【レポート】
世界人口の約5分の1は中国(中華人民共和国)に住んでいる。OECD(経済協力開発機構)の推定によると、1995年に12億に達した中国の人口は、2040年には16億人のピークに達するという。もちろんなにごとも数がすべてではないとはいえ、この数的優位を活かして中国が世界市場を牽引していく可能性を秘めていることを否定することはできないだろう。
例えば、すでに今年初めの時点で、中国のインターネットユーザー数は8,000万人を超える勢いになっており、1年間で2,000万人以上の新規インターネットユーザーを獲得し、前年比約35%増という急速なペースで増加し続けている。これだけ増えていても、総人口が膨大であるため、まだインターネットユーザー数が総人口に占める割合は1割未満である。日本を始めとする先進国の市場が飽和に近づき、新規の需要に翳りが見られてくるのをよそに、今後も中国のインターネットユーザー数はハイペースで増加の一途をたどることだろう。世界最大の人口を抱える中国が、インターネットユーザー数でも世界一を記録する日はそう遠くないと見られている。
PC、携帯電話、家電製品など、中国のIT関連市場の堅調な伸びを示す数字には枚挙にいとまがない。中国の大市場で成功するならば、かなりの利益を期待できるため、世界のトップメーカーも中国市場への取り組みは真剣である。逆に、中国市場でシェアを失うことは、今後のビジネス展開において大きな障害になりかねないとさえ言えるかもしれない。
その中国市場において、Linuxが普及しつつあるようだ。例えば、中国のPCサーバ市場ではLinuxのシェアが年間150%増の伸びを示している、中国内のソフトウェア開発者の65%がLinux対応アプリケーションの開発に取り組んでいる、中国企業のCIO(最高情報責任者)の4割がLinuxの導入を積極的に検討している、といったリサーチデータが調査会社のIDC、Goldman Sachs、Evans Dataから発表されている。
なぜ中国でLinux開発に力が入れられているのか? 中国科学院ソフトウェア研究所から誕生し、昨年は150万本に上る「Red Flag(紅旗) Linux」シリーズのソフトウェアをOEM出荷して勢いに乗る中国Red Flag Software(北京中科紅旗軟件技術有限公司)にスポットを当てることで、そんな疑問を解くカギも得られるかもしれない。
ここで少しアジア地域におけるLinuxの浸透状況に目を向けてみよう。興味をそそる最新情報が、世界銀行によって、発展途上国のデジタルデバイド(情報格差)解消を図るプロジェクトの一環で設立された「Information for Development Program(infoDev)」より出されている。まずは、世界各地のオープンソース・ソフトウェア普及状況を調査した「Open Source Software - Perspectives for Development」レポートを取り上げてみたい。
同レポートは、その冒頭において「世界銀行は決して特定のOSソフトを強く推奨する立場を定めているわけではない」と断りつつも、オープンソース・ソフトウェアに対する関心が世界中で高まっており、とりわけデジタルデバイドを解消する上で成し遂げられている事例を考慮するなら、今後は世界の指導者がイニシアチブを握り、より積極的にオープンソース・ソフトウェアの採用を進めていくよう促している。
その具体的な事例としてオープンソースで進行中のプロジェクトに挙げられたのは、いずれもアジア地域からの報告である。まず、中央アジアのタジキスタンで行われている「Mandrake Linux 9.1」のローカライズに関するプロジェクト。同国の公用語となるタジク語にて利用できるデスクトップOSを提供することで、国民のIT意識を高めることが目標とされており、タジク語のPC環境を整備して学校教育に導入することもプロジェクトに盛り込まれている。
Khujand Computer Technologiesが主導する同プロジェクトは、タジク語のWindowsが提供されておらず、たとえ発売されたとしても、高額のライセンス料金がPC普及の妨げとなっていきかねないことを懸念し、オープンソース・ソフトウェアに解決策を求めて立ち上げられたという。同国のGDPは、旧ソ連に属した15の共和国の中で最低ラインに位置しており、人口約680万人の平均賃金は月額US20ドルほどでしかない。とはいえ、同プロジェクトを率いるRoger Kovacs氏は「コンピュータとソフトウェアを整えて良質の教育を施すなら、必ずタジキスタンは繁栄していくだろう」との希望も語っており、今後の展開への期待を表明した。タジク語キーボードのレイアウトを定めることからスタートした同プロジェクトも順調に進んでいるようで、デスクトップOSとなるMandrake Linuxに続き、KOffice SuiteやMozillaのローカライズ作業に入り、年内にタジク語のPC環境を正式に発表することが目指されている。
インドのゴア州では、学校教育におけるPC活用を促す「Goa Schools Computer Project(GSCP)」プロジェクトが1996年より進められてきた。政府から各学校に対してPCが供給されているものの、2002年からはRedHat Indiaの協力を得つつ、中古PCを回収してLinux環境にセットアップし、より多くの台数を提供することが目標とされている。すでに同州の125の学校で、Linuxを導入した授業がスタートしたという。
GSCPのプロジェクトマネージャーを務めるAlwyn Noronha氏は「中古PCとオープンソース・ソフトウェアのコンビネーションがあったからこそ、地方都市にも低コストでPC導入を進めることができた」と語っており、デスクトップOSのみならず、オフィスソフトに「Gnumeric」や「Abiword」を、昨年からはリリースされたばかりの「OpenOffice.org」を採用したからこそ、GSCPで十分な成功を収めることができたとの見解を示している。もしも特定メーカーの製品を用いるなら、中古PC本体よりも高いソフトウェアを搭載しなければならず、これほど多数のPCを提供するには至らなかっただろうともコメントされている。
他にも各国へ普及するLinuxの調査状況として、フィリピン政府はAdvanced Science and Technology Institute(ASTI)の指導のもとに独自開発の「Bayanihan Linux」をリリースしてオープンソース・ソフトウェアを公的に推奨していること、パキスタン政府は「Linux Force」と呼ばれるプロジェクトチームを結成してLinux普及への道を探っていること、マレーシア政府は「OSS-Platform Investment Programme」と呼ばれるプロジェクトを立ち上げてオープンソース・ソフトウェアの開発に携わる企業を公的に支援していること、タイ政府はタイ語版のLinuxとなる「Linux TLE」およびオフィスソフト「OpenOffice.org」を標準搭載した低価格PCを販売してデジタルデバイドの解消を狙っていることなど、アジア地域で広くLinuxを支持する動きが強まっている様子が報告されている。ユニークなプロジェクトとしては、東南アジアのラオスにおいて、自転車のペダルをこいで得られる動力でラオス語版のLinuxとなる「LaoNux」を搭載したPCを稼動させ、インフラの整わない郊外の村でインターネットを楽しめるようにする計画が進められているという。
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