【レポート】

文化庁メディア芸術祭 - 海外の目、海外を見る目

1 高い評価の日本アニメ、制作現場は閉鎖的?

 
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創造性あふれるメディア芸術の振興を図る「文化庁メディア芸術祭」が、2月25日から恵比寿で開催されている。同芸術祭は、新しい表現技法を開拓したメディア芸術作品を顕彰することを目的とし、受賞作品展において、それらを鑑賞する機会を来場者に提供している。また、関連シンポジウムなども連日行われ、会場は若手クリエイターを始め、メディアアートに関心を持つ人々でにぎわっている。その同時開催イベント「外国人クリエイターから見た日本のメディア芸術シンポジウム」と「韓国文化コンテンツ秀作展」を取材した。

日本のアニメは「説明しがたいほどの衝撃だった」 サヴィン・エッフェル氏

メディア芸術祭運営委員の浜野保樹さんが司会を務めた

「日本のアニメを当たり前のように見ている日本人にはわかりづらいかもしれないが……それは無人島に暮らしていた人のところに、超大作の映画が届くようなものだった」。「外国人クリエイターから見た日本のメディア芸術シンポジウム」のゲスト、サヴィン・イートマン=エッフェル氏は、幼少のころに初めて日本のアニメ「UFOロボ グレンダイザー」を見たときの衝撃をそう表現した。エッフェル氏は、アニメーション作品を日本のクリエイターと共同で制作している「Sav! The World Productions」創業者だ。その創作意欲の原動力は、子供時代に日本製アニメを見たときの感動に端を発しているそうだ。

同氏は、フランスでは、悲しみや憎しみなど、リアルなマイナス感情を子供に見せることはタブーとする風潮がある、と指摘する。これはフランスに限らず、欧米では普遍的な意識だという。そのため、子供向けの番組はストーリーもキャラクターも単純にならざるを得ない。ぬいぐるみのようなキャラクターの、かわいらしく、「いかにも子供向けの番組」しか見たことのなかったエッフェル氏に、日本のアニメは、言葉では言い尽くせないほどの衝撃を与えたようだ。英雄として死を選ぶキャラクター、友達の裏切り……ドラマチックなストーリー展開に、キャラクターの深さに、魅了された。そして巨大ロボットが、宇宙からやってきた敵と戦うという設定、派手な爆発。エッフェル氏に限らず、クラスメイトたちの間でも、「グレンダイザー」は大人気だったという。

「グレンダイザー」がフランスで放送されたのは1978年。「スターウォーズ」の公開より前だ。SFというジャンルがまだ定着していない時代で、巨大ロボットという発想が非常に斬新だったとエッフェル氏は振り返る。

感情表現に抵抗、暴力シーンはもってのほか 日本アニメが消えた

体験談を交えながら日本のアニメについて話すエッフェル氏

同じく78年に放送された「キャンディキャンディ」は女の子向けの番組だが、エッフェル氏は友達に隠れて毎回見ていた。しかし、大人になってそれを打ち明けると、ほかの男性も「実は僕も……」と告白するのだという。当時のフランスでの日本アニメ人気を裏付けるエピソードだ。身分違いの男性に恋する女の子が自殺未遂をしたシーンがエッフェル氏の心に今も残っている。子供心に感動し、考えさせられた場面だった。

しかし、今から考えると、それがフランスで放映されたこと自体が驚きなのだそうだ。日本製アニメの人気が定着するとともに、フランスでは教育上の問題が指摘され始めた。「北斗の拳」など、暴力的なシーンを含む作品が登場するとその抵抗はますます強くなった。自国のアニメ産業を守ろうという動きともあいまって、90年代には日本アニメの輸入は途絶えたのだという。

エッフェル氏がアニメ制作業界に入ったのはちょうどそのころだった。テレビ局は想像以上に保守的で、特に感情表現への反対はすさまじく、キャラクターが涙を流すことも許されなかったと同氏は語る。存在感の高いキャラクターを作りたいと思っていたエッフェル氏は、そんなテレビ局の考えに疑問を抱きつつも、それを言い出すことすらできない空気が社内にあった。また、コストをかけないよう、外国に絵を発注するため、物語の作者は制作現場を見ることができない。どうせいいものはできない、という社内の士気の低下をエッフェル氏は感じていた。この中で仕事を続けるならいっそやめたほうがいいかもしれない、そう思い始め、もう一度自分は何が作りたいのか、自分に問うてみた。日本のアニメが浮かんだ。

日本のノウハウを取り入れた作品作りがしたい

主人公Mollyは生き生きとした表情を見せる

サイエンスフィクション仕立ての作品でもあるようだ

日本のアニメに学んだ作品を制作しようと7年前、エッフェル氏は「Sav! The World Productions」を立ち上げた。ちょうど宮崎アニメの世界的な評価を機に、日本のアニメがフランスでも再評価されるようになってきていた。長い時間をかけ、日本のクリエイターたちと仕事ができる環境も築き、アニメ「Molly Star-Racer」の制作のため、2003年に来日。ハルフィルムメイカーの日本人スタッフ5人と制作を進めている。配給はバンダイ。日本アニメに学びながら、独創的な作品に仕上げたいという。英語で制作しており、アメリカでの放映も現在交渉中だ。

日本のスタッフと仕事をする中で、エッフェル氏はやりがいとともに難しさも感じている。日本では、アニメの絵を外国に発注せずに国内のスタジオで制作している。このような環境が整っているのはほかに北朝鮮くらいしか思い浮かばない、とエッフェル氏。日本ではアニメ制作が文化・ビジネスとして定着しており、現場に常に優秀な人材をそろえている。しかし、仕事を共同で進めようとすると、そんな優れた環境にある日本のアニメ界の、非常に閉鎖的な側面も浮かび上がってきたと同氏は語る。

共同制作の企画を通すにも、予想以上に時間がかかった。そして、実際に制作が始まると、口出しをまったく許されず、出来上がったレイアウトもみせてもらえないという状況だったという。それでも日本のアニメ制作業界に学びたいという姿勢を示し続けることによって、エッフェル氏はスタッフとの信頼関係を築いていった。次第に日本側の姿勢も軟化し、今ではフランス人のスタッフが絵コンテをチェックしているという。

会場では、制作中の「Molly Star-Racer」の一部が上映された。父親にすてられた主人公の女の子が、自分のことを名乗らないで父に近づき、どうして自分が見捨てられたのかを探っていくというストーリー。キャラクターたちは日本のアニメのように、さまざまな複雑な表情を見せる。日本のアニメの模写ではなく、多様な感覚をとりいれつつ、ドラマチックでキャラクターに魅力と深みのある作品にしたい、長い時間をかけて築いた日本の現場との関係なので、映画が完成するまで日本に滞在して制作の仕事を続けると、エッフェル氏は意気込みを述べた。また、日本で見て非常に感動した「未来少年コナン」などは、、キャラクターが死ぬシーンがあるため、今のフランスの状況では放映できないが、そういった壁も、自分の作る作品を通して少しずつ破っていきたいと、意欲的に語っていた。

閉鎖的な風潮が日本アニメ界の課題 グェン・イラン氏

流暢に二カ国語をあやつるグェン氏

エッフェル氏の講演の翻訳を担当したグェン・イラン氏は、パリで行われた「日本の新しき映像 日本のアニメーション・デジタル映画祭」でプログラムコーディネーターを務めるなど、日本発アニメーションの研究者として活躍している。「天空の城ラピュタ」を見て日本のアニメをもっと知りたいと思ったのが、研究を始めたきっかけだった、と同氏は語る。現在では、日本のアニメを単にビジネスとしてだけではなく、文化として評価し、日本発のコンテンツを海外に広めていくための活動を行っている。

イラン氏は、日本のアニメの表現方法は世界の最先端を行くと高く評価し、フランスに紹介していく一方、日本アニメ界の将来に危惧の念も抱いている。同氏は、展覧会などで作品の批判を許さない風潮が日本にはある、と指摘した上で、業界の閉鎖的な面に日本のアニメの限界を感じるのだという。プラスマイナス、両方の評価を受け入れる姿勢が必要なのでは、とイラン氏は語った。

イラン氏自身、フランスと日本が共同制作するアニメーションに高い期待を抱いている。そのために、政府が作品の制作費を支援するというフランスの制度など、日本に伝えたいことも多々ある。また、この制度の導入によってフランスで起こった問題も参考にして、よりよい制作環境を作ってほしいとイラン氏は話した。

シンポジウムは文化庁メディア芸術祭実行委員会(文化庁、CG-ARTS協会)が主催し、3月1日、東京都写真美術館で行われた。

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インデックス

目次
(1) 高い評価の日本アニメ、制作現場は閉鎖的?
(2) 韓国発の秀作の数々


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