【インタビュー】

PCの技術で、オーディオのあのトキメキをもう一度

1 若いころ、EQといえばドンシャリだった

日高彰  [2004/10/28]

「音」に対するこだわりをアピールするPCが増えている。NECは音の出るディスプレイ「SoundVu」が付属するモデルを拡大しているし、富士通はノートPCにもサブウーファーを搭載、東芝は「QOSMIO」などでharman/kardonスピーカーを採用、ビクターは独自の高音質技術「CCコンバーター」をミニノートでも装備、といった具合だ。サウンド関連の周辺機器でも、クリエイティブメディアがプロ/ハイアマチュア向けの新シリーズ「Creative Professional」を立ち上げ、オンキヨーは「WAVIO(ウェイビオ)」ブランドでよりハイスペックな新製品を投入、その他メーカーでも価格が1万円を超えるサウンドカードなど、中級以上の製品が以前に比べて注目されるようになってきているという。DVDやTV機能の搭載や、iPodなどポータブル音楽プレイヤーの人気に伴って、CPUやグラフィックの性能だけでなく、音のクオリティにも関心が高まっているのだろう。

しかし、注目されつつあるとはいえ、PCのセールスポイントとしては、テレビ視聴機能などに比べてサウンド機能はやや地味に思われるかもしれない。

サウンドへの取り組みといえば、当初からAV機能を製品の核としてきたソニーのVAIOを忘れるわけにはいかない。特に、昨年5月以降の主なモデルでは「SonicStage Mastering Studio」(以下SSMS)をバンドルし、CDのフォーマットである量子化ビット数16bit/サンプリング周波数44.1kHzを超える、24bit/96kHzフォーマットでのサウンド編集を可能にした。さらに最近のモデルでは、SSMSのオーディオフィルタ機能を拡張し、プロがスタジオで利用するものと全く同じ品質のエフェクトを、音楽再生時などにも利用できるようになった。一見、大部分のユーザーにはオーバースペックにも思えるこれらの機能だが、登場から1年半ほどが経った今でも熟成を重ね、最新機種でも搭載を続けている。

SonicStage Mastering Studio

決して目立つ機能ではないが、そうして音にこだわり続ける熱意はどこから生まれるのか、ソニーでSSMSの商品企画を担当するITカンパニー企画部の宮崎琢磨氏を訪ねた。また、SSMSの推奨オーディオインタフェース「UA-5」「UA-25」を提供するローランドから、DTMP営業部の蓑輪雅弘氏にもご登場願い、両氏に音に対する思いを存分に語っていただいた。

オーディオはテクノロジーの進歩が逆方向に向かっている

--ソフトウェアの技術で音を良くしようというのはそもそもどのような発想だったのでしょうか。

ソニー ITカンパニー企画部 宮崎琢磨氏

宮崎) 私はいま30過ぎで、最後のオーディオ世代にあたると思うんですけど、あのころってオーディオによくわからない熱気があったじゃないですか。それこそアンプやスピーカーが何グラム重くなったとかでいちいちみんな一喜一憂するような、すごいトキメキがあった。機械なんだから便利に使っていただいてナンボではあるんですけど、ただそれだけじゃなくて、トキメキゲージを上げたいじゃないですか。昔のオーディオのカタログを見ると、本になるくらいぶ厚くて、やたらと数字とかグラフとか出ていたのを思い出して「これだ! これをPCでやろう!」と(笑)。昔は、ウォークマンとか一般向けのカタログにも、S/N比とかがちゃんと書いてありましたしね。「俺はメタルテープしか使わない」って奴がまわりにいたりとか。あの熱量はどこへいってしまったんだという。

蓑輪) 男性だったら高校生くらいのとき、バイクや車に興味が向くか、そうでなければ、ええと、当時はオタクという言葉はありませんでしたが……

宮崎) ここは美しく「テクノロジー系」としておきましょう(笑)。

蓑輪) ええ、「テクノロジー系」(笑)。バイクや車でなければ、コンピューターとかオーディオとか、テクノロジー系のものに興味を持っていた方が多かったと思うんです。いわゆる理科系のマニアでなくても、それこそ体育会系の人たちとかでもそれぞれ音にはこだわりがあって、ラジカセやミニコンポでなく単品のアンプやプレイヤーにあこがれていた、というのは、以前はわりと普通だったと思うんですね。「カセットデッキはやっぱり3ヘッドじゃなきゃ」くらいは言ってて。

--そういえば、1990年くらいまでは「ドデカホーン」のような普通のラジカセにも、5バンドくらいのグラフィックイコライザーが付いていましたね。

宮崎) 音に対して能動的だったんでしょうね。それがいつの間にかすごく受け身になってしまった。みんなご飯食べるお店だって服のブランドだってすごく選ぶのに、音だけは受動的というのはおかしいと思うんですけどね。

ローランド DTMP営業部 蓑輪雅弘氏

蓑輪) 昔は、若い人はEQ(イコライザー)の端っこのほうの高音と低音をガンガンに上げて……

宮崎) (手の動きで両端が上がった吊り橋型のカーブを描きながら)こういう形ですね(笑)。

蓑輪) そう、高校生たるもの、そういう形のドンシャリサウンドを楽しんだものですが(笑)、いまはMP3だからEQの高音を上げようが、ちゃんと音が上がってこない。圧縮した段階で消えてしまっているわけですから。もちろん通勤通学の電車内はMP3でいいと思うんですが、ちゃんとしたヘッドフォンを着けられるとき、家に帰ってスピーカーがあるときまで、その音で満足しなくてもいいのではないかと思うんです。

宮崎) 人類の歴史の中で、テクノロジーの進歩が逆方向に向かっているのって、オーディオだけなんですよ。確かにMP3でたくさんの曲を持ち歩けるようになったのは進歩かもしれませんけど、映像はどんどんきれいになっているし、ロケットは遠くまで飛べるようになっているのに(笑)、なぜオーディオだけ悪くなってしまっているのかと。

蓑輪) 我々も楽器メーカーとしてシンセサイザー等を作ってきた中で、常に音を良くする方向で進化させてきたわけです。例えばだんだんメモリ容量が豊富になってきて、サンプラーやPCMシンセでも波形のサンプリング周波数はどんどん高くなってきたように。なのに、再生環境が逆にプアになってきているというのは本当に歯がゆいんです。オールインワンシンセなどを使って、音を出す手前のところまでフルデジタルで作れる時代なのに、人に聴かせるときはMP3になってしまうのは、あまりにもったいない。

宮崎) で、我々でできることはないかと考えたときに、それまでのオーディオ屋さんだけではできない、PCという分野で何かやってやろうと。民生機の録音機器はDATの16bit/48kHzで止まっているので、だったらこの次の段階を数値で示していくのが求められているんじゃないかと思いまして。よく考えてみれば、民生機の中で一番プロセッサパワーがあってストレージがデカいのはPCなんですね。PCがあれば、新しい規格とかレコーダーとか抜きで、(ハイエンドの録音環境が)今すぐできるじゃん、というところから始まったんですよ。

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