【レポート】

手書き文字認識のスペシャリスト、スウェーデンのデクマを訪ねる

    山谷剛史  [2004/12/16]

    IT大国スウェーデンの小さいがパワフルな国際企業

    デクマ(Decuma)は、名前を聞いたことがない読者もいるかもしれない。しかしデクマは、PDAユーザーなら多くのユーザーがお世話になる会社である。デクマはスウェーデン南西部、デンマークに近いルンド(Lund)に本社を置く手書き文字認識のスペシャリスト。デクマの得意先のメーカーはソニー、HP、カシオ計算機、シチズン時計、京セラ、NTTドコモと、日本企業か日本に縁のある会社ばかり。全社員は20名弱(内日本人2名)と少なく、少数精鋭だ。そんなデクマについて、同社スウェーデン本社にてUserExperienceManagerのMagnus Nordenhake氏と、AccountManagerの亀岡広海氏に話を伺った。

    Decumaが入居するビル

    今回話をうかがったUserExperienceManagerのMagnus Nordenhake氏

    現在デクマが日本向けに販売しているのはDecuma Japanese 2.0で、ソニーの現行のクリエに搭載されているほか、HPのiPAQやjornadaにも搭載されている。他にデクマはDecuma OnSpot(アルファベット)版と、Decuma Chinese(中国語繁体字、簡体字版)を開発し、これらの製品が搭載されたPDA端末は、現在までに全世界トータルで50万台以上販売された。

    ところでデクマの手書き認識ソフトは、日本のPDAによく搭載されているが、ソニーのVAIO Type Uの手書き認識ソフトは、似ているがデクマの製品なのか?「よく勘違いされますが(笑)。違うんです」。また全てのCLIEに搭載されているならば、海外でのCLIE撤退は痛いニュースでは? という質問に対して氏は「現在はそれに加えて携帯電話向け開発にもシフトを移し、2つの製品カテゴリに向けた製品開発を行っています」。

    デクマは、創業者3名が画像処理や圧縮を研究していたとき、エリクソンの携帯電話部門(現ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ)から、彼らが研究したアルゴリズムを文字認識に応用できないかという依頼があり、要望と研究が合致したことから会社を興した。5年前に開発を始めた頃はPDAが伸びると言われていたが、結果的にPDAがそれほど普及しなかったため方針転換、現在はスマートフォン(Simbian OSなど)向けにも製品を提供している。

    その他のOSでは、LinuxやITRON向けにも製品を提供している。Linuxの話が出たのでLinuxザウルス向けに製品の提供はあるのか聞いたところ、「残念ながらデクマからザウルス向けの日本語ソフトを提供する予定はありません」とのこと。デクマ製品はマルチプラットフォームで提供しているが、それはコアになるハンドライティングエンジンがモジュール化されているため、ターゲットになるプラットフォーム向けのGUIを加えるだけで、そのプラットフォーム向けに提供できるわけだ。ちなみに日本語版のモジュールの大きさは250-300KBと十分な小ささだ。

    Decumaが搭載された製品の例。左からソニー「クリエ PEG-UX50、HP「hp jornada 568」、同「hp jornada 728」

    Decuma Japanese 2.0と今後のリリースについて

    デクマ製品を触ったことのない人のために簡単に紹介すると、デクマ日本語版は手書きパッド内の4つの正方形のそれぞれの枠内に、左から順に1文字ずつ文字を入れていくというもの。日本語の全ての文字種に対応し、異なる書き順や続け字、崩し字、略字にも対応する。英語版と中国語版は別物で、インタフェースも若干異なる。入力枠を例にとると、英語版は日本語版のような正方形の枠がなく、中国語版は正方形の枠を3枠に切り替えることもできる

    変わった機能としては、自分で好きなマークをマイシンボルとして登録し、そのマークを書くと登録した対応する文字列が入力される、というもの。例えば丸で囲んだ"m"の字をMYCOM PC WEBという文字列に対応させると、それ以降、丸で囲んだ"m"の字を書くだけで、MYCOM PC WEBという文字列が入力できる。また文字種により字と背景の色を変えてあるので、一目で正しい候補を候補リストから選ぶことができる。例えば、"一"(漢字の1)と"ー"(全角長音)、"‐"(半角ハイフン)の違いが一目で分かる。

    ところで日本語版を作ったときの苦労を聞いてみた。

    「実は日本語版の前に中国語版を作っています。中国人は日本人より字を激しく書き(※注)、かつ枠の大きさにとらわれずはみ出すほどの勢いで書く人が多く、それで認識しないと、店頭で購入を断念してしまう方が多いのです。日本人は枠の中に丁寧にブロック体で書いてくれる人が多いので、開発者としては逆にホッとしました(笑)。認識段階でなく、むしろ書いてからの文字変換について苦労しましたね。中国語版には、それ専用の手書きデータベースがあり、また日本語版も同様で、従って同じ漢字でも中国語版と日本語版には互換性はありません。言い換えれば中国語版は中国人の書き方に最適化されたものなので、日本人が中国語版を使うと認識率は落ちるでしょう」
    (※注:中国人は文字(漢字)を英語の筆記体のように書き流すのが美学という考え方がある)

    最後に今後の製品のリリース予定を聞いてみた。

    「Simbian向けのOnSpot(アルファベット版)は、消費者向けにダイレクト販売をまもなく開始する予定です。日本では来年上半期に、日本の携帯電話でデクマの製品を使っていただけると思います。Windows版も日本を含めたメーカー各社でテストしていてもらっている状況です。どういう状態で出るかはわかりませんが、例えば病院の電子カルテの用途などで業務用のPDAを使っていたお客様が、その延長線上でPC端末とデクマ製品を使うような感じになるでしょう。従って一般的な人が店頭で手に入れられるというわけではありません。またエンジンの日本語データベースの部分ですが、既にかなりの認識率がありますけれども、さらに精度の上がった次バージョンの製品が出るかもしれません」

    なお15日(現地時間)、カナダZi CorporationがDecumaを買収する発表を行っている。Ziはテキスト予測・推測入力技術を持ち、手書き入力技術のDecumaの資産を得ることで入力技術の拡張を狙う。買収完了後は、スウェーデンにZiの100%子会社Zi Decumaを設立、従来と同様の製品開発・販売体制が敷くことになっており、ユーザーにとって大きな変更はない模様だ。Decumaでは、従来の手書き入力以外の入力ソフトを統合した形で新たな製品を提案できる、としている。

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