【インタビュー】
米Apple Computerのフィル・シラー(Philip W. Schiller)氏といえば、Macworld Expoなどのイベントでもお馴染み、Steve Jobs CEOに次ぐAppleの"顔"ともいえる存在。MacintoshやiPodといったハードウェアからMac OS Xなどのソフトウェアに至るまで、広範な製品群を扱うプロダクト・マーケティング部門担当のシニアバイスプレジデント(上級副社長)であり、日本企業の役員会に相当する同社エグゼクティブチームのメンバーでもあるAppleのキーパーソンのひとりだ。
今回、そのシラー上級副社長に単独インタビューを試みる機会を戴いたので、個別の製品に関する情報というよりは統括的な立場にある人物としてのビジョンを伺うべく、いくつか質問を投げかけてみた。基調講演のときの気さくな雰囲気ながらも淀みない語り口を思い出しつつ、読み進めていただきたい。
海上(以下、U):先日発表された新しいタイプの製品「Mac mini」の販売状況はいかがでしょうか?
Schiller上級副社長(以下、S):Mac miniの販売は"極めてハッピー"に推移しています。販売台数など具体的な数字については、今ここでは申し上げられませんが、市場の反応は満足できるものです。
U:今年前半に予定されているというMac OS X "Tiger"のリリースも気になります。リリース計画に変更はありませんか?
S:当初のスケジュールに変更はありません。非常に素晴らしいものに仕上がっており、最初にMac OS Xを発売してからもっとも大きな変更を伴うリリースとなるでしょう。素晴らしい新機能がたくさん用意されていますので、我々も非常にエキサイティングに感じています。
U:先日のMacworld Expoでも多くの時間が高品位映像(HD)関連の発表に割かれていたように、AppleはHD(High Definition)映像への対応をいち早く進めているようですが。
S:いわゆるハイテク企業の中でも、Appleは先陣を切ってHD対応を進めてきましたし、この分野でもイノベーターとしての役割を果たしてきたと自負しています。まず我々がソリューションを提供し、他社がそれに追随するという形が生まれてくると思います。HDカメラは、今後ますます普及することでしょう。だからこそ、SONYのHDカムコーダーも好調なセールスを記録しているのでしょうし。
U:ただ、HD映像は従来の映像と比べてデータ量が多いため、そのぶんシステムに対する負荷も増すものと予想されます。要求されるハードウェア性能とのバランスをどのように考えているのでしょうか?
S:我々の製品には、一般消費者向けとプロ向けの2種類があります。HD映像対応のアプリケーションソフトでいえば、iMovie HDとやFinal Cut Pro HDがそれに該当します。ハードウェアについても然り、G5チップを1基搭載したiMac G5と、その強力なG5チップを最大で2基搭載したPower Mac G5という2種類の製品ラインを用意しています。
U:HD映像といえば、数日前にAppleがBlu-Rayにコミットしたという報道がありましたが、Blu-Rayを選択した理由は?
S:Appleは何年もの間、一般消費者向けのiDVD、プロ向けのDVD Studio Proといった製品を通じ、DVDをコンピュータに取り込むためのリーダー的な活動を続けてきました。今後HD映像機器が普及すると、オーサリングの機能やコーデック「H.264」をサポートするQuickTimeなどの(HD映像に対応した)機能が求められるでしょうし、我々がHD映像を念頭に活動することは当然の成り行きと考えます。
今回Blu-ray Disc Associationに参加し、Board of Directorsのメンバーとなりましたが、これまでもDVD Forumのメンバーとして活動してきたわけですし、長年の間DVDの分野で活動してきた結果だと言えるでしょう。
U:iPodシリーズは、いまやポータブルオーディオの分野で断トツのシェアを持っています。そのシェアを維持するため、あるいは一層拡大するために、Appleはどのようなビジョンを持っていますか?
S:私どもAppleは、この"デジタル・ミュージック・レボリューション"という革命の波の中で、ハードとソフトを組み合わせることで誰もがデジタルミュージックを楽しめるということをはじめて実現した企業と言っていいでしょう。iTunesのミュージックライブラリやiTunes Music Storeだけでなく、サードパーティーが何百種類ものデバイスを提供していますし、BMWなどの自動車メーカーもiPodの車載化に積極的です。この流れは今後ますますの拡大が期待できますし、結果としてより多くの顧客にアプローチ可能になるわけです。そうすれば価格は下がる、パートナー企業の参加も活発になってくる…… といった具合に、iPodを取り巻く市場は急速に伸展して行くだろうと考えています。
U:スピーカーやアクセサリといったiPod関連製品について、Appleはどのようにサードパーティーと付き合って行くのですか?
S:iPod関連製品を開発するサードパーティーのために、私どもは「Made for iPod」というプログラムを新設しました。Apple側から技術情報を含むよりよいサポートを提供することによって、サードパーティーは素晴らしい製品の開発が可能になり、それと同時に消費者にとっても有益なプログラムであると考えています。
U:その「Made for iPod」ですが、ADCでは(Select/Premierメンバーを対象に)Tigerの正式リリース前のビルドを提供していますね。iPodでもそういったこと -- 製品リリース前にサードパーティー向けに情報を提供すること -- はありうるのでしょうか?
S:「Made for iPod」はスタートしたばかりで、まだ具体的な活動はしておりません。ですから、なんとも言えない状況ですが……
U:というのはですね……私は、iPodを購入してから2ヶ月ほどサードパーティー製ケースの発売を待ちました。iPodの発売と同時にこのような(筆者のシリコンケースに包まれたiPodを見せつつ)ケースを購入したい、というニーズは消費者の間にあると思うのです。
S:……Do the best we can.
U:ありがとうございます(一同笑)。
U:御社のiPod+iTunes+iTunes Music Storeというビジネスモデルは大成功を収めているわけですが、それに便乗、あるいは真似をしようとする企業も少なくないと思います。追われる立場として、Appleは他社の攻勢をどのように考えていますか?
S:いろいろなオンラインミュージックストアがあるなかで、iTunes Music Storeが提供するこのフォーマット(AAC+FairPlay)はもっとも成功を収めていると言えるでしょう。世界で約70%のシェアを誇っていますし、3億以上もの曲がダウンロードされています。そしてその曲をどこで再生するかというと、やはりもっとも成功しているポータブルオーディオ「iPod」なのではないでしょうか。ということは、顧客もこの組み合わせを望んでいるということも言えると思います。
パートナーの話ですが、米国のiPodユーザの間でよく使われているAudiobooks(いわゆる"音声の本")のほか、AOLもiTunes Music Storeのフォーマットを採用していますし、Motorolaも携帯電話にそれを使おうとしています。ですから、もっとも成功したミュージックストアのフォーマットであると言えると思います。
U:DRM技術のFairPlayをライセンス供与する余地はあるのでしょうか?
S:これまでもいろいろな企業と話し合いの場を持ちましたし、これからも商機として検討はします。顧客にとって何がベストなのか、Appleにとって何がベストなのかを考えながら判断して行く、ということになるでしょう。具体的な事案でなければコメントしにくい話題ではありますが。
U:以前からAppleはMacを核とする「デジタルハブ」の構想を掲げていますが、現在でもその構想に基づく戦略に変化はありませんか? iPodが大成功を収めたほか、iTunes Music Storeの展開など、Appleを取り巻く環境も変化していると思うのですが。Macの位置付けも環境の変化に影響を受けるのでしょうか?
S:私どもAppleには、いろいろなビジネス部門があります。MacもあればiPodもあり、アプリケーションソフトもある…… そしてその多様なビジネスをつなぎ合わせて行くことが、戦略であると私は考えています。
デジタルハブ戦略は何年も前から打ち出しているもので、いろいろな人たちがそれをフォローしています。その考え方では、まずコンピュータが中心にあり、そこへ写真や動画などのデジタルコンテンツを保存しておく正しい場所であり、そこで管理や編集をすることになっています。今やデジタルカメラやオーディープレイヤーなど周辺機器の種類も増えましたが、ユーザーはまさに今このハブの考え方でいろいろなことをしているわけですし、これからも同様だろうと考えています。
U:ただ、iPodもスピーカーなど自身の周辺機器を持ち、Macからは独立して動作するわけですよね。
S:事は単純、iPodは"World's best music player"ということなのです。iTunesと組み合わせて使うもよし、デジタルハブの一員に加えてもよし、スピーカーなど独自の周辺機器を接続してもよし。自動車に載せて楽しんでもいいでしょう。それは、世界最高のミュージックプレイヤーこそが成せる業です。
U:ということは、デジタルハブ戦略の中心はこれからもMacであり続けるわけですね?
S:スクリーンの前で映画の編集をしたり、あるいはミュージックライブラリにいろいろな音楽を保存したり、写真を自身のWebページに載せたり、といったデジタルデータを扱うライフスタイル全体を見渡してみますと、コンピュータはまだその中心の座にあるはずです。
インタビューも終わりに近づいたとき、シラー上級副社長は今回訪日した理由について次のとおり述べられた。本紙読者および日本のAppleユーザへのメッセージともいうべき内容だったので、できるかぎりそのままの形で掲載しておこう。
S:私どもAppleは、業界のイノベーターとしての役割を担っているという自負のもと、新しいソリューションをより短期間で市場投入する必要があると考えています。また、これまでも誰にとっても使いやすい製品をと考えてきました。
そうした考えのもと数多くの革新的な技術に投資を行ってきた結果、いまやいろいろな分野に成果が現れています。iPodをはじめとする音楽関連製品、iMacやMac miniなどMacintosh製品、デジタルライフスタイルを提案するアプリケーションのiLife、そしてOSではTigerが間もなく登場する予定です。革新的な技術が収斂した結果が、それらの素晴らしい製品の誕生につながったのです。
日本は我々にとって非常に重要な市場ですし、ハードとソフトがシームレスにつながるような革新的な技術にもっとも理解が深い市場だと思っています。日本の皆さんに話をさせていただきたい、このような我々の考えを皆さんに知っていただきたい、という願いのもと日本へとやってきたのです。
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