【レポート】
「Beyond 3Gに関する国際会議」では、3G以降の世代の携帯電話に関するさまざまな技術に関する紹介が行われたが、その中から本稿が取り上げるのは「ケータイ向け放送」関連のプロトコルに関するセッション。携帯電話向け放送に関しては日本でも地上デジタル放送との関係が話題を呼んでいるが、それ以外にも実際には様々なプロトコルが提案されており、現在しのぎを削っている状況だけに、それらの開発状況に注目が集まった。
最初に登場した日立中央研究所の田辺史朗氏は、3GPP2で策定された「BCMCS(Broadcast/Multicast Services)」プロトコルを解説した。端的に言ってしまえばこれは「通信網上でマルチキャストを利用して映像などのデータ配信を行う」ためのプロトコルで、田辺氏も冒頭で「デジタル放送に比べ、BCMCSは短時間・ナローバンド向けのプロトコル」と解説した。
BCMCSで特徴的なのが、交換局レベルでマルチキャストによるパケットの複製がサポートされること。コンテンツサーバから送り出されたデータはマルチキャストルータなどを通ってネットワーク上に流されるが、これがモバイル端末の直近の交換局に到達した段階でパケットが複製され、同交換局につながる基地局の各モバイル端末に対してパケットが配られることで、効率よくネットワーク上の各端末に同じパケットを配ることが可能になる。
もちろん視聴権限を持たないユーザが勝手にコンテンツを見ることのないようにセキュリティフレームワークも用意されていて、いわゆるチャレンジ・レスポンス方式に近い形でのユーザ認証を経て暗号化されたパケットをマルチキャスト配信することで、権限を持たないユーザを排除することが可能になっているという。BCMCSは3GPP2準拠端末以外の環境で使用されることも考慮されており、マルチキャストを利用したテレビ会議やE-Learningシステムなどへの応用が期待されているとのことだ。
続いて登場した韓国・電子通信研究院(ETRI)のSammo Cho氏が紹介したのは、欧州の『Eureka-147 Project』で開発されたデジタルラジオ放送の規格である「DAB(Digital Audio Broadcasting)」をベースに、MPEG-4映像などの伝送を可能にした「DMB(Digital Multimedia Broadcasting)」規格。今回紹介されたのは、その中でもVHF帯による地上波放送のプロトコルをベースとしているタイプで、従来のアナログテレビ放送1チャンネルの帯域で、512kbps程度のMPEG-4映像3チャンネルに加え音声もしくはデータチャンネルを10チャンネル、合計で最大約1.7Mbpsのデータを伝送できるという。
ただDABは元々音声伝送のみを想定して開発されたため、許容されるエラー率(BER)が10の-4乗と比較的高く、映像伝送を行うには厳しい部分があることから、エラー訂正のために新たにリードソロモン符号とインターリーブを追加することで、BERを10の-8乗まで低下させている。映像・音声の統合にはMPEG-2 TSを利用するなど、今既にある技術をうまく応用することで映像伝送を実現させている点はなかなかおもしろい。
フィールドテストは既に昨年から実施されており、時速120kmでの移動中にも問題なく受信が可能なことが確認されたほか、都市中心部のような電波状態の悪いところでも問題なく受信が行えているということで、会場では実際にフィールドテスト時の受信デモの様子(動画)も披露されていた。韓国内では早ければ今年中にもこの規格を利用した商用サービスが開始される見込みとのこと。
この両者に加え、3G世代におけるデータ放送全般の概略を解説したNokia ChinaのJari Vaario氏が加わったパネルディスカッションでは、中国・韓国の現状並びにケータイ向け放送の問題点が語られた。
まず中国については、Vaario氏は「今はどの規格を使うか選定作業を行っている段階で、(放送開始時期なども含め)まだ何も決まっていないはず」とだけ語り、規格提案が数多く出され一本化調整が難航しているといわれる中国の現状をうかがわせた。一方韓国は前述した地上波DMB以外に、SK Telecomなどが日本のモバイル放送と協力して準備を進めている衛星DMBも「今年9月のサービス開始を目指している」(Cho氏)とのことで、両者とも送受信機の開発・製造が既にスタートしており「サービス開始に当たっての問題はないだろう」との見解が聞かれた。
また司会を務めたNHKの国分秀樹氏から「単純にBroadcast/Multicastをネット上でやるのに、100万以上のユーザに対して安価に対応できるのか?」という疑問が出されると、田辺氏は「プロトコルなどはさほど問題にならないが、おそらくQoSが問題になる」「BCMCSはAll-IPベースのプロトコルだが、リアルタイム通信をAll-IPで行うと大きな問題になるかもしれない」と語り、「場合によっては当面は音声と映像を別チャネルで流すような形態も考えられる」と、まだケータイ向けのマルチキャストには課題が多い様子がうかがわれた。
この点についてはVaario氏も「放送局は既に周波数を持っており、メーカーが受信機を作りさえすれば少ないコストで簡単に新規参入できるが、ケータイ事業者にとってそれはおもしろくない事態だ」と述べ、技術的な側面とはまた別に、事業コストの面でネットによるデータ配信には難しい面があるとの見解を述べた。
これを受けて国分氏は「放送局の立場として、All-IPの受信機が実現すれば情報化社会へのゲートウェイとなり、放送と通信の境目がなくなるものとして期待している」とコメントしていたが、現実には放送と通信の境目をなくす動きには抵抗もあり、ケータイ向け放送は当面は従来の放送の枠組みを利用した形に落ち着きそうな気配である。
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