対多での会話も可能だ。これは従来の盲ろう者同士や盲ろう者と健常者の会話では不可能だったことだ。

    ユビツキィは赤外線信号でやりとりするワイヤレスなので、どこにでも持ち歩くことができる。また、ユビツィが発信した文字を、指点字翻訳ソフトにより、パソコンのディスプレイに表示したり、音声で読み上げさせたりすることもでき、指点字などの盲ろう者のコミュニケーション手段を知らない人でも、盲ろう者と容易に会話することが可能だ。逆に、パソコンからキーボードで入力したり、音声認識ソフトと組み合わせてマイクに向かって話したりすることで、ユビツキィがその言葉を自動的に指点字に変換し、盲ろう者に伝えるほか、パソコンの画面にも同時に表示することができる。

    また、ユビツキィを使うことで、学校では先生の講義を複数人の生徒で同時に聴くことが、病院では従来通訳者を介していた診察も直接受けることができる。あるいは講演会、会議などで、通訳の補助として利用することが考えられる。そのうえ、様々な施設にユビツキィの中継局を置くことで、点字案内のような役目を果たすことも可能となるといい、現在は千葉大学市川研究室と、筑波技術短期大学にその中継局が置かれている。

    「盲ろうの人以外にも、たとえば視覚障害の人が、音声で読み上げられたくないような話や情報を知りたい場合、あるいは聴覚障害の人、視覚障害の人、盲ろうの人などが一緒に会話するような場合にも使える可能性があるのではないか」と、横田氏はさらなるユビツキィの応用範囲を語る。また、同氏は、ユビツキィチャット、ユビツキィブラウザなどのソフト開発も並行して進めており、将来は、インターネットを通じて遠隔地の人と会話したり、インターネットから情報を得たり、情報発信することもできるようになるだろう、という。

    新着記事

    特設サイトの情報

      人気記事

      一覧

      イチオシ記事

      新着記事

      特別企画

      マイナビニュースマガジン