【レポート】
総務省主催シンポジウム「ネット、キッズ、ポップ」が17日に開催された。従来の総務政策では日の当たってこなかった子どもの創造性とポップカルチャーという「やわらかい」テーマといい、シンポジウム参加者の顔ぶれといい、総務省地下講堂という場所柄からは異例なイベントという印象を与えていた。山本公一総務副大臣の冒頭挨拶が触れたように、2005年を達成の目処とするIT政策をふまえ、「ITからコンテンツ、ポップカルチャーへ」という政策の転換と継続を印象づける目的もあるのだろう。5時間におよぶ長丁場にもかかわらず、霞ヶ関近辺からの出席者を中心に会場はほぼ満員となった。
第一部の「こどもの創造力と表現力」では、共催のNPO法人CANVASのITを活用した子どもの創造性開発にかかわるイベントを紹介しながら、子どもの表現力や情報化社会の課題が討議された。パネラーは一部・二部を通じ座長を務めたスタンフォード日本センター所長の中村伊知哉氏を筆頭に、CANVAS理事兼事務局長の石戸奈々子氏、ビジュアルプロデューサの松浦季理氏、東京大学大学院情報学環助教授の山内祐平氏、フューチャーインスティテュート代表取締役社長の鶴谷武親氏、ゲームクリエイターの飯野賢治氏、日本電気CSR推進本部社会貢献室長の鈴木均氏、ベネッセコーポレーション教育開発本部主任研究員の渡辺康生氏、墨田区立堅川中学校主幹教諭の三橋秋彦氏、世田谷区助役の山田真貴子氏と多彩な分野の人たち。
CANVASの石戸氏が、同団体が東京大学でのサマーキャンプで行ったイベントで、小学生がパソコンを使ったクレイ(粘土)アニメ制作を楽しむ映像などを紹介。これを受け、デジタルと子どもの創造性啓発を結ぶ活動を通じ、現在の日本のこどもの周辺で何が起こり、そこにある課題解決のために政府、学校、企業、地域などが何を担っていくべきか、各パネラーからの意見があいついだ。
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スタンフォード日本センター・中村伊知哉氏 |
CANVAS・石戸奈々子氏 |
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松浦季理氏 |
三橋氏による、自ら学ぶ姿勢を育てる上での教育技術としての実践やIT導入の有効論を受ける形で、「子どもの頃誰もが持っているモノを作る楽しさが、どうして大人になると無くなるのか」と飯野氏。ITが実社会や従来の教育にはないトライアンドエラーを体験する道具となることでは、全員が同意する。しかし、かたや佐世保の女児殺害事件など情報化の影の部分は、ITの拡大で避けられないものとなっている。これらに対する予防的な規制策ということでは、教育や行政とクリエイターの間で意見の差もある。松浦氏は、大人にとっても未知かもしないそれらに対し「傷が浅いところで洗い出し対応することを繰り返して行くべき」と発言、他のパネラーのから同感を得ていた。
第2部は「ポップカルチャー政策」がテーマ。ポップカルチャーなる言葉が政府のイベントで出てくることに異様な印象もあるが、ITや知的財産に関わる戦略を牽引するコンテンツという前提の中、ゲーム、アニメ、マンガなど、世界で評価の高い日本のポップカルチャー分野に注力すべきという政策が、総務省情報ソフト懇談会の報告書でも提案されている。規制や批判の対象にこそなれ、なんの政策的支援の対象にもなってこなかったポップカルチャーに、政府の関心が注がれつつあることを印象づける意味もあるだろう。
これを受けパネラーも硬軟多様な分野から参加した。ヒューマンメディア代表の小野打恵氏、総務大臣官房審議官の松井英生氏、女子高生マーケティングで著名なブームプランニング代表取締役の中村泰子氏、ロックバンド・少年ナイフのリーダー・山野直子氏、「ポストペット」作者の八谷和彦氏、吉本興業デジタルコンテンツ企画部長の中井秀範氏、テレビマンユニオン代表取締役会長の重延浩氏、小学館で「ポケットモンスター」などを担当するキャラクター事業センター長の久保雅一氏、アートプロデューサーの山口裕美氏、「アニマトリックス」などをプロデュースするコミックス・ウェーブ代表取締役社長の竹内宏彰氏。
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小学館・久保雅一氏 |
少年ナイフ・山野直子氏 |
小野打氏は雑誌「少年ジャンプ」米国版など海外での日本のポップカルチャーの評価・成功例を紹介。すでに現地の若者文化に浸透していることも見受けられた。続けて各パネラーからも自らの活動が紹介され、日本のポップカルチャーが国際的な産業としても文化的な影響としても無視できないものとなっていること、背景に世界的なITの普及があることが確認された。
議論が示したのは、ありがちな日本文化特殊論や伝統・芸術偏重のサブカルチャー差別に対して、ポップカルチャーがすでに普遍的な文化として世界で評価を得ていること、それを醸成したのが日本の社会であることだろう。それは山口氏が語ったように「日本の素晴らしい民衆・消費者を政府は信じるべきだ」という論に集約される。また、この分野に対する政府による直接的な支援を不要とし、人材育成や文化的評価の改善など間接的な支援を求める点でも、パネラーの意見は一致していたように思う。
このシンポジウムが示しているのは、日本の政策の、公共事業型硬派路線から、規制緩和型軟派路線への大きな転換かもしれない。八谷氏が海洋堂製作のフィギュアを、中村氏が女子高生のプリクラ帳を、官庁の地下講堂の大画面に表示しながら紹介している光景は、愉快でもあり、やっと政府が現実を見始めたという印象も強く与えたのだった。
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