【レポート】

Pervasive 2004から見えてくるユビキタスの未来像

6 「Remembrance Home(記憶する住宅)」、世界デビュー

    美崎薫  [2004/07/01]

    奈良先端科学技術大学の河野恭之・助教授と筆者による「Remembrance Home(記憶する住宅)」も世界デビューとなった。

    Vannevar Bush氏の「As We May Think」がThe Atlantic Monthly誌の1945年7月号(Vol.176, No.1)に掲載になり、マイクロフィルムを用いた機械じかけのハイパーテキスト内蔵デスク「Memex」が提案されて以来、多くの研究者が記憶をよみがえらせるメカニズムを提案してきたのだが、ついに筆者らもその末端に名を連ねることがかなったのであった。

    本誌読者の方にはすでにおなじみだと思うが、「記憶する住宅」は、見たものすべてをデジタルデータとして取り込み、それを常時スライドショウすることで記憶を活性化させることを目的とした実験住宅である。現時点では、そのために必要とする機材の分量が半端でないため、日常生活と融合させるために、機材を床下/天井収納などに格納して生活空間から排除している。

    記憶研究の観点からというと、静止画ベース、手動タグデータベースということになる。2004年5月26日現在で静止画63万件は、世界規模で見ても最大級だろうと自負している。先のFrigo氏は1日53枚平均の写真を撮っているようだが、筆者は2003年には年間に4万枚の写真を撮っている。平均109枚となり、規模は倍である。

    不本意ながら、今回いちばんウケたのは、床下から迫り上がる電動床下収納だった。秘密基地系である。世界でも、動くものへの関心は高いようだ。

    会場では、米HPの研究者から、それほど大量の画像を記録してプライバシーはどう考えているのか、という質問をいただいた。「記憶する住宅」の蓄積データは基本的に非公開なので、プライバシーの問題は発生しにくいと考えるが、まずプライバシーや権利問題からクリアしていこうとするところに、アメリカという国の考え方を感じさせられた。

    日本でも、各種名簿や個人情報の漏えいという問題は続いており、今後膨大なデータを個人でもためられる時代には、プライバシー問題をどう解決していくのかを真剣に考えていく必要があると感じた。

    「Remembrance Home(記憶する住宅)」のプレゼンテーションを行う筆者。写真は奈良先端科学技術大学の河野恭之助教授による

    A Framework for Personalizing Action History Viewer(個人の行動履歴ビューアーのためのフレームワーク)

    慶応大学・伊藤昌毅氏の「A Framework for Personalizing Action History Viewer(個人の行動履歴ビューアーのためのフレームワーク)」の「mPATH」は、デジタル写真とGPSを組み合わせて地図上に写真をマッピングするシステムである。地図と写真は、強力な記憶の想起機能をもつインデックスとして役立つものである。そのときに起こったことを思い出すのに使えそうだ。

    記憶を蓄えるシステムとしてのビデオやウェアラブル系は、現時点ではかなり大がかりになってしまい、継続的な利用が困難だといえる。今回の発表のなかでも、ビデオ系は記録するだけで大がかりなものとなってしまって、その分析を行って成果を出すところまでいくためには、たいへんな困難が待ち受けていそうだった。それに較べて写真を使う伊藤氏の研究は、持ち歩くものも少なくシンプルだ。使用するのは、デジタルカメラとGPSだけである。

    慶応大学の伊藤昌毅氏。常時GPSとデジタルカメラをもっているという

    mPATHでは、GPSとデジタルカメラの時刻情報をマッチングして地図上に写真を配置してくれる。その他、フィルタを変えることでさまざまな機能を扱える

    デジタルカメラとGPSはどちらも時刻情報をもっている。そこで、その時刻情報を組み合わせて地図上にマッピングする、というしかけである。

    従来、デジタルカメラにGPSを組み込むという展開が求められてきたり、GPSつき携帯電話で写真を撮る、という試みは行われてきたが、それぞれ単機能のGPSとデジタルカメラを組み合わせるこの方式はシンプルで継続するのも容易そうに思える。

    それぞれに新機能を追加する必要もなく、肩などにGPSを固定してしまえば捕捉に気を配る必要もないようだということで、じつにバランスがよい。このシステムは、ちょっと試してみたいものだ。

    最後に、チェアマンのブリティッシュコロンビア大学のSidney Fels氏が「Memory and Sharing of Experiences(記憶と体験共有)」を総括した。そこで確認されたのは、ひとつはSharing of Experiencesとはコミュニケーションのことを意味する、ということ。そして、記憶と忘却とは紙一重であること、構築された物語が重要な価値をもつこと、語りによって物語は変貌し続けるだろうことなどであった。今後、ますます記憶をテーマにした研究は充実してくるだろう。

    チェアマンのブリティッシュコロンビア大学のSidney Fels氏

    「Memory and Sharing of Experiences(記憶と体験共有)」を総括した

    共有し再生することで記憶は変わるだろう、という

    記憶の共有とはコミュニケーションなのだ

    プライバシー、セキュリティなどを考えることも重要

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