【レポート】
HD DVD(High Definition DVD)は、東芝とNECが共同提案したAODの仕様をベースとする光学ディスクの規格だ。読み取りには波長が405nmの青紫色レーザを使用し、HD DVD-ROM規格では片面シングルレイヤーで15GB、ダブルレイヤーで30GBの容量となる。
このHD DVDはその生産の容易さを特徴とし、特に立ち上げ時に有利だとされてきた。現状、この優位点を活かすことができずBlu-ray陣営に市場投入で後れをとっているが、DVD・HD DVDのコンパチラインが本格普及すれば逆転を狙うこともできる。東芝との技術協力によりコンパチラインを実現させたメモリーテックにHD DVDの今後について聞くことができた。
「レプリケーターからするとDVD(の製造工程)が完全に互換であるという事実が大きい」。HD DVDとDVDの両方に対応した生産ラインを保持するメモリーテック代表取締役社長の川崎代治氏の言葉だ。同社はCDやDVDのマスター制作からマスターディスクの作成、そして店頭に並び我々が普段目にする樹脂製のメディアの量産(レプリケート)までを行うレプリケーター。1985年に三菱商事と東京電化の合弁事業として設立、1986年にはCDの本格的商業生産・出荷を開始している。その後ポニーキャニオンやエイベックスからの資本を取り付けながら1996年にはDVDシングルレイヤー、翌97年にはダブルレイヤーの生産を開始している。
こうして設備を増強、ノウハウなどを蓄積しながら現在では月間430万枚のDVDを生産する能力を持つ。「8年間に蓄積した技術が使える。スタート時から品質、価格面で有利と考える」。川崎氏は次世代DVD規格を巡る競争の中で、レプリケーターである同社がHD DVDを支援する理由をこのように述べた。また、NEC第一ストレージ事業部統括マネージャー早津亮一氏は「コンパチビリティがポイント。DVDフォーラム唯一の次世代規格」と規格策定者側からのHD DVDの利点を語り「RW/R/ファイル/ビデオ(の規格)についても今後6カ月位に成立する予定。2005年には全規格がそろって具体的な製品の開発がスタートするだろう。来年(2005年)にはパッケージメディアがスタートする」と、HD DVDやその再生・記録機器を市場投入するロードマップを語る。
HD DVDはDVDと共通の生産設備で作成できるなどメディアの生産の容易さが利点として注目されながら、記録メディアの規格策定が遅れ、製品の市場投入において対抗規格であるBlu-ray Discに後れを取っている。Blu-ray陣営では既に松下とソニーがDVDレコーダにBlu-ray Disc採用機をラインナップするなどしている。HD DVDの記録・再生を行うドライブは未だ各社とも試作機の段階で、製品として市場投入されているものがない。
こういった状況の中で同社ではHD DVDの生産の容易さに賭け、逆転を狙う。現在同社ではHD DVDを1枚生産するのに3.5秒を要している。この時間について同社では、DVDの生産において96年の立ち上げ時に1枚6秒を要し、現在3秒まで短縮されたことを考えると順調な立ち上がりであると評価している。「現在、多くのところでDVDでも4秒で作っている」ともしており、3.5秒という数字が現行のDVDと比べて遜色ない生産能力を出すことのできる数字であるとする。さらに2005年にはDVDについては1枚あたり2.5秒、HD DVDについては1枚あたり3秒を切りたいと、より高速化が可能であると述べ、HD DVDの生産の容易さをアピールした。歩留まりに関しても、既に「DVDと比べて誤差といえる範囲」(同社)となっているという。12cm/ダブルレイヤーROMメディアを用いてのデモを報道陣の前で行うなど、既に高い品質をクリアできていることをアピールする。
生産ラインが互換であるということは従来のノウハウを活かすことができるということだ。同社では東芝との技術協力によって実現したHD DVDの製造ラインについての技術資料をウェブなどで広く公開し、HD DVDの普及につなげていきたいとしているが、これによってDVDとHD DVDの両方に対応したコンパチの生産ラインが設備メーカーから供給されれば、レプリケーターはDVD生産のために新規購入したラインでHD DVDを生産可能となる。同社によれば現在世界にDVDの生産ラインが1,200~1,300存在し、さらに1,000増えると予測しているという。この1,000ラインがコンパチラインになれば「1ラインあたりの月産能力が70万枚として月間7億枚のHD DVDを生産可能なキャパシティーが世界に出現する」(同社)こととなるわけだ。
また、コンパチラインではDVD・HD DVD両方で同じ薬剤を用い、同じ流れで生産を行うことが可能。これを活かして需要に応じた生産の切り替えを行うことも可能という。異なるのはピットがより細かくなり、ディスクごとの固有ID"BCA"が刻まれることくらいだ。同社ではDVDとHD DVDの切り替えを5分で行うことを実現しており、この切り替えの容易さは特に多くの需要が見込めない立ち上げ時にはレプリケーターにとって導入を後押しできる要因となる。原材料が同じなのでコスト増も抑えることができる。また、東芝コアテクノロジーセンター光ディスク開発部部長の大沢英昭氏によれば「コンテンツがHDだからといって末端価格が2~3倍になるとは考えていない。DVDと近い線になる」と、パッケージメディアに収録されるのがHDコンテンツだからといってプレミアが付くとは考えていないようだ。HD DVDに収録されるHDコンテンツの制作費もハリウッド映画など多くの本数が売れるタイトルではスケールメリットを生かして希釈することができる。
同社の予測に従えば、HD DVDの量産体制は既に整いつつあると見ることができる。これを受けてポニーキャニオンからは2005年のHD DVDコンテンツの発売もアナウンスされた。プレイヤーさえ提供されれば、ビデオROMメディアとしての未来はかなり具体的に示されることとなるわけだ。
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