【インタビュー】
Web Accessibility Toolbarは、Windows版のInternet Explorerのツールバーとして組み込まれる、ウェブアクセシビリティ支援ツールである。各種のHTML/CSS文法チェッカーでのソースコード診断、画像のalt属性(代替テキスト)への変換、グレースケール表示、テーブルのセル順序の表示とリニアライズ、各種視覚障害の見え方のシミュレーション、機種依存文字、半角カナの使用個所チェックといった制作者向けの機能のほか、画像を含めた画面拡大のような閲覧者のための機能もある、多彩なソフトである。
また、アクセシビリティやユーザビリティのガイドラインやリソースへのリンク集なども搭載されており、それが、1本のツールバーにコンパクトに収められ、無償で配布されている。このWeb Accessibility Toolbarの開発者のJunさんに、開発の動機や経緯などを聞いた。
Junさんとアクセシビリティのかかわりは、W3CのHTML関連の資料などを閲覧していて、たまたまウェブコンテンツ・アクセシビリティ・ガイドラインを目にしたところから始まる。
「知り合いに障害を持った人はいません。でも、アクセシビリティがよければ、障害者が助かるだけでなく、いろいろなブラウザでも閲覧できるし」
もともと、W3Cの勧告の仕様書に従った正しいHTMLなどの記述方法やチェックツールを紹介するWrong HTMLというサイトを運営していたJunさんは、W3Cの勧告としての面からアクセシビリティに興味を持った。そして、アクセシブルなサイト制作のために役立つソフトを作ることができないかと考え始めた。
「ツールバーみたいなものがあったらいいとな思ったんですが、オーストラリアのNILS(National Information and Library Service)のアクセシビリティ関連のチームAIS(Accessible Information Solutions)が、私が考えていたようなアクセシビリティ支援のツールバーを作っているのを知ったんです。そこで、最初はそのツールバーを日本語化したいと問い合わせたら、ツールバー開発のためのソフトウェアを使っているので、ローカライズするにも料金がかかると言われました。開発ソフト使わなくても私なら作れるし、もっときめ細かな作り込みもできるよってことで、結局私が一から作り直すことになったんです」
JunさんはAISから障害者に関する情報や資料をもらって、Web Accessibility Toolbarの開発に乗り出した。一次情報が英語であることやベータ版のテスターなどを集めやすいことから、まず今春に英語版のWeb Accessibility Toolbarを仕上げ、日本語版は8月にリリースした。またフランス語版、イタリア語版、スペンン語版、韓国語版へのローカライズも行われた。
「開発中は、一日5、6時間はWeb Accessibility Toolbarに取り組んでいました。仕事以外の時間を全部かけていましたね。そこまでよくやるねと知人から言われました」
Junさんは、運営しているサイトやWeb Accessibility Toolbarの内容からウェブサイト制作者かプログラマー、あるいは福祉関係者だと思われがちだが、それらとは無縁のサービス業に従事している。プログラミングはまったくの趣味だという。
「仕事にしないのかって、よく言われるんですけど、仕事にするつもりはありません。趣味だからこそ楽しいので、仕事にしてしまったらしんどくなると思う」
商品としても立派に通用するようなツールだが、それをJunさんは趣味、無償のボランティアとして開発した。Web Accessibility Toolbarのドキュメントの翻訳には複数の支援者が協力しているが、全員が余暇を使っての作業である。
そうして、皆の努力の結実として完成したツールバーだが、開発者として寂しいことがある。
「英語版で16,000、日本語版で4,000ダウンロードぐらいあるんですが、ユーザーからの反応が非常に少ないんです。たまにバグ報告はありますが、それだけ。使っている人から、こんな機能が欲しいとか、ここが使いにくいとか、そういった声があれば、より良いものができるし、障害を持っている人からの声もほしい」
製品開発段階では、音声読み上げソフトを利用しているフランスの視覚障害者などからのアドバイスをもらって開発したものだが、Junさん個人は障害者と接点がまったくないし、果たして、自分が作ったものを使って本当にアクセシブルなサイトを制作するのに役立つものなのか、その手ごたえがないという。
「日本人の国民性なんでしょうか。みんな黙っているけれど、もっとどんどん声を上げてほしいすね。開発者としてはそれが一番の励みになります」
これはアクセシビリティの向上をはかっているサイト運営者の悩みでもある。ユーザーからの生の声、それをみなが待ち望んでいるのだ。
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