【レポート】
2つ目のテーマは、「日本が宇宙開発において貢献できることは何か」で、今度は樋口氏が国の戦略についてプレゼンを行った。現在建設が進められている国際宇宙ステーション(ISS)にも言及し、「アメリカは月や火星に行くための技術・研究をメインでやりたいと言っている」「日本は10年間ISSを使って様々な研究をするところまでは国として決めているが、その先についてはまだ議論中」と述べ、日米の長期的な戦略の差を指摘した。それを受け、土井氏も「ISSの後の日本の宇宙開発はどうあるべきか考えて、いろいろな意見を出して欲しい」と呼びかけた。
だが、最初に参加者から質問されたのは、「ここ数年、打ち上げ失敗が続いていることの共通の理由、講じている対策について」という、いきなり今日現在の話題。設定されたテーマとはかなり離れた内容ではあるが、これについて、宇宙開発事業団(当時)にてエンジニアとしてH-Iロケットの設計・開発などにも従事していた樋口氏が答えた。
打ち上げの失敗は、H-IIロケットでの2機連続(5号機・8号機)や、その改良型のH-IIAロケット6号機での指令破壊などが衝撃的だったが、H-IIシリーズになって急増した感がある。その背景としては、H-IIロケットから完全に純国産技術に切り替わったという事情がある。それ以前はアメリカからの技術導入が行われていたわけだが、事故の要因として氏は「基礎的はところを少し省略して、最先端を早くやりすぎたかもしれない」と述べる。
例えば、設計の根拠となる材料データなどはアメリカの文献のままやっていたが、これは条件が異なった場合、そのまま適用できない。また、1つの人工衛星に7つも8つも観測機器を搭載するなど、システムは複雑・大型化していた。氏は「能力より少し上のギリギリのことをやり始めて壁に直面しているのかな」と感じているとのことで、今後は基礎的なデータをもっとしっかり固めることから始め、目標とする衛星・ロケットの性能を少し落としてでも身丈にあったものをやろうという方向で考えているとした。
また的川氏は信頼性の向上について、日本では1種類のロケットの打ち上げ回数が少ないという問題を指摘。2003年12月現在で、打ち上げの成功率は、日本のN・Hシリーズは89%、欧州のアリアンは93%、米国のアトラスは91%、デルタは94%と、世界に比べてもそれほど劣っている数字ではない(JAXA調べ)。ただ打ち上げ機数は、N・Hシリーズが37機に留まるのに対し、アリアン161機、アトラス147機、デルタ301機と、大きく開きがある。同じロケットを続けることで信頼性は向上させやすいわけで、「違うロケットを(短いターンで)開発していくことは、あまり技術的には成功ではなかったかもしれない」(同氏)との評価も聞かれた。
さて本題に戻るが、日本が貢献できる分野として、得意とするロボット技術はどうか、との会場からの発言があった。土井氏もこれに同意し、宇宙ステーションなどの建設に使える溶接用ロボットや、ステーションの周りを自動的に回って問題がないか監視してくれるロボット、月や火星に人間より先に送られて安全かどうか確認してくれるロボット、などがあれば便利とした。ただペット型ロボットについては、「率直に言うとあまり好きではない」そうだ。
終えてみての感想は、まだ日本にはタウンミーティングという形式は馴染んでいないのかな、ということ。参加者同士の意見交換はほとんどなかったようで、またテーマから大きく外れた意見・質問も多く見られた。JAXAに限らず、最近は各省庁なども積極的にタウンミーティングに取り組んでいる。自分の意見を直接伝えることができる、せっかくの場だ。ネットで検索すれば分かるようなことを聞くのではなく、もっと有効に議論できるよう活用したいところだ。
それともう1つは、事前に予想していたことではあるが、打ち上げ失敗に関連して批判的な意見も多かったこと。中でも、宇宙開発はこれ以上必要ない、との極端な意見まで出たのには驚いた。様々な理由からの意見ではあるだろうが、筆者としては少し違和感があった。当然、プロジェクトの失敗は無いにこしたことはないが、宇宙開発はまだ「チャレンジ」の段階だ。ミスを完全に抑えるレベルにはどの国も達していない。原因の究明・再発の防止は徹底的にすべきだが、そういう話とは少し異なる、失敗を許さない日本社会の縮図を見る思いがした。
個人的には、「どう役に立つか」という話とともに、JAXAにはもっと夢やロマンも語って欲しいと思う。もちろん、それが社会にどういう影響をもたらすのかを定量的に計ることは難しいだろうし、この環境下でJAXAから言いにくいことではあるだろうが、夢やロマンは健全な社会には必要なものではないか。ちなみに、土井氏は行ってみたい場所として「銀河系の中心にある巨大なブラックホール」「新しい太陽が生まれている場所」「何万個もの星が集まっている球状星団」の3つを自身の夢として紹介していたし、もっとささやかながら、筆者も火星くらいは行ってみたいと思っている。
打ち上げ失敗についての意見が多かった反面、今後の重要課題となってくるはずの有人宇宙飛行については、参加者からはほとんど問題は提起されなかった。まだ具体的な計画がないためかもしれないが、だからこそ、今から議論する意味があるはずだ。有人宇宙飛行では、「人命」という、最も重い責任が課せられる。大事故が起こる事態も想定しなければならない。人命が失われる危険性、人間を宇宙に送り出す意義などについて、これから国民的な議論・合意の形成が必要になってくるだろう。
いずれにしても、JAXAは主力機のH-IIAロケットについて、今年度冬期の打上げ再開を目指しており、その成功・失敗が、これまでに無いほどの重みを持つことだけは間違いなさそうだ。筆者は、2001年夏の試験機1号機の打ち上げも現地で見たのだが、その迫力には圧倒され、日本の技術力に感動した。あの雰囲気はテレビ中継では絶対に伝わらない。多くの人に、ぜひ一度は種子島まで見に行って欲しいと思う。
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