【レポート】

新開発の2足歩行ロボット「新歩」、新潟・自然科学館で操縦可能に

2 膝を伸ばした歩行、その基本は「骨盤」だった

    山田久美  [2005/03/08]

    開幕式後、テムザックの代表取締役・高本陽一氏と早稲田大学・ヒューマノイド研究所の高西淳夫教授に話をうかがった。

    祝辞を述べる早稲田大学の高西淳夫教授

    マスタースレーブ方式によるロボットの操縦

    --今回、2足歩行ロボット「新歩」を開発するにあたり、注力された点を教えて下さい。

    高本氏「このロボットの最大の特徴である"膝を曲げないで歩く"ということを実現させるには、腰の旋廻運動が必要だったため、腰の部分にさらに2個のモーターを追加しないといけませんでした。そのため、ホンダのASIMOですら搭載しているモーターが全部で34個であるのに対し、このロボットはそれを上回る39個ものモーターを装備しているんですよ。モーター数が増えるということは、それだけ制御も難しいということで、世界で最高レベルの2足歩行ロボットに仕上がったと思っています」

    --また、実際に来館者がロボットを操縦できるというもの初めての試みではないかと思いますが、その点に関して、特に注意を払われたことはありますか。

    高本氏「人間と同等の大きさの2足歩行ロボットを製作している企業や団体は、世界で4カ所程度しかなく、しかも、皆さん、ロボットを大事に抱えて誰にも触らせないといった状態かと思います。それに対し、今回は常設展示であると同時に、一般の方々に操縦を体験していただくということで、弊社としても初めての体験となりました。そのため、遠隔操作装置であるコックピットを新たに開発し、操作をマスタースレーブ方式にしました。

    コックピットの開発にあたり工夫した点は、まず、無線LANによる通信のやり取りができるようにしたことです。ロボットに取り付けられたワイヤーは、ロボットが転倒しても壊れたり、来館者に倒れ込んだりしないようにするためのもので、通常はたるんでいます。ロボットの頭にはライトが装備されていて、頭上にあるワイヤーと接続している円盤状のものは、光センサー内蔵の、ロボットの動きを監視するための自動追尾装置です」

    --「テムザック4号」などもマスタースレーブ方式かと思いますが、今回のロボットとはどこが違うのでしょう。

    高本氏「テムザック4号の場合、PHSでデータ送信を行う、比較的なラフな制御でした。それに対し、今回は位置精度を出すなど、より厳密な制御を行っています。また、テムザック4号機の場合、慣れないと操縦が難しかったのですが、今回は、例えば、ロボットの歩行操作もペダルで簡単に行えるようにするなど、誰でも簡単に操縦できるようにしました」

    コックピットのフットペダルでロボットの歩行を制御する

    --高西教授におうかがいしますが、今回、テムザックと共同開発された経緯をお聞かせ下さい。

    高西氏「早稲田大学・ヒューマノイド研究所は、元々、何十年も前から2足歩行ロボットの研究開発を行ってきました。また、テムザックさんとは、"互いに協力し合い、ロボットを事業化していく"という一つの方向性の下、歩行障害者や高齢者を乗せるための2足歩行ロボットの研究開発を一緒に行うなど交流を深めてきました。そんな中、今回、ヒューマノイドロボットの展示に関する依頼を内田洋行さんから受けた際、テムザックさんに声をかけさせていただいたというわけです」

    --今回、常設展示されることとなった2足歩行ロボット「新歩」の最大の特徴は膝を伸ばした歩行の実現ということですが、その意義についてもう少し詳しく教えて下さい。

    高西氏「元々、ヒューマノイド研究所における2足歩行ロボットの研究テーマとして、人間と同じように膝を伸ばした歩き方をさせたいという願望があり、2年前から取り組み始めていました。一方、ソニーのQRIOやホンダのASIMO、産業技術総合研究所のHRP-2などは、膝を曲げ、腰を落として歩くといった方法をとっています。まずは、その理由から説明しましょう。

    ロボットが倒れないようにするためには、胴体をどのように動かしたら良いかという問題と、足の着地位置をどこにしたら良いかという問題の、2つを同時に満足させなければいけません。つまり、ある場所に足を着きたいと思ったら、その場所に足を持っていくわけですが、その際、股関節の角度、膝の関節の角度、足の関節の角度がある程度ないと、足を持っていくことはできません。その角度を計算する方法があるのですが、従来の方法論では、膝を最も伸ばした姿勢を取った状態で胴体の位置と足の着地点を計算すると、計算不可能ということで、コンピュータがエラーを起こすという問題が発生していました。その姿勢のことを"特異姿勢"あるいは"特異点"と呼んでいますが、その特異姿勢を避けるため、皆、膝が伸びない姿勢の範囲内で歩かせようということを自然としてしまっていたというわけなのです。つまり、常に膝を曲げ、腰を落とした状態で歩かせていたのです。

    ところが、人間はそのような歩き方はしていませんよね。一方、われわれの研究室では、埼玉県にある国立リハビリセンターと共同研究をしたり、同センターの研究者にわれわれの研究室に来てもらって、義足の研究や人の歩き方の研究で、学位を取得してもらったりしてきました。つまり、お互いに共同で研究を行うという密接な関係が成り立っていたのです。そんな中、"実は人間は歩くときに骨盤を動かしている"ということを、国立リハビリセンターの方から聞いたのです。その時、"あ、そうか。今までロボットには骨盤という考えがなかったな"ということにはたと気付いたのです。そこで、人間の骨盤に着目し、骨盤のメカニズムを導入して製作したのが、「新歩」の原型となった「WABIAN-2」なのです。

    これを開発したことにより、例え膝を伸ばしたとしても、骨盤を動かすことで、特異姿勢の問題を回避できるということがわかったのです。そして、約1年前、膝を伸ばした歩行に成功することができました。今回は、その技術をテムザックさんにお渡しし、より信頼性のあるメカニズム設計や電気/電子回路の追加してもらうなどして、あのようなロボットに仕上げることができました」

    --膝を伸ばした姿勢での歩行を実現させたことで、より人間の自然な歩き方に近づいたということですが、そのことによるメリットとしては、ほかにどのようなことがありますか。

    高西氏「例えば、人が膝を曲げて歩く場合、非常に筋肉を使います。エクササイズやダイエットになるくらいですからね。でも、"普段、人がそれをやっていないのは何故だろう"と考えたときに、その理由としては(膝を伸ばす歩き方が)最もエネルギーを使わない歩き方だからだと言われています。実際、ロボットにも電流を取り付けて、膝を伸ばした歩行と膝を曲げた歩行を比べたところ、やはり、膝を伸ばした歩行の方がエネルギーの消費量が少ないということがわかったんです。つまり、ロボットをより人に近づけようとすることで、逆に、ロボット工学的な視点から人間というものがわかってくるんですよ」

    --今回、腰の旋廻運動を行うため、39個のモーターを付けたことで、かえってエネルギーを消費するのではないかと思うのですが、いかがでしょう。

    高西氏「人間は600個の筋肉、つまりモーターを持っています。これだけのモーターを持っていながら、非常に効率良く、さまざまな動作を行えているというのは、ロボット工学的には驚異であり、そこには何かしくみやからくりがあるはずです。その謎を解くためには、ロボットの形状や動きを人間により近づけていくことが重要であり、そのことにより、人がこういう形状をしているのは何故かといったことがさらにわかっていくはずだと考えています。エネルギー効率が高まれば、モーターの数をさらに増やしても大丈夫いうことになるわけです。実際、骨盤のメカニズムを導入し、腰の部分にモーターを増やしたことで、ほかのロボットよりもモーター数は増えましたが、全体的な効率は上がっているんですよ。

    また、国立リハビリセンターや日立製作所、早稲田大学藤江正克研究室と一緒に、"歩行支援機"と言って、高齢者や歩行障害者の歩行を支援するロボットを開発しています。現在、ロボット特区となっている福岡市に持って行き、高齢者や障害者に使ってもらうという実証実験を行っています。そこで使い勝手などをアンケートで評価してもらっているのですが、被験者はエンジニアではないので、どうしても定量性に欠けるんですよ。つまり、歩きづらいとか歩きやすいといったことを、具体的な数値に置き換えることができないのです。それに対し、仮に、人間の歩行を再現できる2足歩行ロボットが開発されれば、例えば、わざと高齢者の歩行を真似してみる、歩行障害者の歩行を真似させるといったことができるようになります。ロボットは100個以上のセンサーを持ったセンサーの塊ですから、人間にそっくりの形をした、人間そっくりな動きができる"測定装置"になるというわけなんです。そのため、現在、我々はヒューマノイドロボットを使って、そういったことを測定していこうといった研究を行っているところなんです」

    --非常に興味深いお話しですね。ただ、より人間に近いヒューマノイドロボットを開発していくためには、まだまだ相当な時間がかかると聞いていますが。

    高西氏「人間全体の能力を考えたら、とてもとても足元にも及ばないですね。実際、ヒューマノイドロボット研究は、やればやるほど目標となる人間が遠くなっていくというのが実感です。でも、完璧なヒューマノイドロボットでなくても、例えば、膝の動きや骨盤の動きがより人間に近い形で模倣できるようになるだけでも、世の中の役に立つことができるのではないかと考え、我々は日々研究開発に取り組んでいるんですよ」

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