【レポート】

テレイグジスタンスの最新研究成果が公開、ド派手な影・透ける人間なども

1 テレイグジスタンス実現のために応用できる技術のひとつ「光学迷彩」

    大塚実  [2005/01/20]

    昨年12月、東京大学・本郷キャンパスにて「テレコミュニケーション、テレイマージョン、テレイグジスタンスに関する国際シンポジウム」が開催された。これは、東京大学大学院情報理工学系研究科の舘暲教授が代表者を務める研究プロジェクト「テレイグジスタンスを用いる相互コミュニケーションシステム」の成果を公開する目的で実施されたもので、開催は2002年に続いて2回目。

    同プロジェクトは、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)の一環として実施されている。シンポジウムでは、初日に舘教授や研究分担者らの講演が行われ、2日目のラボツアーでは実際にシステムを使ったデモも見ることもできた。本レポートでは、このラボツアーの模様を中心に紹介していきたい。

    そもそも"テレイグジスタンス"とは?

    このプロジェクトの主題にもある"テレイグジスタンス(Tele-Existence)"という言葉だが、まだ聞き慣れない人も多いかもしれないので補足しておくと、これは舘教授が1980年代に提唱した概念で、テレオペレーション(遠隔操作)の進化形と位置づけられている。では、テレオペレーションとテレイグジスタンスの違いは何か? ということになるが、それは人間が感じる「臨場感」ということになるだろう。実際にはA地点にいても、それとは離れたB地点にいるかのような感覚が得られるのがテレイグジスタンスで、「空間を繋げる」とも表現される。テレオペレーションと似た技術を利用しても、目的は大きく異なるのだ。

    テレイグジスタンスにおける情報の流れ。右下が代理ロボットを使った場合、右上はバーチャル空間でアバターを使った場合

    HRPを使った実験も行った。左上が9面スクリーンを使った操作システム、右下が代理ロボットとなるHRP

    例えば、遠隔地からのロボットの操縦を考えると分かりやすい。操縦するには最低限、ロボットからの映像が人間側に送られ、人間側からは動作の指示がロボットに送られる必要がある。テレオペレーションでは、基本的には操縦に必要な情報以外を人間側に送る必要はないが、テレイグジスタンスでは、人間にあたかもその場所にいるような感覚を与えることが重要となる。一例としてロボットが歩いたときの振動について注目すると、前者では快適な操縦の邪魔になる情報として無視されるかもしれないが、後者ではより臨場感を与える要素として、操縦席に振動を再現するようなシステムを組み込むなど、積極的に活用されることになる。

    相互テレイグジスタンスを実現する「TELESAR2」

    最初は、マスタースレーブ方式のロボットである「TELESAR2」。これには「インピーダンス・コントロール」と呼ばれるシステムが実装されており、マスター(操縦者)側のコントローラーの動きをスレーブ(ロボット)側のアームで再現するだけでなく、スレーブのアームに加わった外力もマスター側のコントローラーで再現される。これにより、アームが何かに当たったら操縦者にすぐに伝わり、臨場感が増すとともに、安全性が向上するというメリットもある。

    「TELESAR2」。奥に操縦者、手前がロボット。HMDも利用できる。ロボットのすぐ隣で操縦しているが、原理的にはもちろん遠隔地に置いても構わない。ただその場合、1msec以上の遅れがあるとマズいとのこと

    インピーダンス・コントロールを採用。マスター側とスレーブ側で運動情報をお互いにやりとりしている

    ただこれだけだと、操縦者には臨場感があるものの、ロボット側の現場にいる人間にとっては、ロボットはロボットでしかない。次のステップとして「相互テレイグジスタンス」が考えられており、TELESAR2ではこの問題を解決するために、ロボットに操縦者の映像を投影することで、ロボットの近くにいる人間に対し、その操縦者の存在感を与えようとしている。

    下段のようにロボットに操縦者を投影すれば、相互テレイグジスタンスが成り立つ

    その投影方法について、舘研究室では「光学迷彩」の原理を応用中だ。この光学迷彩では、まず対象の物体を再帰性反射材(光が入射した方向に反射する素材)で覆う。そして、その物体に向かって背景と同じ映像を投影すれば、反射した映像により物体が透けているように見える、というのが基本原理だ。そのための装置として、目の前にハーフミラーを仕込んだプロジェクターや、物体の背後の映像を撮影するカメラなどを利用する。この投影する映像は、背後に置いたカメラからのリアルタイム動画でもいいし、事前に物体をどかした状態で撮影した静止画を使ってもいい(背景に動きがなければ)。

    光学迷彩の原理。ハーフミラーにより、投影する映像と人間の視線の向きをあわせる。と言うのは簡単だが、投影する映像と背景を一致させるのはかなり調整が大変

    使用機材はこれ。穴の奧にはハーフミラーが仕込んであり、その横にはプロジェクターが置いてある。この穴から覗き込むと透けているように見える

    動画
    覗き込んだときの映像。背景のディスプレイの手前に人間が立っているのが分かるだろうか。画面中央のマスコットは回転しているが、ちゃんと反映されている

    その他に、サイコロ状の物体を使ったデモも

    別の場所で回転するマスコットを撮影

    動画
    このようにすると、サイコロが透けて見えるだけでなく、その内部にマスコットがあるように見せることができる。これは、事前に撮影しておいた背景画像に、マスコットの動画を合成することで実現

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