【レポート】

ロボットに必要なのは実はギガビットネットワーク?

    佐藤晃洋  [2004/01/30]

    1月26日~28日の3日間、都内において「ギガビットネットワーク・シンポジウム2004」が開催された。同シンポジウムは通信・放送機構(TAO)が1999年より日本全国で展開してきた実験用ネットワーク「JGN(Japan Gigabit Network)」の運用が今年度で終了することを受けて開かれたもので、会場ではこれまでの研究成果の総括として数多くの講演やパネルディスカッションが行われたほか、研究成果のデモも行われた。

    ○ロボットにこそギガビットネットワークが必要?

    まずご紹介するのは、初日の基調講演に登場したソニーの土井利忠氏。土井氏と言えばソニーにおいてAIBOやQRIOなどのロボット開発の指揮をとってきたことで有名だが、一見するとこのシンポジウムとはあまり関係がないようにも思える。しかし土井氏は冒頭で「ロボットとギガビットネットワークは実は緊密な関係がある」と述べた上で、ロボット開発の立場からギガビットネットワークに期待する部分について語った。

    ソニーの土井利忠氏

    土井氏は現在コンピュータが使用されている分野の中でロボットが最もその計算能力を必要とする分野であり、「コンピュータの能力が現在の1億倍になっても、それを全て使い切る自信がある」と述べた。その上で、同氏はロボット単体ではきょう体サイズや消費電力などの問題があり無制限に計算能力を上げていくことはできないのに対し、ロボットがネットワークに接続されることでほぼ無制限に計算能力を向上させることが可能になるとして、ネットワークがロボットの発展に対して持つ可能性を示した。

    その上で、現在のブロードバンドネットワークの問題点として同氏は「Latencyの高さ」を挙げた。同氏によると昨年暮れに発表された「走るQRIO」の場合でデータ伝送のLatencyが約4ms。実はこれでも走る動作を行うにはギリギリの数値なのだそうで、同氏は「本当はこれを1msまで短縮したい」とし、現在のInternetでは帯域幅ばかりが重視されてLatencyが軽視されがちなために「今ロボット分野でInternetが使い物になるのはコンテンツのダウンロードの部分のみで、コミュニケーション用途としてもInternetは全く使えない」と述べ、今後Latencyの改善に期待する姿勢をあらわにした。

    また同氏は「現在のInternetは基本的にPCベースのネットワークだが、今後はそのかなりの部分をロボットが取って代わるようになる」と予想した上で「人間とロボットとが言語でコミュニケーションする時代が間近に迫っている」と述べ、今後はその部分の技術開発こそが重要になるとの認識を示した。同氏は最後にQRIOのデモVTRを流しながら解説を行ったが、QRIOで苦労した部分のひとつがこの対話部分なのだそうで、「特にナンセンスな会話に対応するのは難しいため、QRIOではむしろ自分から積極的に話題を振ることでこの問題をクリアしたが、今後はもう少しこのあたりでネットワークとのInteractionを詰めないといけない」との課題を語った。

    ちなみに他にQRIOで計算能力が足りていない部分として、同氏は「自然の景色のLocalizationがうまくいかない(そのためダンス機能などの実行には現在はランドマークが必要)」、「上半身を動かしながら踊る部分(現在はそれだけでCPUをほぼ目一杯使ってしまう)」などを挙げていた。

    ○IEEEはメンバー型組織からコミュニティ型組織への変化を目指す

    基調講演からはもう1つ、IEEE Computer SocietyのPresidentを務めるCarl K. Chang氏の講演もご紹介しておきたい。こちらはややギガビットネットワークという話からは離れ、昨今の時代の流れにあわせてIEEEという組織が今後どう変わっていくべきかと言う話が中心となった。

    IEEE Computer SocietyのPresidentを務めるCarl K. Chang氏

    同氏はまずIEEEという組織について「11~12世紀のギルドに似ており、知的財産を保護しつつメンバーに対しその情報を提供するように努めることが主な役割である」と分析し、最近ではInternetの発達により無料で詳細な研究成果を公開する組織が増えたために、有料での技術情報の販売が主な収入源であるIEEEが打撃を受けていること、かつては技術者間の情報交換のための仲介役としての機能も重要だったものが、やはりInternetの発達でその機能が不要になりつつあることなどから、現在のままの組織の維持が難しくなってきていることを訴えた。

    もちろん組織の維持のためには会費を値上げするという選択肢もないわけではないが、同氏は「既に会費はかなり高い水準まで来ており、これ以上の値上げは困難」との認識を示した。また、世界的な景気後退により組織運営のボランティアも減少しており、会員へのアンケート結果を見ても特に31~45才の世代が、ボランティアへの関心が薄れていることも問題として指摘した。

    ただ、一方で最近は大学や各種のコンソーシアムなどが組織としてIEEEへの入会に関心を持っていることを指摘し、今後はメンバーに対し技術文献を販売する従来の「Member・Productベース」の組織を改め、大学や企業などの組織に対してオンライン教育コースなどのサービスを提供する「Community・Serviceベース」に移行を図っていく必要があると訴え、そのための基礎として昨年策定した「2020年の専門家ビジョン」を紹介した。

    同ビジョンの中でも特に同氏は「Internetによって確かに情報の伝達は速くなったが、一方で間違った情報も速く伝わるようになってしまった」「E-Mailは確かに便利だが、一方で大量のspamの発生も招いた」などといったいくつかの例を挙げ、「技術者はとかく技術のプラス面ばかりを強調したがるが、多くの技術にはプラスだけでなくマイナスの面もある」と指摘、「ギガビットネットワークではコミュニケーションの問題を解決しようとしているが、技術で解決できるのは問題の半分に過ぎず、今後は残り半分のHumanityの部分に力を入れていかなければならない」と訴え、そのために必要なサービスの提供に力を入れていく考えを示していた。

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