【レポート】
6月2日、3日、東京ビッグサイトで行われた「LinuxWorld Expo Tokyo/2004」のカンファレンスでは、Linuxベンダのプレゼンテーションだけでなく、ユーザによる事例も紹介された。本稿ではその中から教育・行政・通信分野での導入事例についてレポートし、現在のLinuxが置かれている状況を考えてみたい。
まず、東京工科大学コンピュータサイエンス学部の工学博士、田胡和哉氏による講演から、教育研究機関でのLinux利用の実情を見てみよう。東京工科大学は八王子にキャンパス、蒲田にブランチを持ち、コンピュータサイエンス学部、バイオニクス学部、メディア学部の3学部がある。1学年約1,300名の学生が在籍しているが、全員、入学時にWindowsとLinuxのデュアルブートが可能なPCを所持することが義務付けられている。特にコンピュータリテラシ教育ではLinuxを用いており、コンピュータ操作に不慣れな学生も、基礎をEmacsやTeXを使って学んでいるという。
東京工科大学のLinuxへの関わりには、「ITユーザとしての大学」と「教育機関としての大学」という2つの側面がある。前者としては、知的生産工場としての大学の生産性向上をどのように行っていくかという課題、後者としては、日本のソフトウェア産業が生き残るために必要な人材を育てる、という課題に取り組んでいるという。
知的生産工場としての同学では、CGを中心としたデジタルコンテンツの制作が盛んだ。制作作業には学生だけでなく、外部のプロフェッショナルも参加しており、モーションキャプチャ・システムや専用のスタジオといった設備も充実している。こういった環境の中で、最も重要な課題となるのが「情報共有」だ。膨大なコンテンツを効率的に共有するため、大規模なファイル共有インフラが必要となるのだ。
教育機関としての同学では、今後の日本のソフトウェア産業に最も必要とされる人材を「企画立案」のできる人材であると考えている。コーディングができるだけのエンジニアではなく、ビジネスとして、テクノロジを考え、将来のビジョンを提示できる人材を育てる必要があるということだ。
これらの課題に対し、同学では「Linuxオープンソースソフトウェアセンター」の設置を決定した。これは文部科学省の私学高度化助成を受け、平成16年度から5年間の事業として実施されるものだ。ドイツ、アメリカ、カナダ、中国など、海外の各大学とも連携し、オープンソースソフトウェアの開発を通して高度技術者の育成を目指す。なぜこのプロジェクトでLinux、オープンソースソフトウェアを選択したかについて、多胡氏は、「Linux、OSSならばプロジェクトの立ち上げが容易である。また、オープンソースによって海外の開発者とも連携できる可能性があることは、世界に通用するプランを作成できる人材を育てる上で大きなメリットになる」と語った。
実際に開発するソフトウェアは、大規模情報共有のための自己最適化機能を持つ「コミュニティ・ストレージ」。NFS v4を拡張することで実現するとのことだ。
次は、行政でのLinux活用事例。兵庫県洲本市の情報政策部部長の赤澤保守氏の講演だ。洲本市は淡路島の南東、人口約4万人の自治体だが、今期で3期目の中川啓一市長が情報産業出身ということもあって、IT化には特に力を入れてきた。
まず、平成7年から11年の一期地域情報化プロジェクトでは、市内のCATV網整備、庁内LAN、阪神大震災の教訓を活かした災害情報システムの開発、地域コミュニティネットワークシステムの開発などが行われた。続く二期、平成12年から15年にかけては、学校・公民館や公共施設をネットワーク接続し、団体活動支援システムの開発と、活発なIT化投資が行われてきた。
洲本市でのLinuxの活用は、やはりまずサーバ分野からはじまったようだ。当初、DNS、メールサーバに商用OSを利用していたが、安定稼働が確保できず、障害が頻発した。これをLinuxをベースとするオープンソースソフトウェアの構成に切り替えたところ、まったく停止することなく稼働するようになり、信頼が深まったという。その後、災害情報システムや団体活動促進支援システムを、Linux、Apache、PostgreSQL、PHPという、所謂LAPPプラットフォーム上に構築する。特に、団体活動支援システムでは、市民団体がWebブラウザから動的にWebページを生成する、最近流行のCMS的な仕組みをPHPで実現した。これも当初はJavaで開発する計画だったが、技術的な困難もあって想定したパフォーマンスを引き出せなかった。行政の事業のため厳しく期限が定められており、Javaでは開発が間に合わないと判断し、より短期間に開発できることを見込んでPHPを採用したという。さらに、庁内LAN上でもWebブラウザから利用できるグループウェア・システムや、Sambaによるファイル共有等を活用し、TCOの削減を実現している。
最近では、平成8年以来使用してきたシステムの陳腐化・老朽化に伴う機器のリプレースも進んでいる。関連行政組織がソフトウェアをバージョンアップしていく中、共有する文書が旧バージョンのソフトウェアでは開けないといった問題も多く起きるようになった。しかし、バージョンアップには多大なコストがかかるため、洲本市ではデスクトップも緩やかにオープンソースソフトウェアに移行しようとしている。新たに導入した200台あまりのPCは、全てWindows XPとFedora Core 1のデュアル・ブートに設定し、オフィススイートもOpenOffice.orgの利用に段階的に切り替えていく方針だ。
洲本市の活動はオープンソースソフトウェアの利用に留まらない。「オープンソースコミュニティin淡路(OSCA:オスカ)」プロジェクト構想を立ち上げ、ITベンチャー育成、オープンソースソフトウェア開発といった事業を推進している。現在、OSCAの協議会には日本IBM、NTT西日本、NEC、富士通といった企業を含む23団体が参加し、ITの利便性を市民が直接享受できるモデルの構築を目指している。
これらの活動を通し、洲本市は平成15年4月、国が定める「構造改革特別区域」の「ITベンチャー育成特区」として認定された。洲本市で起業するベンチャー企業は、税制の優遇、利便性の高いオフィススペースの低額での供給、光ファイバーによる高速な通信環境といった、行政からのサポートを受けられる。
赤澤氏は、行政からみたオープンソースソフトウェアに対し、「ITコスト高騰の見直し、調達の公平性、メーカ依存からの脱却」といった点で期待を寄せているという。コストダウンはもちろんのこと、ベンダに依存しないオープンな技術を利用することで公共性の高いソフト開発能力を確保し、かつ新規雇用創出、育成を目指すには、オープンソースが適しているということだ。
ただ、洲本市の目標は決して技術を優先するものではない。赤澤氏は、あくまでも市民サービスとして、情報技術が市民の利益に結びつかなければならないと語る。現在のシステムも、Linuxを使ったシステムとして決して目新しいものではないが、発想として正しい方向に進めているということだ。これも特定のベンダに依存せず、自力でオープンソースを使いこなしてきたからこそ言えることだろう。
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