【レポート】
産業技術総合研究所 知能システム研究部門は13日、同部門の成果展示会(オープンハウス2004)を開催した。企業や大学関係者を対象として毎年実施されているもので、製品化や共同研究などの連携を図ることを目的としている。完成度の高い合計25件の研究テーマが展示されていたが、本レポートでは主にロボット関連について紹介していきたい。
まずは、ヒューマノイド研究グループの「手足の協調により移動・作業するヒューマノイドロボット」から紹介したい。ハードウェアは従来の「HRP-2」(川田工業)を使用しており、ソフトウェアに新しい理論を導入することで、移動時や作業時の補助として、手を積極的に活用することが可能になっている。
デモでは、4月の発表時と同じく、(1)大きな段差(28cm)を手すりにつかまって上る動作、(2)体重の半分くらいの重さの物体を押す動作、(3)四つん這いになって狭い場所を通る動作、(4)机に片手をついて奥にあるレバーを操作する動作--などの様子が紹介された。これらは、人間であればほとんど無意識に行っている動作ではあるが、ヒューマノイドではこれまで体のバランスをとるのが難しかった。
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通常、二足歩行の制御では「ZMP」(Zero Moment Point)と呼ばれる指標が用いられているが、同グループではこれを拡張した「一般化ZMP」を考案、両足以外の支持点がある場合にも適用できるようにした。この研究では、普通の人間が行けるところならどこでも行けるようなヒューマノイドの実現を目指しており、今後、転倒しても壊れないような仕組みやドアの開閉動作なども実装していく予定だ。
これまで、日本は官民あげてヒューマノイドの研究に大規模な投資をしており、その技術は世界でもトップクラス。しかし、人間と同じような作業ができるようになるのはまだまだ先のことで、今後も継続した投資が必要になる。ただ、そろそろ産業化が見えてこないと、投資の継続も厳しい、というのも現実。同グループではそういった危機感を持っており、5年程度のスパンで何らかの応用を実現することが必要と判断、当面は2007年に危険箇所などでの重機の遠隔操作を目標としている。ちなみに、こういった人間用に作られた機材をそのまま使用できることが、ヒューマノイドの利点ということができる。
また今年度中くらいには、エンターテインメント向けのロボットも出てくる予定ということだ。どのようなものになるのかは教えてもらえなかったが、かなり楽しみな話ではある。
同じくHRP-2を使ったデモを行っていたのが、自律行動制御研究グループの「ヒューマノイドロボットの自律・遠隔融合操作」。来年3月に開幕する「愛・地球博」(愛知万博)の会場にてデモ運用されるヒューマノイドを開発しているということで、デモではロボットの自律制御とオペレータの遠隔制御が融合した動作が紹介されていた。
将来的には、ヒューマノイドには状況に応じて適切な判断が下せるような、完全な自律制御が実現されていくものと期待されている。同グループでもそれを最終的には目指しているものの、現時点で実現可能なこととして、遠隔操作をベースとし、自律制御を融合させた操作システムの開発を行った。
今回、デモではHRP-2が空き缶を探し、そこに移動し、それをつかんで、ゴミ箱に捨てるという一連の動作を行っていた。自律制御と遠隔操作が融合しているのでどの動作がどちら、という明確な区別はできないが、イメージとしては、意識して行う行動が遠隔操作、無意識なのが自律制御、と考えると分かりやすい。例えば歩くとき、人間はいちいち膝や足首の角度を考えたり、倒れないように体のバランスを気にしたりしない。考えるのはどっちの方向に進むかとか、どのくらいのスピードで行くか、といった部分だ。
今回のデモでも同様に、モニター画面を見ているオペレータが空き缶の場所を判断し、ジョイスティックでそちらに進む指示を出すが、足の動作などは自動的に制御される。また空き缶の前では、「つかむ」という動作の指示はオペレータが出すが、空き缶の場所はロボットが画像認識で判断し、体のバランスを保ちながら手を伸ばしてつかむ、ということもロボット側が行っている。
大がかりなデモ用のセットを準備していたのが、松下電工とタスク・インテリジェンス研究グループによる「RTミドルウェアによるRTハウス」。セットは、リビング・キッチン・玄関などで構成されており、部屋の中に松下電工の病院向けロボット「HOSPI」が置いてある以外は、普通の家庭のように見える。一見するとネット家電の話なのかと思いきや、部屋内にあるテレビ・照明・冷蔵庫などの各装置には、センサーやアクチュエータなど、ロボットにも使用される技術「RT」(Robot Technology)が使われているという。
ロボットというとヒューマノイドや自律移動ロボットなどのような、外見からロボットと分かるようなものを想像するが、ここでいうRTとは、センサ・アクチュエータなどの要素レベルを含んだ広義の意味を持っている。この研究では、それらの要素をモジュール化し、インタフェースを標準化することで、ロボットシステムの開発の効率化を図ろう、というもの。そのためのソフトウェア基盤がRTミドルウェアで、モジュール化したものがRTコンポーネントと呼ばれている。
実際には、このRTコンポーネントが複数使用され、全体としてのシステムが構成される。その応用の一例として示されているのが、今回デモされているような生活空間で、テレビや照明、冷蔵庫、ドアなどにRTコンポーネントが組み込まれている。もちろん、HOSPIもシステムの一部として動作し、移動したり喋ったりする。RTミドルウェアの基本機能は産総研が担当しているが、こういった具体的なアプリケーション構築で必要となる技術の研究は、松下電工が担当しているとのことだ。
デモは、来客がインターホンを押したところから始まった。主人はテレビに映したカメラの画像から、友人であることを確認。PDAでHOSPIに迎えに行くよう指示を出し、電気錠がオープン。テレビの画像はロボットのカメラからのものになり、HOSPIは来客をリビングへと案内してきた。リビングに通された友人は喉が渇いたと言い、主人はHOSPIを冷蔵庫へ派遣。冷蔵庫の扉が開き、テレビには庫内の様子が映し出された。そして、「ビールを取ってきて」と指示を出すが、HOSPIは「僕にはまだ手がありません」ということで、結局取れないというオチが。
モジュール化の利点は、柔軟性が高いことだ。顧客にあわせたシステムを容易に開発でき、またコンポーネントの追加やアプリケーションの変更にも簡単に対応できる。デモでは、耳が不自由な人のために、来客時にインターホンの音の代わりに照明を点滅させることで知らせる、という変更が加えられたが、スクリプトを10行程度変更するだけで作業は終わった。
今後は規格をオープンにして、他社の機器間でも接続できるようにしていく予定だ。実際の製品は、2007年頃の登場が見込まれている。
今回、多くの来場者の注目を集めていたのが、安全知能研究グループとフィールドシステム研究グループの「乗車型移動プラットフォーム」だ。次世代の乗り物として話題になった米Segway LLCの「Segway HT」は記憶に新しいが、これはその「産総研版」ともいえるようなもの。ハンドル部分が全くなく、"土台"だけで走るという違いはあるものの、走行している感覚はかなり近そうだ。
この「PMP(Personal riding-type wheeled Mobile Platform)-2」の重さはおよそ12kgで、Segway HTに比べてかなり軽量であることと、ハンドル部がないのでコンパクトなことが特徴だ。スペック上の最高速度は時速7km程度で、20km程度まで出せるSegway HTよりは遅くなっているが、このあたりはギヤ比にもよるので、現時点で比較することにはあまり意味はないだろう。
前バージョンのPMP-1では重さが37~8kgもあったが、バッテリの変更と、筐体の材質をカーボンファイバにしたことで、大幅に軽量化。さらに、ほとんど直方体だったボディの形状も、PMP-2では前傾姿勢のためのクリアランスを確保するなど、より実用化を意識した仕上がりとなっている。電源はリチウムイオンバッテリを2つ搭載しており、連続1時間半、10km程度の距離の運転ができるということだ。
Segway HTも見た目は不安な乗り物だが、PMP-2はさらにハンドルもないなど、「実際の乗り心地はどうなの?」と気になるところだが、担当者によれば、「旋回は多少の慣れが必要だが、前後方向への移動はそれほど難しくない」ということだ。実際、デモ機は2日前に出来上がったばかりということだったが、特に問題なくスムーズに移動できていた。
操作はSegway HTと同じように、重心の移動で行う。本体上面には力センサーが埋め込まれており、搭乗者の左右の重心移動を検知。また、傾きを検知する加速度センサと、角速度を検出するレートジャイロも搭載しており、そのデータをもとに前後方向の安定化制御を行っている。こういった倒立振子のバランスは、本体が前方に傾いたら前に進み、後方に傾いたら後ろに進むことで保たれているわけだが、制御によるバタバタ感は一切なく、ほとんど静止しているように見えた。
用途としては、やはり将来的には公道での走行も視野に入れているが、ご存じのように、現状は法的な問題がある。Segway HTのときも話題になったが、米国とは異なり、日本では法改正の動きは見られない。このPMP-2は、小型・軽量で持ち運びも容易なため、電車に持ち込んで移動し、駅からのちょっとした距離の移動などに使える。そういった意味で、より日本向きな製品といえるのだが、安全性などを考慮した上で、各方面で検討されていくことが望ましいのではないだろうか。
現在は、製品化に向けた提携先などを探している段階で、今後は性能の検証や安全性の強化なども行うため、実用化にはまだ1年以上はかかりそうだ。前述のように公道の走行ができないため、当面はアトラクションなど、限定した場所での使用を目指している。価格は、10万円以下が目標とされている。
これまでご紹介してきたものとはガラリと変わり、最後は癒しロボットの「パロ」。知的インタフェース研究グループとマイクロジェニックスが開発したアザラシ型のロボットで、今回の8世代目でいよいよ商品化され、リース販売が開始された。販売会社として、9月17日にはベンチャー企業の知能システムが設立されており、高齢者施設向けに販売活動を行っている。
すでに昨年8月より、介護老人保健施設にて実証実験を行っており、その心理的効果・生理的効果・社会的効果が確認できているという。パロは、全身の12カ所とヒゲに触覚センサがあるほか、鼻には光センサ、頭部には3つの音声センサなどがあり、撫でたり声をかけたりすると様々な反応をする。単語は挨拶など数百語の認識が可能で、新しい名前を覚えるなどの学習機能も備えている。
モデルとしてアザラシの赤ちゃんを選んだのは、その愛らしい容姿もあるが、身近な動物だと本物との差が気になったり、好き嫌いがあったりするためだという。今後は、一般向けの販売も来年3月に予定しており、1年保証付きで価格は30万円程度になりそうとのことだ。
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