【レポート】
国際大学グローバルコミュニケーションセンター(GLOCOM)が1月31日から連続開催している「拡大版IECP研究会(コロキウム)」の最終回が2月8日、行われた。「日本発のコンテンツの可能性と課題を探る」ことを目的としたセミナー最後の議題は「テキストコンテンツの新たな可能性」。筑摩書房取締役でパブリッシングリンク代表の松田哲夫氏が出版物のデジタル化について、シーネットネットワークスジャパン取締役の御手洗大祐氏がインターネット上のテキストコンテンツの可能性について、講演を行った。
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「王様のブランチ」コメンテイターとしてもおなじみの松田哲夫氏。 「リブリエ」には松田氏が選んだ「リブリエ日本文学全集100」のCD-ROMもついてくる |
筑摩書房取締役である松田氏が代表を務めるパブリッシングリンクは、主要出版社とソニーなど15社の出資によって2003年に設立され、電子出版コンテンツの企画、製作、配信などを行っている。現在、ネットワークを通じて会員に電子出版コンテンツを配信し、一定期間レンタルするという新しい形態のサービスを提供中だ。2004年4月に発売された書籍データを携帯できるツール「リブリエ」を通じ、書籍をデジタルで楽しめる時代作りに取り組んでいる。
本とデジタル文化に関心を持ち続けてきた松田氏は、出版界の変遷からパブリッシングリンク設立に至る経緯を次のように説明した。
1960年代まで筑摩書房は「全集の筑摩」と呼ばれていた。インターネットがなかった時代、家においておく知的ツールとして、百科事典が活躍していた時代だった。70年代に入ると、通勤途中など忙しい時間の合間を縫って読書する人が増え、文庫本が伸展。それまでも岩波社が古典作品を文庫本として売り出していたが、角川書店がエンターテインメント作品を文庫化したことによって、軽量で安価な文庫本が、読書家たちに広く親しまれるようになった。
ゲーム人気が出るとゲームの攻略本が売れる。インターネットの登場で、関連のマニュアル本が売れる。新しい文化が現れるたびに新しい出版物を発行し、時代の波に乗ってきた出版界は、バブルの崩壊後もプラス成長を続けた。しかし、その出版界にもとうとう不況が訪れた。昨年は8年ぶりにややもちなおしたが、それは『ハリー・ポッター』シリーズ、『バカの壁』、『世界の中心で、愛をさけぶ』などミリオンセラーがいくつも出たことによる、一時的なものに過ぎないという。雑誌、コミックの売り上げは下降を続けている。
一方で、IT産業界では書籍をコンテンツとして利用しようとする動きが盛んになってきた。出版社を通さず、著者と直接交渉をしてコンテンツを集めようとする会社が増えてきた。これに対して出版社は、参加各社の電子書籍を横断して検索・購入できるサイト「電子文庫パブリ」を設立し、自社のタイトルをユーザーにアピールしてきた。しかしパブリッシングリンクは、出版社側が初めて、電子文庫の開発に主体的に取り組もうと試みる目的で設立されたという。それまでハードメーカーに対して受身でやってきたことへの反省を生かし、ソニーと協働して配信だけでなくハード開発までも総合的に行っている。
実は電子文庫の開発は十数年前から進められていた。書籍はそもそも、長い年数同じものを読めるメディアとして利用されている。それに対し、デジタル機器はOSやハードがどんどん変わる。今読めるデータも、数年後には新しい機種の登場で読めなくなってしまう可能性があるデジタル機器では、長い年数楽しめるという書籍の長所を生かしきれなかった。また、インターネットは情報収集のツールとして利用されており、まだまだそこでコンテンツを楽しむという人も少なく、電子文庫が普及するには至らなかった。ハードをどのように定着させるか? 「リブリエ」はパブリッシングリンクが工夫を凝らした製品の、第一弾だ。
書籍が売れないと書店の経営を圧迫する。本を文化として残していけるのか? さまざまな問題を抱え、今までの電子出版のコンテンツは絶版になった本などが中心だった。しかし、パブリッシングリンクの「Timebook Town」を始め、現在の電子書籍販売サイトには新刊本がずらりと揃っている。古本屋から新刊本の書店へ。"電子出版界"が大幅に改革した。
「Timebook Town」の書籍ダウンロードは1冊210円からと安価だが、2ヶ月間のレンタルという形をとっている。古本屋などで買って、読んで、すぐに売るという事実上のレンタルで本を楽しむ人が増えてきたことを受け、この形態を選んだとのことだ。そしてそのダウンロードした作品をいつでも、どこでも、携帯して楽しめるツールが「リブリエ」だ。「リブリエ」は、ブックリーダーとしての機能だけでなく、RSS/RDFを公開しているサイトの情報やパソコンのデータが読み込めるソフト、さらに電子辞書機能を搭載している。また文字を読みやすく拡大できるなど、電子文庫ならではの便利な機能もついている。
「リブリエ」が発売されて8~9ヶ月の現在、注目度の高さに対し、売り上げがまだまだ追いついていないと松田氏は言う。やはり4万円という価格の敷居の高さが一番問題だと松田氏は感じている。
しかし、昨年から確実に伸びている電子出版コンテンツもある。携帯電話への配信だ。携帯電話は画面の問題上、多くのコンテンツを詰め込むのには向かない。そのため、月がわりで10~20の作品をダウンロードできるようにしている。これからも携帯電話でのコンテンツ配信には力をいれていく意向だそうだが、携帯配信で膨大な出版物を網羅することは不可能だ。やはり、手に入れやすく、機能の充実したハードの開発は欠かせない、と松田氏。リブリエの2号機では価格の面での改善やデータの長期間再覧保障などを中心に改善策を講じる予定だ。電子出版が定着すれば、小部数しか発行しない書籍をオンデマンド出版にするなど、出版界の新たな可能性も広がる、と松田氏は話していた。
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