【レポート】

"韓流" - 中国市場に押し寄せるコリアンウェーブ

1 日中経済交流と中国の台頭

    薄田雅人  [2004/03/30]

    中国の台頭が生産と市場の両面から驚異の眼差しで語られてきている。一昔前まではせいぜい労働集約型軽工業の加工製造拠点、いわば労働力コストのみが魅力とされていたのが中国だ。消費市場としてはほとんど現実的な話題になりにくかった。低廉な労働力コストの裏返しが、消費購買力の低さと見なされたからである。

    日本企業は中国への進出が早かった。少なくとも、これから本稿で述べる韓国企業よりはかなり早かった。80年代後半には大連工業団地が造成され始めたし、松下電器産業の北京におけるブラウン管工場のような、本格的な日中合弁企業も立ち上がっていた。

    中国政府は、外資導入を中国語で「外資利用」と明快に言い換えていることからも分かるように、先進国企業からの直接投資受入を、技術や資本を中国(企業)に移転するために必要不可欠な基本戦略として当初から捉えていた。さらに外資の受入は、すくなくとも90年代半ばまでは、国有企業とその従業員らを救済し得る最後の機会になるかもしれないと考えられていたから、外資側は、しばしば投資先行政機関から国有企業との合弁を半強制的に迫られたりしたものだった。

    日本企業はこうした「苦難の時代」から中国とのお付き合いを始めているわけだが、加えて、日本企業が本格的な対中直接投資を面のレベルで展開し出したのが大連=中国東北部であることにも注意しておこう。大連は--すくなくとも中国側にとって--日本の大手製造企業を誘致するためのショーウインドウだった。中国の低廉な労働力を利用して工業製品を組み立て、日本をはじめとする先進国市場を輸出する。それが輸出加工開発区の謳い文句だった。中国政府は部品や資材調達に関する保税措置を講じるなどの便宜を大いに図ったから、日本の大手企業も大いに進出するところとなり、さらにはこれにともない中小メーカーも我先にと大連やその郊外、あるいは近郊衛星都市へと立地したのである。

    日本企業はその後、あるときには中国政府の猫の目のように変わる外資政策--とりわけ租税政策--に翻弄され、またあるときは国有企業との合弁のなかで、訳の分からない使途不明領収書の山を前に頭を抱えるといった辛酸を嘗めながら、おおよそ90年代の末期までを過ごした。とくに大連に進出した大手メーカーについていった中小企業などは、大連郊外の農村部や国有企業城下町で典型的な「東北病」--中国東北部は元来国営メーカーの一大集積地域であるが、市場経済体制のなかではそれがアダとなり、疲弊した旧計画経済体制を象徴する地域になった--に苦しむ中小衛星都市に工場を構え、非常な苦労をしたわけである。

    90年代初めから97、98年ごろまでの中国における投資経営の経験は、日本企業、より広い意味での「日本人」に、生産拠点としての魅力はあるものの、現実的な消費市場としては、まだまだ貧弱なものでしかない、という中国観を強く植えつけてしまった。外から材料を持ってきて加工賃だけを現地でおとし、製品はまた日本などの海外で売りさばく--。労働力コストの優位性にのみ中国の活用法を見出した結果、必然的に生まれた中国観であった。

    圧倒的に貧しいが勤勉な国民と、圧倒的に低いままの労働力コスト。こうした中国観から導き出されたのが「世界の工場」としての中国活用法であった。生産拠点としては理想的であるが、国民一人当たりのGDPではアフリカの発展途上国並み。市場としてはまだ先の話というわけである。しかし実のところ、所得格差が世界でもまれなほど激しく、おまけに高額な品でも購買意欲の高い中国の消費者が沿海都市では確実に生まれてきていた。結果として、多くの日本企業が中国における真の消費者の誕生に、中国事業のスタートラインを合わせることができなかった。自動車しかり、携帯電話しかり、であったのである。

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